第48話「いいよ~ん!」

 サキとヴァルヴァラ様の再会、抱擁という出来事はあったが……

 女神達に囲まれたアガレスの『ハーレム状態』を見たロヴィーサの憤りはまだ収まっていなかった。


「父上! 何を考えているのですかっ! 人魔族の誰もが日々頑張っているというのに、リーダーたる父上がこの腑抜ふぬけぶり! 恥ずかしいと思わないのですかっ!」


 再び厳しく叱責するロヴィーサ。

 初めて見る?愛娘の激怒した姿に父アガレスは大慌て。


「ち、ち、違う! ロ、ロヴィーサ! ち、違うのだ!」


「父上! 何が違うと仰るのですか!」


 ここで間へ入ったのが、ロヴィーサ不在の間、臨時の秘書役を買って出てくれたスオメタルだ。


「ロヴィーサ」


「は、はい」


「少し落ち着くでございます……お前は少し誤解をしておるようでございますよ。アガレスは腑抜ふぬけてなどおりませぬ。優しくおおらかに且つ、寛容的になったでございます」


「は、はあ……でも、スオメタル様。父はどう見ても女神様達へ鼻の下を伸ばして、下心満々。良い気になっているとしか思えません」


「ロ、ロヴィーサ。そ、それは違う! 良く考えてみよ! 相手は創世様の麾下きか、天界の女神様達だぞ!」


 アガレスが必死に弁明しても、ロヴィーサは無言、冷たくジト目で父を見つめていた。


「……………」


「い、い、今や! そ、創世神様の敬虔けいけんな、しもべたる私が! よ、よこしまなる下心を持つわけがないっ。そ、それにこうして女神様達にお手伝い頂いているのは、管理神様の命令でもあるのだっ」


 最後は叫ぶように訴えたアガレスではあるが、ロヴィーサの表情は冷たいまま。

 スオメタルへ真偽を尋ねる。 


「成る程、管理神様の命令ですか……スオメタル様、本当なのですか?」


「はい、ロヴィーサ。アガレスの言う通りでございます」


「そうなのですか?」


「ええ、ちょうど女神達が手すきとなったので、出動可能な者はアヴァロンへ赴くようにと、管理神様より命令が出ているでございます。私スオメタルをしばらくの間、手伝い、人魔族リーダー、アガレスを補佐して、良き方向へ導けと仰ったでございますね」


 自分の主張をスオメタルが肯定、支持してくれたので、アガレスはすがるように娘へ言う。


「ほ、ほらぁ!」


「……ほらぁ、ではありませんよ、父上。状況は理解しましたが、リーダーたる者、もう少しきりりとして頂かないと、ロヴィーサは恥ずかしくてなりません」


「わ、私が恥ずかしいだと! この親不孝者! 父へ向かい、何を言う」


「言った通りですよ」


「ふざけるんじゃない! な、ならばケン様だって同じだろう? アリス様を加え、11人も妻をお持ちで、『うはうは、デレデレ』しているのだから!」


 うっわ!

 よりによって!

 俺が嫁ズに囲まれ『うはうは、デレデレ』って?

 まあ、否定はしない。

 けれど、とんだ『とばっちり』だ。


 しかし、ロヴィーサはキッと父をにらむ。


「父上!」


「な、なんだ? ロヴィーサ。こ、怖い顔をして……」


「うはうは、デレデレとは失礼な! ケン様はみだらな父上とは違います!」


「みだらだと!! ど、ど、どこがケン様と違うのだっ?」


 おいおい……

 とばっちりが完全に俺のところへ来た。

 まあ、ここで俺が絡むとおかしくなる。

 とりあえず見守ろう。


 父の突っ込みに対し、当然ながらロヴィーサは反論する。


「ケン様は、しっかりした規律が行き届いた形の家庭を築き、妻達全員を大事にし、等しく愛しております」


「そ、それは! あ、当たり前だろう! 妻全員を大事にするのは当たり前だ」


 アガレスの言葉を聞き、ロヴィーサはキッと父を睨んだ。

 道具として扱われ、追いやられた母の事を思い出したに違いない。


「父上!」


「な、何だ?」


「言うはやすく行うはがたし! ケン様はしっかりと実践していらっしゃいます」


「な、な、何を!? 何を実践しているのだ?」


「11人の妻達は嫉妬もケンカも殆どなく、皆、全員仲が良い。子供達も生母以外の妻達にとても懐いております。私もユウキ家のような家庭で育ちたかった。愛に満ちあふれた家庭が欲しかった」


