第42話「私だからこそ分かる」

 翌朝……

 俺はいつもの習慣で午前3時過ぎに目が覚めた。

 

 半身起き上がって周囲を見回せば、タバサを始め愛娘達はまだぐっすりと眠っている。

 ボヌール村へ来たばかりのジョアンナも仲良く一緒に寝ていた……


 俺は安堵し、軽く息を吐くと……


『パパ、おはよ』


 と呼ばれた。


 これは、高位の魔法使いが使う心と心の会話、念話。

 

 愛娘の中でも、念話の発信を習得しているのは、上級魔法使いの素質を有する長姉タバサのみである。

 

 改めて見やれば……

 眠っていたはずのタバサが、俺と同じく半身起きで、手をひらひら可愛く振っていた。


 ジョアンナを含め、他の者達が寝ているので、タバサとは引き続き念話で話す事にする。


『おう、おはよう、タバサ。もう起きたのか』


『うん、今起きた! 最近パパと同じ時間に起きてるよ』


『おいおい、まだ午前3時過ぎだ。俺は早起きしてるけど、タバサはもっと寝ていて構わないぞ』


『大丈夫! ノープロブレム! 私、パパの跡を継ぐんだから、ボヌール村の守護者になるんだから! パパと同じ時間に起きるの! 今からガンガン鍛えないと!』


 レオとイーサンがこぼしていたように、最近タバサは気が強くなった。

 優しいのは変わらないが、母親のクッカとはまた違うタイプだと思う。


『あのなあ……早起きもガンガン鍛えるって、いかがなものかって感じだぞ』


 俺がそう言えば、タバサはいきなり笑いだす。


『うふふふ』


『どうした?』


 と、聞けばタバサからは、強い歓びの波動が送られて来る。


『すっごく嬉しいの! 私がパパと旅行した時の……妖精のティナもそうだったけど……旅して戻ると、ウチに素敵な家族や仲間が増えて行くよね』


 うん、タバサ、お前の言う通りさ。

 俺は同意し、頷く。

 

『ああ、確かにな』


『うふふっ、……今回は、ジョアンナだもの』


『ああ、そうだな……前にもお願いしたけど、タバサ、ジョアンナを宜しく頼むぞ。しっかり面倒見てやってくれ』


『うん! 任せて! タバサは、パパの頼み事は全部頼まれちゃう! それに話してみて分かったけど、ジョアンナ、凄く頭が良いし、性格も素直で本当に良い子じゃない? だから、家族になってくれて、とっても嬉しいよ』


『ああ、シャルロット、フラヴィ、ララ、ベルにアンジュ同様に、ジョアンナをタバサの妹にしてやってくれ』


 と、俺が頼めば、タバサはにっこり。


『了解! でもでも! ジョアンナは私の妹じゃなく、パパのお嫁さん……ユウキ家のママになりたいんでしょ? 昨夜もそう言ってたよ』


『ああ、この前タバサには言ったが、マチルドさんがそう教えていた事もあって、ジョアンナは自分の面倒を見てくれる人と、結婚しなくちゃいけないと思い込んでいたんだ』


『うん、分かる! でも今は違うよ』


『おお、そうか……違うか?』


 タバサが言い切った。

 思わず、俺は聞いてしまうが……


『そう! タバサには……私だからこそ分かる。ジョアンナ以上に私もパパが大好きだから!』


 ジョアンナ以上に大好きって……

 

 タバサの奴、さりげなくアピールしている。

 ライバル意識?


 下手な事を言えないから、無難に返す。


『お、おう! 光栄だよ』


『うふふ、私はママと同じ! パパはタバサの初恋の人だからねっ!』


 タバサの母クッカは幼なじみクミカの生まれ変わり……

 俺はクミカが、そしてクミカは俺が初恋の相手だった。

 そして、タバサも俺を……


『ははは、そりゃ更に光栄だ』


『うんっ! ジョアンナもそう! 純粋にパパの事が好きなんだよ。初恋だって言ってたもん! 義理とかじゃない、面倒見てくれるとかは別だって、ちゃんと分かってるよ』


『そうか、なら良いけどさ』


『でしょ! ジョアンナは可愛いよ! すっごく美人さんになるよ!』


『ああ、タバサ達と同じで、美人の素敵な女子になると思う。でも8歳じゃ、今、結婚云々うんぬんを言う年齢じゃない』


『まあねえ……あの子は私よりも年下だし、パパの言う事も分かる』


『だろう? だから一応、婚約者という事にして、ジョアンナが大人になるまでの成り行きにしようと思ってる』


『婚約者……それ、ナイスアイディア。ジョアンナは納得すると思うよ』


『ああ、ジョアンナが16歳になって、他に好きな人が居なくて、俺と結婚したいと言ったら、改めて考えるよ』


『うん、それがベストだね。今ジョアンナの恋心を、パパや私達家族が頭から否定しちゃダメだと思う』


『そうだよな。ジョアンナが前向きに生きる気力に影響するからな』


 そうこうしているうちに、ジョアンナが目を覚ます。


「ケン様あ、どこぉ?」


 起きたばかりで、寝ぼけているのか、不安なのか……

 半身起こして、俺を探す仕草が可愛い。

 

 俺とタバサは無言で顔を見合せ、柔らかく微笑んだのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る