第39話「ボヌール村へ①」

 翌日お昼……

  

 レオとイーサンは、

「充分に今回の男子旅を満喫した。ジョアンナとマチルドさんの為に、ボヌール村へ帰ろう」と言ってくれた。


 そして、


「俺、やっぱり鍛冶をやる! オディルさんとオリヴィエさんみたいになる! アメリーちゃんと一生懸命頑張る」

「俺は商人を目指す! マルコさんやアウグストにいみたいになりたい!」


 とも言ってくれた。


 俺はふたりの思いやりをと心の成長感じ、とても嬉しかった。

 レオとイーサンは、俺とともに男子のみの旅をして……

 将来への夢を再確認し、『新たな妹ジョアンナ』とも巡り合う事が出来た。

 今回は、とても有意義な旅になったと思う。


 俺は息子達へ労わりの礼を言い……

 ホテルセントヘレナをチェックアウト。

 ジョアンナとマチルドさんを伴い、ボヌール村への帰途についた。

 念の為、フロントへは、キングスレー商会のマルコさんへの連絡を頼んでおく。


 さてさて!

 転移魔法で直往復するのではない、通常の旅先から帰る方法は、いつもの通りである。


 王都セントヘレナの場合は、巨大な南門を正式な手続きをして出る。

 そしてボヌール村へ通じる南へ延びる街道を、一般の旅人に混ざってゆったり歩く。


 しばし歩き、人の気配がなくなったところで、雑木林など適当な目立たない場所へこっそりIN! 


 次に周囲の気配を確認、安全を確保した上で転移魔法を発動。

 ボヌール村の最寄りへ、瞬時に跳ぶのだ。


 と、いうわけで、事前に注意をして、転移魔法発動。

 先に、アマンダとベアーテが跳ぶのを見せたから、幾分ショックは少ない。


 しかし……

 初めて体験する転移魔法の感覚に、ジョアンナとマチルドさんは小さな悲鳴をあげてびっくりし、身体を震わせ戸惑った。

 無理もない。

 一瞬にして、周囲の景色が変わるのだから。


 そして……

 跳んだ先で、ボヌール村の近郊の雑木林等で、再び周囲を確認。


 安全を確保した上で、空間魔法を行使。

 しまっていた荷馬車を取り出す。

 更に、馬車の牽引役として、自由行動をさせていた妖馬ベイヤールとグリフォンのフィオナを呼び寄せる。

 無論、怖がらせないようベイヤール達の本来の姿は見せず、普通の馬に擬態した姿でだ。


 俺が「ちゃちゃっ」と、当たり前のように作業をしているのを、

 従士のジャンは当たり前に。

 息子のレオとイーサンは「お父さん、すげぇ」と感嘆している。


 しかし……

 ジョアンナとマチルドさんは、またまた驚いて眺めていた。


 でも、まだまだ終わらない。

 ふたりへの『とどめ』は、人間に擬態していたジャンがしれっと、黒白ぶちの猫の姿に戻り、荷台にひよぃっと、飛び乗った事。

 

 俺が、

 「従士ジャンは、人間には害を及ぼさない妖精の猫なんですよ。変身が得意なんです」


 と、これまたしれっとフォローすれば、ジョアンナは。


「わお! ホント、びっくり。ケン様が驚かないようにと何度も言っていた意味が良く分かったわ」


 一方、マチルドさんからは、


「す、す、凄すぎますっ! ケ、ケン様みたいな魔法使いは! み、見るどころか聞いた事さえありませんっ! 完全に人間を超えていますっ!」


 と、驚愕しながら言われてしまう。

 まあ、マチルドさんの言う事は当たってる。

 俺、実は神様だから。

 さすがにそれはまだまだ内緒だけど。


 ……という事で、俺達はベイヤール、フィオナが引っ張る荷馬車に乗って、街道をのんびり南下している。

 俺は御者台に座り、傍らにジョアンナが寄り添っている。


 前にも言ったが、魔物や獣は気配に敏感。

 超が付く格上の俺、ベイヤール、フィオナが一緒になって進めば、襲って来る奴らはほぼ皆無だ。

 それゆえ、油断は禁物だが、人間の賊だけを注意していれば良い。


 改めて見回せば、周囲は緑一色の大草原……所々に森や雑木林が点在している。

 これも前に言ったが、思えばもう何人、こうしてボヌール村へ連れて来ただろう。


 そういえば、ボヌール村へ旅した時、オディルさんもこの景色に感動していたっけ。


 来た時は、少女のようにわくわくして見入っていた。

 帰る時は、名残惜しく号泣していた……


 しかし……

 そのオディルさんはもうこの世には居ない。


 我が子アンジュの名を付け、俺達ユウキ家と深き魂の絆を結び、愛する旦那さんのオリヴィエさんと再会、ともに違う世界へ旅立ってしまった……


 つい「ほろり」と涙が出る。

 こうして、俺達は人生の旅路において、多くの人達と出会い、別れて行くのだ……


 俺が目に涙を浮かべているのを、ジョアンナにチェックされてしまう。


「え? ケン様? また泣いていらしゃるのですか? 王都でも泣いていらしたわ」


 ああ、ジョアンナは良く俺の様子を見て、憶えている。 

 商業ギルドでも、オディルさんと出会った事を思い出して涙したから。


「うん、ジョアンナ。王都に住んでいたオディルさんという、ウチの家族にとって大事な人が亡くなったのを思い出した。その人が、この景色を見て、とても喜んでいたんだよ」


 俺がそう言うと……

 ジョアンナも周囲の雄大な景色を眺め、声を震わせる。


「わ、分かります! ……その方のお気持ち、ジョアンナにも! とても素敵な景色ですから! まるでケン様に連れて行って頂いた夢の世界、エデンのように素晴らしいです!」


「……今度、ジョアンナにもその人の話をしよう」


「ぜひ、お聞きしたいです! お願い致します! ケン様は……優しいから、大好き!」


 ジョアンナは、俺に愛を告げ、ぴたりと寄り添ったのである。

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