第38話「あ~あ、良いなあ!」
「ケン様、おっはようございます!」
翌朝……
起きたジョアンナは大の上機嫌であった。
抱えていたモヤモヤがすっきり晴れたという感じだ。
お約束の、つないだ手を俺へ「きゅきゅきゅ!」も忘れなかった。
うきうき明るく、ひどく朗らかなのも無理はない。
いろいろなしがらみをすっきりさせると言われ、あのレイモン様から「頑張れ!」と直々に励まされたのだから。
笑顔のジョアンナは俺へ尋ねて来る。
「ケン様、今日はどこへ行く予定なのですか?」
「ああ、今日は1日中、通しで博物館だ。レオとイーサンが行きたがっていた場所のひとつなんだよ」
「博物館!! わお、面白そう!!」
「おお、そうか!」
「で、でも、ケン様。ジョアンナは美術館と書店通りへも行ってみたい!」
「じゃあ、レオとイーサンへ、兄さん達に相談しておいで」
「はい! では朝食の前に、
俺へ言い放ち、たたたたた!と勢いよく走って行ったジョアンナはリビングルームへ。
気配で分かるが、レオとイーサンは既に起床している。
「おはようございます! レオ
「おはよう! ジョアンナ!」
「ジョアンナ、おはよう! 今日も元気だね!」
閉じかけた扉から聞こえて来る。
3人は朝の挨拶を交わしたようだ。
そして、
「本日は博物館へ行くと聞きました。その後で、美術館と書店通りへ行きませんか?」
「ああ、良いよ」
「うん! ジョアンナが一緒なら、楽しいもの」
おお、レオとイーサンはふたつ返事でOKか。
生まれの経緯等が同情を生んだとは思うけど、すっかり打ち解けてる。
それにふたりは女子に優しい。
この感じなら、ジョアンナはボヌール村へ行っても上手くやっていけそうだ。
それに男子旅と銘打って出かけたのに、不満でもないようだ。
可愛い妹が出来たから、嬉しいに違いない。
後は同性の『姉妹』と折り合って欲しいけど……
そうだ、姉妹軍団のリーダー格、長姉のタバサへ念話連絡しておこう。
新入りとなるジョアンナを宜しく頼むって……
という事で、善は急げ。
早速タバサへ連絡。
『おはよう、タバサ、今話して大丈夫か?』
『パパ、おはよう! うん! 大丈夫だよ! リゼットママ、それとアマンダママ、ベアーテママからいろいろ聞いたよ、ジョアンナさんの事!』
おお、話が早い。
『おう、そうか! タバサ、ジョアンナは可哀そうな子なんだ。面倒見てやってくれよ』
これで、タバサへ筋を通した。
よしっと、と思ったら、
『分かった、パパ! 私と女子達で面倒見る。……でもちょっと羨ましい』
『え? 羨ましい? 何だ、それ?』
『だって、ジョアンナさんって、まだたった8歳なのにパパと結婚するって、言ってるんでしょ?』
『ああ、言ってる。だから遠回しに断った。だけど、頑として聞かないんだ。あまり強く言い過ぎるとショックを受けるから、とりあえず婚約者という事にしたよ』
『成る程ね、あ~あ、結婚なんて良いなあ! 私はパパの実の娘だから結婚出来ない。残念だけど!』
わお!
出た。
タバサは、小さな子供の頃から、ず~っと、パパのお嫁さんになるって言ってたから。
父と娘は結婚出来ないと知って、やっと諦めてくれたけど。
『は、はは、だな!』
ここでタバサの機嫌を損ねてはいかん。
俺は仕方なく、苦笑するしかなかったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
どうにかタバサとの話を終え、俺はリビングルームへ。
マチルドさんが居たから、俺はまた別室で内緒話。
夢の魔法でジョアンナと一緒に、レイモン様と会ったと伝えたら、マチルドさんはびっくり。
「ああ! ケン様、納得しました! それで、あのように朝からジョアンナお嬢様のご機嫌が宜しかったのですか!」
「ええ、夢の中で、レイモン様とは、いろいろ話しましたよ」
ジョアンナがレイモン様に気に入られ、励まされたと知り、喜ぶ。
更に、ジョアンナの父サミュエル・ブルゲ伯爵が無体を働かないように、交通整理を引き受けてくれた事に大感謝。
「おおお! 本当に
「いえいえ、お安い御用です。ちなみにレイモン様は、ジョアンナへ、近いうちに王宮へ遊びに来いとおしゃっていました。マチルドさんもお連れします」
と言えば、
「ひえええ、私が王宮へぇぇ!?」
マチルドさんは感激のあまり絶句してしまった。
という事で……
俺達は、ホテルで朝食を食べ、外出。
博物館、美術館、書店が立ち並ぶ書店通り等々、ご機嫌なジョアンナを先頭に、
おみやげもたっぷりと買い、存分に楽しんだのである。
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