第56話「私もっともっと幸せになります!」

 その夜……

 アンリとエマさんはユウキ家へ来て、楽しく夕食の時間をともにした。


 今や完全にボヌール村の一員となったアンリとエマさん。

 ウチの子供達にも頼れるお兄さん、お姉さんとして大人気だ。


 そして夕食後……

 俺の部屋で、マチルドさん同席のもと、ジョアンナは、アンリ、エマさん夫婦と、話し込んだのだ。


 父が騎士爵、母がその使用人……ジョアンナと同じく、秘めた関係から貴族の庶子として生まれたアンリの出自……

 虚しいとしか言えない寂しい母の死。

 

 愛のない父に引き取られてから、兄達からの酷いいじめ、辛い地獄の日々……

 オベール家へ騎士修業に来てからの俺との出会い、いろいろなやりとり……

 そしてエモシオンで、俺とともに助けたエマさんと出会い、騎士への道を捨て、農民となりボヌール村へ移り住んだ事。


 一方、王都で暮らしていた孤児院育ちのエマさんは、唯一の肉親であった兄の死を機に、ひとりぼっちとなり、エモシオンへ旅だち……

 そこでアンリに救って貰い、心を通わせ、結ばれて、ともにボヌール村へ移り住んだ事。


 アンリとエマさんのここまでの人生を知り、ジョアンナは涙した。

 マチルドさんも、泣いている。

 

 ジョアンナは、幸せになったアンリとエマさんが、仲睦まじく笑顔で寄り添うのを見て、大いに共感したようだ。

 

 そんなジョアンナへ、アンリは、言う。


「ジョアンナさん、いろいろあったけど、俺は今、幸せだ。ケン様に力づけられ、愛するエマと出会って支え合いながら、農民としてこのボヌール村で生きている。王都騎士には、ならなかったけど、全く後悔していない」


「は、はいっ!」


「君も母上が亡くなり、大変な思いをしただろう。けれど、もう大丈夫、絶対、幸せになるんだよ!」


「はいっ! アンリ様! ジョアンナは幸せになります! ケン様と幸せになりますっ!」


「おお、その意気だ。もうマチルドさんだけじゃない。ケン様と新しい家族、そして俺とエマを含めた仲間が居る! 君をしっかり支えるからね!」


 エマさんも、


「ジョアンナさん、何かあったら、ケン様達だけじゃなく、同じ王都生まれの私達にも気軽に相談して! 全力でサポートするから!」


「はいっ! エマ様、宜しくお願い致します!」


 ジョアンナが元気良く返事をすれば、アンリは、


「ははは、ジョアンナさん、俺もエマも、様は要らないよ」


「そうよ!」


 エマさんが同意したところで、俺がフォロー。


「ジョアンナ」


「ケン様」


「アンリにい、エマねえと呼べば良い。構わないよな、ふたりとも」


 俺の提案をアンリもエマさんも快く賛成してくれた。


「はい、構いません」

「むしろ嬉しいですよ」


 アンリとエマさんの言葉を聞き、ジョアンナも、


「では! 私も『さん』は不要です! ジョアンナと呼んでくださいっ!」


「分かった、ジョアンナ!」

「うふふ、ジョアンナは私の妹ね!」


「はい! アンリにい! エマねえ!」


 と、いう事で……

 その後も、いろいろとジョアンナを力づけてくれたアンリとエマさん。

 ふたりは午後9時過ぎ……仲良く帰って行ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 甘えん坊のジョアンナだが、あまり特別扱いせず、徐々に独り立ちさせて行く。

 俺とタバサの意見は一致している。

ジョアンナから『兄』と慕われるレオとイーサンも、彼女の自立を応援してくれている。


 だが今夜は、アンリとエマの件もあり、俺と一緒に寝たい……

 というジョアンナの願いをタバサ達は受け入れてくれた。


 いつもより遅い就寝時間、俺の部屋。


 俺とジョアンナは、手をつなぎ、横になっている。


「ケン様」


 ジョアンナが話しかけて来た。


「おう、どうした、眠れないのか?」


「ええ、もう少しケン様と話していたい」


「ああ、構わないぞ」


「うふふ……ありがとうございます。ねえ、ケン様」


「何だい」


「アンリ兄の生い立ちって……まるでジョアンナと一緒ですね。だからケン様と同じく、私の気持ちを良く分かって頂いたと思います」


「ああ、そうだな」


「ご両親が居ないエマ姉も愛するお兄様を亡くし、アンリ兄に巡り合った。ママを亡くした私も気持ちが分かります。うん! ケン様のおっしゃった通りです。アンリ兄とエマ姉の話を聞いて、ジョアンナは、とっても元気が出ました!」


「おお、良かったな」


「はい! 私、王都で暮らしている頃は、マチルドは優しかったけど……どんどん寂しくなって行きました。ママが亡くなって、パパから見捨てられて……でもボヌール村に居ると、大好きなケン様、大勢の家族がそばに居てくれる! 周りに素敵な人達がどんどん現れて、私を元気にしてくれる!

私はみんなに支えて貰っている! だから一人前になったら、私も皆を支えなきゃ、元気にしなくちゃ、って思うんです!」


「ああ、支え合って、元気にし合って……そうやって人間は幸せになっていくんだ」


「うふふ、ケン様」


「おう!」


「私、もう幸せです!」


「いやいや、まだまだだろう? ジョアンナはもっともっと幸せになるんだ」


「はい! 私もっともっと幸せになります! ケン様に幸せにして貰います! 私もケン様を、家族を、仲間を幸せにします!」


「ああ、頑張れ」


「はい! 頑張ります! 見ていてください!」


「ああ、ジョアンナ、ちゃんと見ていてやるからな。お前を絶対幸せにしてやるぞ」


「はいっ!!」

 

 ジョアンナは改めて決意を語ると……

 いつものように、手を「ぎゅぎゅぎゅ!」と握って来たのである。

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