 さすがに具体的には、父を糾弾しなかった。

 だが、ロヴィーサの目には涙があふれ、悲しみの色が宿っていた。 


「ロヴィーサ……お前……」


「父上! 私だって、そんなケン様を大変好ましく思っております!」


 擁護してくれたのは良かったが……

 最後に『俺への好意』を告げた事が、アガレスの娘愛へ引っかかった。


「な!? ロヴィーサ、お前! ケ、ケン様を!? 大変!? こ、こ、こ、好ましくだとぉ! い、い、いかんぞ、ロヴィーサ! 私は許さんっ!」


「何を許さないと? ロヴィーサはもう大人です! 父上の指図さしずは受けません!」


「な、何! まだお前は大人じゃない! 子供だ! 半人前の癖に生意気な!」


 おいおい、話がまた変な方向へと行き出している。

 俺がふたりの話へ入ると、ますますややこしくなりそうだし、どうしたら良いのだろうか。


 困っていたら、助け舟を出してくれたのは……

 ふたりのランクS、上級女神である。


「おい、アガレス!」


「は、ヴァルヴァラ様」


「ケンならば、大丈夫。妻が何人居ようが、とても誠実な男だぞ。戦女神の私を凄く幸せにしてくれたのだ。お前の娘も絶対に不幸にはしない」


「ええっ!? で、でも!」


「黙れ、アガレス! でもも何もない。反論は一切許さぬ。この私、ヴァルヴァラがそうだと言ったら、絶対にそうなのだ!」


「うう……そんな……」


 ヴァルヴァラ様の教育的指導が終わると、今度はケルトゥリ様の番である。


「アガレス!」


「は、はい、ケルトゥリ様」


「私ケルトゥリも、ヴァルヴァラに全くの同意だ! 種族の違う人間でも……まあ今や神なのだが、ケンは数多あまたのアールヴを幸せにした。アールヴを幸せにした者が人魔族の娘を幸せに出来ぬはずはないっ!」


「で、でも……」


「アガレス! でもも何も、全く問題はないっ! ノープロブレムだ! 以上!!」


「はいい~~、仰せの通りにぃ!」


 ふたりの女神の猛攻もうこう、否、猛口もうこうには、

 さすがのアガレスも白旗を揚げ、降参するしかなかった。


 というやりとりがあり……

 ロヴィーサは『攻め時』と見たのだろう。

 いまだ動揺する父へ言う。


「では父上、私から改めてお話があります」


「うむ、な、何だ、ロヴィーサ」


「私……当分の間、地上で修業に励みたいのですが」


「う、うむ~~」


 これまでの話の流れが流れである。

 修業の延長に難色を示すアガレスではあったが……

 上級女神の加護を受け、父に対し、主導権を取ったロヴィーサは強気である。


「父上! いかがでしょう?」


 そしてアガレスの答えは何と!


「い、い、いいよ~ん!」


「い、いいよ~んって!?」


 日頃厳格な父に似合わない砕けたOKの返事に、驚きずっこけかけたロヴィーサ。  

 そんな愛娘を見て、アガレスは必死に取りつくろう。


「あ、コホン! もとい、構わん。しっかりと修業するが良い」


 おお、何とかOKが出た。

 但し、さっきの口調は『どこかの誰かさん』みたいだが……

 もしかしたら、管理神様の御業的みわざてきなフォローやもしれない。


 瞬間!

 サキがロヴィーサへダッシュ、ひしと抱き着いた。


「やったあ! ロヴィ姉! 良かったぁ!」


 今度はロヴィーサと抱き合うサキを見て……

 その場の誰もが、温かい気持ちになっていたのである。

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