第25話「垣根を越えて」

 俺がジョエルさんとフロランスさんに内緒にしておいた話が今、大公開となった。


 ティファナ様ことティターニア様がカミングアウト。

 以前ボヌール村で暮らし、当時も大人気者だった少女テレーズが実は妖精女王だと判明し……ジョエルさんとフロランスさんは、大いに驚いた。


 だがびっくりした後は、一気に打ち解けた。

 当時村長夫婦だったふたりも、テレーズを凄く可愛がっていたからだ。


 こうなるともう止まらない。

 俺、リゼットを含め嫁ズなどそっちのけで……当時の思い出話に花が咲いた。


 せっかく、両親との久々の再会を楽しみにしていたリゼットは、苦笑するしかなかった。

 でも苦笑しながら、リゼットも嬉しそうではあった。

 ジョエルさん達がとても嬉しそうにしていたから。

 まあ、仕方がないかという感じである。


 頃合いを見て、オベール様が男爵に陞爵しょうしゃくする話をすれば、ジョエルさん達も大喜び。

 ますます、場は盛り上がった。


 満面の笑みを浮かべるジョエルさん、フロランスさんへ「ちらっ」と聞けば……

 エモシオンとボヌール村のアンテナショップ『エモシオン&ボヌール』は相変わらず大繁盛らしい。

 特産品を売るショップも、ハーブ料理が名物のカフェも両方、売り上げは絶好調だという。

 最近はジョエルさん達に経営の部分でも深く参加して貰っており、一層気合が入っているようだ。


「ティファナ様。後でぜひ、ウチの店へいらしてくださいね」

「絶対ですよ、お待ちしていますからね」


「ええ、伺います」


 ジョエルさん達は、エモシオン&ボヌールをティターニア様に見せたいようだ。


 俺達は今、エモシオンに居ない事となっている。


「ジョエルさん、フロランスさん。俺達全員、魔法で別人に変身した姿で、伺います」


 そう俺が言うと、


「おお、楽しみだ。ケンはあのダンで良いのだな」

「うふふ、ダンの方が素のケンよりもカッコいいんじゃない。今度は私達も変身したいから、宜しくね」


 などと面白がられてしまった。

 

 やがてジョエルさん達は引き揚げたが……

 隣室のオベール様の執務室は、ずっと「わいわい」にぎやかである。


 オベール様、イザベルさん、ミシェル、ソフィの声に混じり、

 ふたりの一粒種、愛息フィリップの声も聞こえて来る。

 幸せのオーラも「びんびん」感じて、こちらまで心が明るくなる。


 ここで、秘書役のサキとロヴィーサが「はい」と手を挙げる。


「ねぇ、旦那様。もうだいぶ時間が経ったよ。そろそろミシェル姉達と合流して、隠れ家へ行こう」

「はい、サキの言う通りです。ケン様、今後の予定を考えるとそろそろ移動を……ティファナ様のご案内もありますから」


 ふたりの言う通り、時間が押している。

 ミシェルとソフィをピックアップするのが賢明だろう。

 

 やはりふたりは、どんどん秘書らしくなっている。

 息もぴったりだ。


「了解!」


 俺は即座に返事をし、オベール様の執務室へ通じる扉に近付くと、

 軽やかにノックをしたのである。 


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「へぇ! ここがケンの隠れ家なの! 結構素敵じゃない!」


「本当です。こんなに広いのに、普段殆ど留守とは勿体ない」

「置いてある家具も素敵!」


 ティターニア様、ベリザリオ、アルベルティーナが褒めるこの場所は……

 先述した、オベール様が無償で貸してくれている宰相たる俺の『別宅』。

 

 当然、オベール様の城館から、転移魔法で直接跳んで来たのである。


 今、俺達が居るのは、大きな長椅子ソファを置いた大広間。

 これに執務室、寝室ふたつに、ベッド付きの客間がふたつある。

 この規模だと、貴族の屋敷には及ばない。

 だが庭もあり、俺から見れば立派な屋敷である。


「そちらの客間ふたつを使ってください。ティターニア様おひとり、ベリザリオ、アルベルティーナのふたりで、俺と家族は収納されている服の関係で、男女別、寝室ふたつを使いますから」


 俺が指示をすれば、ティターニア様とベリザリオは了解したが、

 アルベルティーナは満そうだ。


「え~、お父さんと一緒に着替えるの? 私レディなのよ」


「こら! ティナ! わがまま言うんじゃない」


 慌てたベリザリオが、愛娘をたしなめるが、タバサのフォローが入る。


「うふふ、ティナは私達と一緒に女子用の寝室で着替えましょ。サイズも近いから私の服、貸してあげる」


「やった! タバサ、ありがと!」


 タバサとティナの友情は出会ってからずっと続いている。

 人間と妖精という垣根を完全に超えている。

  

 そして、こちらも……

 友情の絆が結ばれつつある。


「ロヴィ姉、私達も行こう。女子用の寝室にはクラリス姉特製の女子服がい~っぱいあるよ。好きなの着て良いから」


「え~っ、サキ、本当ですか? クラリス様の作った服が着られるのですか! 凄く嬉しいっ!」


「うふふ、ウチの姉達に対応出来るよう、サイズもいろいろあるよっ!」


 すると!


「私も女子用の寝室で着替えたい! サイズもいろいろあるのなら、クラリスさんの作った服を着てみようかな?」


 ティターニア様まで、そんな事を言い出し……

 ウチの女子軍団は、人間、妖精仲良く全員……

 「うふうふきゃっきゃっ」しながら、女子専用の寝室へと消えたのであった。

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