第52話「ジョアンナ、まっしぐら!」
「いらっしゃいませ! 初めまして! 私、ジョアンナ・ボレルです。ケン様と暮らす事になりました」
「いらっしゃいませ! 初めまして! 私はマチルド・コンパンです。ジョアンナお嬢様とともに、ケン様のお宅で暮らす事になりました」
ジョアンナとマチルドさんの紹介も兼ねたユウキ家特製大空屋弁当は……
販売前から多くの村民が待つ大盛況。
弁当は開始から20分もかからず、完売した。
この弁当販売は、ジョアンナとマチルドさんにとっても、接客の良い訓練となったようだ。
数多の商品がある複雑な大空屋の接客とは違い、たったひとつのみ、決まった価格の商品をひたすら売るという反復行為は、最適な経験値の積み重ねであるといえよう。
そして多くの村民と触れ合い、会話をした事で、しっかり紹介も出来、認識もして貰った。
いろいろな意味で『手応え』があったらしく……
ジョアンナとマチルドさんは、晴れやかに笑っている。
俺が尋ねると……
「お弁当を売るの、すっごく面白かったです! サキ姉とも仲良くなったし、思い切り声も出せて最高! またやりたい!」
「本当にそうです! お嬢様の言う通りですわ! こんなに大声を出したのは20年ぶりです!」
ここで、いきなり!
ぐうううう……
と、ジョアンナのお腹が、誰にでも聞こえるくらい大きく鳴った。
8歳とはいえ、ジョアンナはプライド高き淑女。
恥ずかしさで顔が真っ赤になる。
とっさに俺が身代わりに、「腹が鳴った」と言おうとすれば、
「腹減ったあ!!」
「すげえ腹、鳴っちまった!!」
心優しき兄達レオとイーサンが、大声で叫んだのだ。
俺と同じ意図で、可愛い『妹』ジョアンナをかばったのは、明らかであった。
すかさずタバサが突っ込む。
「あ~! レオとイーサン、ジョアンナにばっか優しくしてる!」
シャルロット、フラヴィ、ララも姉に同調。
一斉に、抗議と非難。
「そうだ、そうだ!」
「ずるい!」
「私達にも優しくしろ!」
まあ、タバサ達が本気ではないのも一目瞭然。
なので、俺は見守る事に。
対して、レオとイーサンは、
「分かった! シャルロット、フラヴィ、ララにも優しくする!」
「超鋼鉄の心臓、タバサ姉は大丈夫だろ!」
などと言う。
ここで、「超鋼鉄の心臓だ」といじられたタバサがめげると思えば……
「いいも~ん! 私はパパに優しくして貰うからあ!」
と言い、思い切り俺へ抱きついた。
すると、シャルロット、フラヴィ、ララも、
「パパあ!」
「抱っこ!」
「うっふふう!」
姉に続いて、俺へ抱きつき、ぶらさがる。
嫁ズのふたり、ミシェルとサキはさすがに参加せず、笑って見守っていた。
そしてジョアンナは……
俺に甘えるタバサ達の様子を見て、動けない。
「……ケ、ケン様」
口ごもりながら、俺の名を呼ぶジョアンナ。
どうやら、「遠慮している」ようだ。
俺は愛娘達へ問う。
「皆、ジョアンナも混ざってOKだよな?」
「「「「全然OK!!」」」」
「だってさ! ジョアンナおいで!」
「わう! ケン様あ!!」
タバサ達から許可が出たジョアンナは、まっしぐらに駆け寄り、
がっしと! 思い切り俺に抱きついた。
愛娘ぷらすジョアンナ、女子5人に抱きつかれ、まるで良いとこ取りした俺は……
苦笑するレオとイーサンへ「ごめん」と目で合図をしていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
空の荷車を引っ張り、ユウキ家へ戻ると、朝食の用意が出来ていた。
先述した通り、始めから余分に作った弁当を食べるのだ。
弁当は100食作り、売り切れたから……
この日の朝は、村民の殆どが、同じ朝食を摂る事となる。
朝の労働に行く村民以外にも、弁当を買い、ユウキ家のようにそのまま朝食にする家庭も多いみたい。
焼きたてパンとハチミツ、ハーブ入りの茹でたて大型ウインナー1本と、ハーブをきかせたスモークチキン入りの新鮮サラダ。
飲み物だけは元からある紅茶に、ミルクと果汁を追加。
「いただきます!」
「「「「「いただきます!!」」」」」
『食事の挨拶』が終わり……
わいわいがやがやのにぎやかな朝食が始まる。
ジョアンナは……タバサに誘われ、シャルロット、フラヴィ、ララの愛娘軍団と一緒。
弁当販売の余韻で、早くも盛り上がっている。
マチルドさんも、グレース&ベル、レベッカ&アンジュ、ローラン組と楽しそうに語り合っている。
ここで、学校へ行く子供達へ念を押すのは、ドラゴンママことクーガーの役目。
「ごらあ! お子様軍団! メシ食べたら、ちゃっちゃと支度して、学校だよ!!」
対して、ちゃんと返事をするのも、もうお約束。
「「「「「は~いっ!」」」」」
ジョアンナもタバサに促され、一緒になって元気に返事をしていたのである。
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