第47話「私の使命」

 ここは妖精の国、異界アヴァロン。

 その中に在る元悪魔、人魔族の入植地。

 人魔族のリーダーたるアガレスの官邸。


 多くの女神に囲まれ、惚けたように?笑顔のアガレスを見て、愛娘のロヴィーサがカッとなり、叱責した。

 だが、そんなロヴィーサをいさめ、なだめたのはふたりの上級女神であった。


「ヴァルヴァラ様! ケルトゥリ様!」


 俺は懐かしくなり、思わず肉声で叫んだ。

 ふたりの名を、はっきりと呼んだのである。


 ジュリエットに擬態したヴァルヴァラ様は、俺の声を聞き、嬉しそうに顔をほころばせる。

 熱く濃く強い波動が、心へ伝わって来る。


「おお、ケン。人の子の時間にして、1年ぶりか。うん! 元気そうだな」


 そして苦笑し、言葉を続ける。


「だが、ケン。忘れて貰っては困る」


「はい?」


「この姿の時は、お前の幼馴染みである人間の少女ジュリエットの名で呼んでくれ。幼馴染だから、ため口で構わん」


 成る程!

 分かった!


 ヴァルヴァラ様は、俺が今日来る事を知っていた。

 だから、わざわざジュリエットの姿で待っていたのだ。

 

 俺の心がほんわかと温かくなる。

 返す言葉も滑らかとなる。


「おう! ジュリエット。俺は凄く元気だよ。ジュリエットも元気そうで嬉しいよ」


「うむ、ケン。私は今、元気で凄く幸せだ。世界の平和を保つ為に頑張るお前を励みに、使命にも一層力が入る。感謝するぞ」


「良かった! そして……ケルトゥリ様はお久しぶりですね」


「うむ、大いに久しぶりだ。フレデリカは元気か? 今日は一緒じゃないのだな?」


「ええ、ケルトゥリ様が異世界で巡り会わせてくれたフレデリカ……ご存知でしょうが、現在は俺が居る世界へ転生し、アマンダとして一緒にボヌール村で暮らしています」


「うむ、いろいろあったようだが……再び無事に巡り会えて良かったな」


「はい! ケルトゥリ様がこちらへいらっしゃるのなら、今度連れて来ます」


「うむ、フレデリカは大事にしてやれ。いや、訂正しよう」


「訂正ですか?」


「うむ、フレデリカだけではない。妻達は皆、ケン。お前と結ばれる為にこの世へ生まれて来た。妻全員を、必ず大事にするのだぞ」


「了解です。お約束します」


 と、ここで驚くべき事態が!


「うそうそぉ! どうしてぇ!? 信じられなぁいっ!! ヴァルヴァラ様ぁぁぁ!!!」


 ヴァルヴァラ様見た、サキが絶叫したのだ。


 俺が魔界でヴァルヴァラ様と再会したと告げて、懐かしがっていたが……

 再び自分が会えるとは、思っていなかったのだろう。

 否、もしかすると、万が一の確率で会えると思っていたのか……


 ヴァルヴァラ様はサキに対し、ひたむき且つ真摯に生きる事を熱く諭した。

 天界の女神から人間への叶えられぬ想いを……

 俺への深き愛を、自分の代わりにサキへ託したのだ。 


 ボヌール村へ来る前に違う世界で別れたきり、久々の再会であった。


 サキとヴァルヴァラ様の運命が今、奇跡のように交差したのだ。


 感極まったサキは脱兎の如く駆けだし、ヴァルヴァラ様へ思いっきり抱き着いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「うわああああああああああ~~~んんん!!!」


 再会に感激し、感情が弾け、号泣したサキは、ヴァルヴァラ様から離れない。

 ひし!と抱き着いたままだ。


 対してヴァルヴァラ様も怒りはしない。

 サキを優しく抱き締め、手で背をそっと撫でている。

 俺に向けたのとはまた違う温かい波動でサキを包んでいた。


 傍らに立つケルトゥリ様も慈愛を込め、抱き合うふたりを見つめていた。


「ヴァルヴァラ様ぁ! サキはねっ! サキはねぇ! わあああああああんん!!」


 思いっきり号泣しながらも、何とか自分の想いを伝えたい。

 全力で頑張った事を報告したい!!

 言葉には上手く変えられなかったが、想いはしっかりとヴァルヴァラ様へ伝わっている。


「大丈夫だ、サキ。お前は良く頑張っている。天界からちゃんとお前を見ていたぞ。間違いなく私の分まで頑張っているぞ」


「わあああああああああああんんん!!」


 ここで、ロヴィーサが話しかけて来る。

 先ほどまでと違い、落ち着いた口調である。

 女神に囲まれ、惚けた?父への怒りはいつのまにか消えていた。


「ケン様」


「何だい、ロヴィーサ」


「あの方がヴァルヴァラ様なのですね……叶わぬ報われぬ愛をサキへ託した……」


 サキの奴……

 本当に、ロヴィーサと親友になったんだ。

 全てを話し合える親友に。


 ここは俺も肯定するしかない。

 管理神様に怒られたら、俺が全て悪いと謝っておこう。

 

「ああ、そうだ、ヴァルヴァラ様だ。でもあの御姿おすがたの時はジュリエットだ」


 ヴァルヴァラ様の『擬態の話』もロヴィーサは知っているらしい。

 サキから聞いたのだろう。

 にこっと笑う。 


「うふふ、ケン様」


「おう」


「私は……またひとつ素晴らしい愛を目の当たりにしました。ケン様を愛する者同士、サキとヴァルヴァラ様の固い絆をしっかりと体感しましたよ」


「そうか……良かったな、ロヴィーサ」


「はい。全てケン様に導いて頂いたお陰です」


「いやいや、俺なんか関係ない。お前が頑張ったからだ。慣れない世界で本当に良く頑張ったよ」


「いえ、ケン様、私の頑張りなんか。ケン様にサキ、そして周りの皆様に、これまでに出会った方々全てに恵まれましたから」


「そうか!」


「はい! お話しを戻しますが、愛は本当に素敵です! 私の使命はいっぱいあります。ですが……一番大事なものは無垢な人魔族へ素敵な愛を伝える使命……改めて確信致しました」


 俺を真っすぐに見据え…… 

 ロヴィーサは、はっきりと言い切ったのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る