第40話「ボヌール村へ②」

「たっだいまあ!」

「じいちゃん、今、戻ったよぉ!」


 レオとイーサンが物見やぐらのレベッカ父のガストンさんへ挨拶する。

 かつては現村長第一夫人リゼットの実家、ブランシュ家の戦闘部隊のかなめたる従士で門番。

 現在は、職務第一線から退いたガストンさんだが……

 副村長として、村内のパトロール、武道の教授などを主に行っている。

 

 そして、週1回の嘱託という形で門番の仕事も続けていた。

 実は今日がその日なのである。


「おう、お前達お帰り。あれ? その人達は?」


 物見やぐらに陣取るガストンさんは、馬車に乗る初対面のジョアンナとマチルドさんを見て、いぶかしげな顔付きとなる。


 嫁ズとたタバサには念話で事前に伝えてはいるが、村民には伝えていない。

 何故ならば、「ジョアンナとマチルドさんに出会ったストーリー」を表向きに作る為である。


 レオとイーサンはにっこり。

 すかさず俺にバトンタッチして来る。


「お父さん、説明宜しく」

「じいちゃんに話をお願い」


「おう、任された」


 と、俺は言い、声を張り上げる。


「ガストンさん」


「おう!」


「ご紹介します。ジョアンナ・ボレルさんと、お付きのマチルド・コンパンさんです。村へ戻る途中で偶然出会いまして、聞けば特に行く当てがないという事で連れて来ました。村に住む事となりますが、詳しい事情は後で、ご説明します」


 俺が嫁ズなどと、街道や旅の途中で出会い、村へ連れて来るというパターンは数限りなくあった。

 

 今回も年端も行かない女の子と、上品そうな老婦人。

 俺、レオとイーサンの確認済み。

 武器も不携帯だから、入村拒否の理由は見当たらない。


 俺の説明に納得したガストンさんは、すぐ開門の指示を出してくれた。


「よし、ジャコブ、門を開けろぉ! ケン達が全員村内へ入ったら、すぐに閉めろぉ!」


 すぐ門は開き、ガストンさんは、ジョアンナ、マチルドさんとそれぞれ話す。

 事前に口裏を合わせているので、ふたりも上手く対応してくれた。


 こうして……

 ジョアンナとマチルドさんは、無事ボヌール村へ到着したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ジョアンナ、ここが俺の第二の故郷ボヌール村だ。お前にとってもそうなって欲しいよ」


「はい! 素敵な村です。きっと私も第二の故郷になりますわ!」


 などと会話をしつつ、ユウキ家本宅に到着。


 ジョアンナは俺の家を見ても、表情に変化はなかったが、マチルドさんには少し落胆の色が見えていた。

 あれほど古くて広い農家だと強調して、念を押していたのに、ホテルセントヘレナのスイートルームや王都の別宅と比べ、ユウキ家本宅のチープさにがっかりしたようだ。


 しかし、ユウキ家の凄まじき家族パワーが、マチルドさんのネガティブ気分を圧倒する。


「ジョアンナさん、マチルドさん、ようこそ、いらっしゃいました!」


 正面に一歩出て、背筋をピンと伸ばし立つのは、第一夫人のリゼット。

 柔らかな笑みを浮かべている。

 

 さすがに戸外でお出迎えこそなかったが、俺が帰宅を告げると、スタンバイしていたリゼット以下家族が総勢で出迎えてくれたのだ。


 嫁はリゼット、クッカ、クーガー、レベッカ、ミシェル、クラリス、ソフィ、グレース、サキ、アマンダ、ベアーテ、ロヴィーサ。

 子供は、タバサ、シャルロット、フラヴィ、ポール、ララ、ベルティーユ、双子の赤ん坊アンジュとロラン。


 嫁12名、子供8名、20名がずらり揃うと迫力がある。

 俺、レオとイーサンの3名が加われば、合計23名の大家族だ。


「!!!」

「!!!」


 絶句した、ジョアンナとマチルドさんだが、見知った顔があり、緊張が解け、安堵する。

 そう、王都で一緒に食事を摂ったアマンダとベアーテである。


「アマンダさん!」

「ベアーテさん!」


 名を呼ばれ、アマンダとベアーテは優しく微笑む。

 ちなみにカミングアウトしていない子供達へは、

「アマンダとベアーテは、ジョアンナとマチルドさんの昔からの知り合いなのだ」と初対面ではない理由として話してある。


「うふふふ、ジョアンナさん、マチルドさん、長旅お疲れ様!」

「ええ、今夜はユウキ家恒例、ハーブ料理の大歓迎会をやりますよ!」


 と、いう事で、まずは我が家へ、王都から持って来たジョアンナとマチルドさんの荷物を運び込む。

 とりあえず、用意してあったひと部屋へ、ふたりの家具、そして荷物を置いた。

 当然ながら、俺が用意した部屋で空間魔法に収納しておいた一式をちゃちゃっと出した。

 そして、俺と男子軍団で片付けも。

 とりあえず寝泊まり出来る恰好はついた。

 後は、当人達へ任せる。


 そして、到着したこの日の夜は、ベアーテの言う通り、

 ユウキ家恒例、ハーブ料理の大歓迎会だ!!


 王都の俺の別宅で食べた絶品な料理の味が、ふたりの舌に甦る。


「わお! マチルド!! 凄く美味しいっ!!」

「ええ! ジョアンナお嬢様!! 大いに感動ですわ!!」


 ふたりは期待に満ち溢れた笑みを浮かべ、顔を見合わせ、手を取り合った。

 

 美味しい料理は、心と心の距離を縮めるという。

 やはり実施して良かった。

 王都の別宅食事会は大成功であった。

 

 ちなみに今夜の歓迎会で出されるハーブ料理は、質量ともその数倍の規模であろうと予想される。


 リゼットは、ジョアンナとマチルドさんふたりの出自とこれまでの経緯を上手く話し……同情する気持ちを共有且つ浸透させていた。

 その為、ウチの家族は皆、ふたりに対し、最初から好意的であった。


「皆さま、ジョアンナ・ボレルです! これからユウキ家の一員として頑張ります。宜しくお願い致します」


「マチルド・コンパンと申します。ジョアンナお嬢様といっしょに頑張ります。何卒宜しくお願い致します」


 ジョアンナとマチルドさんの控えめな自己紹介、ユウキ家家族の各自紹介、乾杯、数多のハーブ料理が出された、大歓迎会のコンボで、一気に打ち解けた。

 

 ふたりはユウキ家の新たな家族として、スムーズに溶け込む事が出来たのである。

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