第57話「妖精女王の励まし①」

 翌日午後遅く……

 ユウキ家にまた来客があった。

 皆、出払っていて、珍しく留守番の俺ひとりである。


「ただいま、お父様!」


「ケン様あ! 帰って来たよお!」


 俺を『お父様』と呼ぶ麗しい貴婦人、ティファナ様ことティターニア様。

 命を救って以来、俺を慕うタバサの『可憐な親友』女子、ティナことアルベルティーナ。

 ふたりとも妖精が人間に擬態した存在である。


 転移魔法を使い、妖精の国アヴァロンへ『帰省』していたが……

 戻ると言われた日に姿を見せなかったので、問い合わせをしようと考えていた矢先である。


「久々に会ったオベがあまりにもデレっとして甘え坊だから、戻るのが予定より少し遅れちゃった! これ、おみやげ!」


 ……『おいこら夫』から著しく変貌し、今や超が付く愛妻家となったオベロン様。

 ええっと、思い切り奥様から暴露されてますよ。


 笑顔のティターニア様は、ミスリル製らしき小さな缶を差し出した。


 妖精女王が、俺へおみやげ?

 

 当然、俺は臣下が賜るよう、うやうやしく受け取った。


「ありがとうございます! ええっと、ちなみに何でしょう? お茶ですか?」


「ピンポーン! アヴァロン産の魔法ハーブティーよ。まず試飲して貰える? 美味しかったら村で栽培して! 苗も後で届けるから」


 おお、完全に商売に目覚めたティターニア様。

 先日、エモシオンで店舗候補のチェックもしたし……

 その際、差し障りのないレベルで、妖精が作った商品を売りたいとおっしゃっていたから、その第一弾か!


「妖精族の末裔たるアールヴは……アマンダは問題なく美味しいと思うでしょうけど、人間や他種族の口に合ったら、ボヌール村で栽培が『あり』じゃない? この世界で育てても問題はないわ。管理だけしっかりやればね」


「ええ、そうですね」


「うふふ、そしてえ、第二弾はアヴァロン産魔法りんごの加工品を考えているわ。ジャムとか、アップルパイとか、ジュースとか……後で相談に乗ってね」


「もろもろ了解です」


「うふふ、アヴァロンでオベとも相談したけれど、飲食とか物を個別に売るお店ではなく、人間の商会みたいな大きな商売をやろうかって事になったわ。だったら、ボヌール村に事務所を置いて、お父様の傍で仕事が出来るでしょ」


「成る程。とても良いお考えです。ところで今日、この後のご予定は?」


「うふふ、そう聞かれるのを待っていたわ。甘えて構わないかしら?」


「甘える?」


「うふふ、実はティナと一緒に、久々にお夕飯ごちそうになろうかなあって、後でベリザリオも来る予定よ」


「ええ、全然OKで、大歓迎ですけど」


「うわ、大歓迎って、嬉しい! それにね」


「それに?」


「うふふ、アヴァロンでオベと一緒に、一部始終を魔法水晶で見ていたわよ。また可愛い子を助けたじゃない」


「ジョアンナですか?」


「ええ、お夕飯をごちそうになりがてら、会ってちょっと話してみたくなったの」


「話してみたくなった?」


「うん、あの子、私が初めてお父様と会った時に擬態していた『人間のテレーズ』にそっくりじゃない?」


 と、そんな会話をしていた時。


「パパ、たっだいまあ!」

「ケン様あ! 今戻りましたあ!」


 外出していたタバサ、そして噂の主ジョアンナが、一緒に戻って来たのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 やがてユウキ家の全員が帰宅、ティナの父ベリザリオも来て……

 もう完全に気心の知れた妖精3人と、夕食は楽しく終わった。


 念の為、妖精の正体は、嫁ズ、タバサ、今回旅行に連れて行ったレオ、イーサンしか知らない。

 そして、とりあえず人間として3人を紹介されたジョアンナとマチルドさんは、初対面という事もあり、少々緊張気味ではあった。

 俺が、ティターニアに対し、気を遣っている事も何となく感じたようだ。


 さてさて!

 ティターニア様から、ジョアンナと話がしたいという要望が改めて出て……

 場所は俺の部屋で、前夜同様、マチルドさん同席の上、話をする事となった。


 本当はティナと一緒にタバサも入りたいという希望も出たが……

 ティターニア様は、保護者のマチルドさんのみの参加を告げたのである。

 何か、特別な理由があるに違いない。


 と、いう事で俺の部屋へ移動。


 ただならぬ雰囲気に緊張するジョアンナとマチルドさん。

 とりあえず、ふたりが簡単に自己紹介する。


「は、は、初めまして! わ、わ、私、ジョ、ジョアンナ・ボ、ボレルです。ケ、ケン様と暮らす事になりました……」


「は、初めまして! わ、わ、私はマチルド・コ、コンパンです。ジョ、ジョアンナお嬢様と、と、ともに! ケ、ケン様のお宅で暮らす事になりましたっ!」


 すると、ティターニア様が、


「ケン、このふたりには、私の正体を告げた上で、気兼ねなくお話ししたいの、どうかしら?」


 おおっと!

 ……という事は、ティターニア様は、ざっくばらんに本音で話したいという事だ。


「ええ、構わないと思います。ふたりには、俺の魔法とか見せていますし」


 すぐに俺は賛成したが……


 でも『正体』というティターニア様の言葉に、ジョアンナとマチルドさんは過敏に反応。

 無理もないが、ますます、緊張の度合いが増している。


 そんな雰囲気を察して、ティターニア様は柔らかく微笑む。


「うふふ、ケン、フォローしてくれる?」


「了解です」


 と、俺は返事をし、単刀直入に告げる事にした。


「ジョアンナ、マチルドさん」


 俺から改めて名を呼ばれ、ふたりは見て分かるくらい身体が強張った。


「は、はい!」

「は、はいい!」


「怖がらないで大丈夫。この方は高貴で優しい方だ。そして人間ではない、妖精なんだよ」


「よ、妖精!?」

「で、では! ケン様の従士のジャン殿と同じ?」


「ああ、この方は妖精の女王ティターニア様なんだ」


「ええええええっ!?」

「な、な、な~っ!?」


 俺がずばり紹介すると、ジョアンナとマチルドさんは、とんでもなく驚愕してしまったのである。

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