第58話「妖精女王の励まし②」
「ケン様!! ティ、ティターニア様って!? あ、あの!?」
絞り出すようにやっと言葉を発したジョアンナ。
俺は肯定し、言葉を戻す。
「ああ、ジョアンナ。お前も小さい頃、絵本とか童話で見たり、聞いたりしただろう?」
「は、はい! ママはそういう本が大好きだったので、いっぱい読みました。は、話も聞かされました! ま、まさか!? ほ、本物!?」
俺と話すジョアンナの疑問に答えたのは、ティターニア様本人である。
「うふふ、本物よ」
「す、すみません!」
「いいのよジョアンナ、ちなみに貴女の持つ私のイメージって、こういうの?」
ティターニア様はゆっくりと立ち上がり……
ふっと笑い、ピンと指を鳴らす。
すると!
商家奥様風ティファナ様ことティターニア様が、劇的に変わる。
あっという間に!
ティターニア様は、豪奢な青いドレスに包まれた、たおやか且つ高貴な王族女子、
本来の姿へと変わったのだ。
「!!!」
「!!!」
まさに絶句!
言葉も出ない……ジョアンナとマチルドさん。
だが、女王ティターニア様の容姿は、見る者を限りなく圧倒する。
元の商家風奥様姿の方が話しやすい。
そんな俺の気持ちを見抜いてか、柔らかく微笑んだティターニア様は、再び指を鳴らした。
すると!
ティターニア様は、再び『ティファナ様』へ変わったのである。
「うふふ、ジョアンナ。貴女はかつての私にそっくりなのよ」
「え? ティターニア様に!?」
「ええ、私、貴女の事情を知って元気付けたいと思ったの」
「そ、そんな! お、
戸惑うジョアンナ。
ティターニア様は、再びピン!と指を鳴らした。
すると!
またもティターニア様の容姿が変わった。
10歳くらいの、金髪碧眼、ジョアンナより少し年上、現在のタバサと良く似た少女が現れたのである。
「この姿がケンに……初めて出会った時の私……妖精少女テレーズよ」
「!!!」
「!!!」
微笑みかける少しおしゃまで可憐な少女に……
ジョアンナとマチルドさんは、再び言葉を失くしていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しばし経って、ジョアンナとマチルドさんが落ち着き……
頃合いと見たのか、テレーズの姿のまま、ティターニア様は話し始めた。
「私……以前、夫と上手く行っていなかったの」
おお、いきなり夫婦間のトラブルをカミングアウトか。
オベロン様の許可……取っているよなあ……
「「「……………」」」
ジョアンナとマチルドさんも、俺も空気を読んで無言。
黙って話を聞いていた。
「私は夫と仲良くしたかった」
「「「……………」」」
「でも夫は傲慢で冷たかった。仲良く暮らしたいとお願いしても、私の言う事など一切聞き入れてくれなかった」
「「「……………」」」
「箱入りの私はどうしたら良いのか分からず……そんなある日、神様から神託を授かった」
おおっと、『神』という曖昧な言い方か。
さすがに『管理神様』って言わないんだな。
「「「……………」」」
「神託とは……人間の世界へ赴き、ケンという人間に会い、一緒に暮らせという事だった」
「「「……………」」」
「でも夫の影響で極度の男性不信に陥っていた私は、妻がたくさん居るというケンなど信じられなかった。とんでもなくふしだらだと思ったもの」
「「「……………」」」
「だから魔法で変身し、擬態したこの少女テレーズの姿でケンに会った。子供ならばくどかれたりしないと思ったのよ」
「「「……………」」」
「予想していたのと違って……ケンはまじめで誠実だった。妻全員をしっかり真摯に愛していた」
「「「……………」」」
「今考えたら恥ずかしいけど……あの頃の私は夫に劣らず高慢だった。人間も大嫌いだった」
ええっと、そうだよねとか、余計な事は言わない方が良い。
……ノーコメントだな。
これって……
「「「……………」」」
「そんな私をケンは奥様達とともに受け入れてくれた。お客さん扱いせず家族として扱って貰った。今のジョアンナみたいにね♡」
「「「……………」」」
「私はケンから、いくつも仕事を任された」
「「「……………」」」
「子守りも掃除も料理も畑仕事も全部やったわ。だから今、アヴァロンでも全て出来るの! うふふ、あの頃を良く思い出すのよ。私の一生の思い出だって」
「「「……………」」」
「子供に変身した私は、ボヌール村へ来た時、ケンから言われたの。俺を父か兄と思えって」
ああ、確かに言った。
中身はともかく、あの時のテレーズは表向き10歳の女子だもの。
「「「……………」」」
「最初は……は? と思ったけど……ケンは温かかった。優しかった。私の心にぽっかり開いた穴をていねいに、しっかりと埋めてくれた……私はケンに対し、父として兄として思い切り甘えたわ」
「「「……………」」」
「やがて……夫が迎えに来て、ケンが
「「「……………」」」
「以来、私と夫は仲直りし、ず~っと仲良く暮らしているの。全てケンとその家族、そしてこのボヌール村のお陰なのよ」
「「「……………」」」
「私の思い出話は以上。今では私と夫のオベは思い出深いこの村を見守り、こうして仕事と遊びにも来るの」
「「「……………」」」
「だから、ジョアンナ、お節介で申しわけないけれど、ボヌール村へ来る貴女の事情は、私とオベが全て魔法で調べたわ。貴女がケンに助けられてからね」
「そ、そうなんですか!?」
「ええ、お母様がお亡くなりになったり、大変だっただろうけど、ケンならば大丈夫! 私と同じくいろいろ助けて貰いなさい。そして私は、貴女がケンの妻になる事を応援する! 絶対幸せになりなさい! 頑張ってね!」
ケンならば大丈夫!
妻になる事を応援する!
絶対幸せになりなさい!
頑張ってね!
自分を心配してくれるティターニア様の熱い檄。
ジョアンナは、感激したようだ。
「は、はい! ティターニア様! ありがとうございます! ジョアンナはケン様の妻となり、絶対幸せになります! 頑張ります!」
「うふふ、そしてここで貴女にアドバイス」
「私へ? アドバイス?」
「ええ、ジョアンナの最終目標はケンの恋人、妻だとしても、貴女は、まだ8歳じゃない。ケンに対し、昔の私と同じく、父として兄としても、大いに甘えて構わないと思う」
「え? 私が妻だけでなく、ケン様を父として、兄としても甘えるの……ですか? 良いんですか?」
「うふふ、私はふたりきりの時、ケンをお父様と呼んでいるの」
「え? ケン様がティターニア様の?」
「ええ、ケンは私の父であり、兄でもある。あくまで個人的な意見だけど……その方が凄く楽しいし、いろいろな形でケンに甘えられ、気持ちに余裕が出来るわ……それに私も『恋』は経験しているから、ジョアンナの気持ちは良く分かるの」
それに私も恋は経験している……
ジョアンナの気持ちが良く分かる……
テレーズに擬態したティターニア様は、最後には意味ありげにニコッと笑い、
ジョアンナへVサインを突き出したのである。
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