第51話「明日へ向かって」
……俺とロヴィーサはしばらく抱き合ったまま、動かなかった。
やがてロヴィーサが口を開く。
強い決意が波動となり、俺の心へ伝わって来る。
「ケン様の胸は……やはり広くて温かい。ホッとします」
「そうか」
俺は優しくロヴィーサの背を撫でた。
ロヴィーサは、嬉しそうに微笑む。
「ケン様、私は、まだまだ未熟です」
「俺も同じさ」
「うふふ、そんな事はありません。ですが……私もケン様も、レベルの違いはあれど、これから学ぶ事はそれぞれに
「だな! 俺達は皆、発展途上さ」
「はい、これからも発展途上の私を励まし、支え、慈しみください。愛してくださいませ」
「ああ、お前は家族だ。他の家族同様、励まし、支え、慈しむ。そして愛して行くよ」
「ありがとうございます。私もケン様や家族、仲間を励まし、支え、慈しみ、愛します。感謝しながら生きて行きます。人魔族のパイオニアとして、課せられた使命を果たします」
とここまで話した時。
部屋の扉がノックされた。
「旦那様ぁ! サキでっす。ロヴィ姉はもう来てる~?」
瞬間!
ロヴィーサは、素早く俺から離れた。
恥ずかしそうに俯いてしまう。
「ロヴィーサ。いや、ロヴィ、サキを部屋へ入れて構わないか?」
「は、はい。ケン様。サキに入って貰ってください」
ロヴィーサにOKを貰い、サキの入室を許可した。
俺が声をかけると同時に、「ばっ!」と勢い良く扉が開けられ、サキが飛びこんで来た。
「あれ~」
?的な声をあげたのは、ロヴィーサが部屋の片隅へ引っ込み、俯いて立っていたからだ。
勘の良いサキである。
すぐピンと来たようである。
「わあ、ロヴィ
「サ、サキぃ!」
驚いて顔を上げたロヴィーサの顔は真っ赤である。
これでは誰が見ても、「何かあったか」と分かる。
部屋には俺とロヴィーサのふたりきりだし、相手が俺なのも
サキが悪戯っぽく笑う。
「だって! ロヴィ姉が、旦那様を大好きだってバレバレ!! ウチの家族全員に丸わかりだよぉ!!」
「サ、サキ!!」
「うふふふ、ロヴィ姉、もうチューしたぁ? 抱き締めて貰って、熱く! ちゅううううってさ!!」
「し、し、してませんっ!! そ、そ、そんなふしだらなっ!!」
「ふしだらだ!」と言い張るロヴィーサを、サキはジト目と呆れ顔で返す。
「はあ? ふしだらって……あのねぇ、ロヴィ姉はどこまで箱入りなのよ、もう!」
続いて、入って来たのはアヴァロン担当、クッカと長女のタバサだ。
ふたりとも、にやにや悪戯っぽく笑っている。
「こら、サキ、騒ぎすぎでしょ!」
「サキママの大声が外まで聞こえてたよぉ。ロヴィ姉がパパへ告白とか、ウチ中に、筒抜けだったよぉ!」
クッカとタバサから、気になるコメントを聞き、ますますロヴィーサの顔が赤くなる。
「ええええっ!? もう! サキぃぃ!!」
完熟した『とまと』のようになったロヴィーサが責めても、どこ吹く風。
「いいじゃん! いいじゃん! 話が早くて!」
笑顔のサキは、思い切りVサインを突き出していたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それから、1週間が経ち……
ロヴィーサは以前にも増して、はつらつと元気で働いている。
心を解放した彼女はもう「おどおど」したり、臆したりしない。
堂々と物言いが出来るようになった。
俺と『恋仲』になった事がオープンになっても全く影響はなし。
嫁ズも子供達も、村民も皆、優しく温かくロヴィーサを受け入れてくれた。
彼女の人徳……否、人魔徳のなせる
またロヴィーサはサキと共に、有能な秘書役となり、素晴らしい才能を発揮している。
相変わらず多忙な俺を大いに助けてくれている。
各種族首脳の受けも良く、もう少し経験を積んだら、代理として赴く事も可能になるだろう。
気になる人魔族の状況も、スオメタルと若手の女神様達が本領発揮。
アガレスと上手く折り合い、本当に順調だという。
そして……
ロヴィーサと俺の『仲』も、アガレスは許してくれた。
彼が思い直したきっかけは、何と!
管理神様がまた神託をくだされ、万事を俺に任すよう告げた事。
また、懇願するロヴィーサに、とうとう根負けしたという感もある。
元悪魔とはいえ、やはり可愛い
助かりました、管理神様。
最初といい、最後といい、
いつもナイスなタイミングで、良い仕事をしてくれますね。
これでとりあえずひと安心。
そうそう!
ケルトゥリ様が天界へ帰る前にと、アマンダことフレデリカをアヴァロンへ連れて行ったら……
まるで
いつもはこれまた冷静沈着なアマンダが、感激のあまり号泣してしまった。
サキが、ヴァルバラ様と再会した時と全く同じになったのである。
ケルトゥリ様のくだされた神託……
「お前は愛するケンといつか会える」という言葉をひたすら信じ……
死して転生を重ね、サキ以上に長き旅をして来たアマンダにとっては感動しきりだっただろう。
確か、ケルトゥリ様とは面と向かって会った事がなく……
声でしか、知らない相手だしね。
という事で……
俺にはまた『新たな嫁』ロヴィーサが加わる事となった。
「おはよう! 旦那様! 今日もいっそがしいけど、元気に頑張ろう!」
「おはようございます! ケン様! 本日のご予定を確認させて頂きますね」
「おう! おはよう、サキ、ロヴィ。今日も宜しくな」
もう『クミカの悲劇』は繰り返したくない!
来る者は拒まずという言葉が、当たり前のように思えてしまうが……
改めて言おう。
俺を慕い、頼って来る者を見捨てるなど出来ないと。
元気に挨拶をするサキとロヴィーサを見て……
俺は強く決意したのであった。
※『内気なパイオニア』編は、今回の話で終了です。
ご愛読ありがとうございました。
当作品がもっと上を目指せるよう、より多くの方に読んで頂けるよう、
『ご愛読と応援』を宜しくお願い致します。
皆様の更なるご愛読と応援が、継続への力にもなります。
暫く、プロット考案&執筆の為、お時間を下さいませ。
その間、本作をじっくり読み返して頂ければ作者は大感激します。
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