第24話「お久しぶりです」

 オベール様へ、男爵に陞爵しょうしゃくする事を伝えた俺達は、転移して来た従士部屋へ引き下がった。

 今頃は、息子のフィリップも部屋へ来て、肉親同士、歓び合っている事だろう。


 さてさて!

 俺がカミングアウトしたのはオベール様夫婦だけではない。

 いろいろな兼ね合いを考え、慎重に伝えている。

 各国の首脳は勿論、ボヌール村ではアンリ、そしてかつてステファニーに仕えていたアベル、アレクシ、アンセルムのデュプレ3兄弟もそうだ。


 そして少し前、リゼットの両親、元村長のジョエルさん、奥様フロランスさんのブランシュ夫妻にも伝えていた。


 今ではこのふたりも、俺が転生して来た事を始め、ほぼ事情を知っている。

 なので、念話で事前連絡した上で、今日も時間を取って貰っているのだ。


 もういつ来て貰ってもOK。

 なので、念話でジョエルさんへ連絡。


『ジョエルさん、今、話して大丈夫ですか?』


『おお、ケンか! だ、大丈夫だ。ちょうど接客が終わった。お前達、オベール様との打ち合わせはもう終わったのか?』


『えっと、ちょっと事情がありまして、とりあえず午後に延期です』


『お、おいおい! 何だ、まさかアクシデントか?』


『いえ、逆ですよ。オベール様の城館へいらしたらお話しします』


『逆? わけがわからんな。ところで、リゼットも一緒か?』


『ええ、一緒に居ますよ』


『よ、よし! わ、分かった! 店をパートさん達に任せ、フロランスと共にすぐ行く!』


 ちょっち、フロランスさんの波動が伝わって来た。

 「べらべら話していないで、さっさと行くわよ」みたいな。

 相変わらず、ブランシュ夫妻はかかあ天下。

 ジョエルさん、妻のフロランスさんには頭があがらない感じ。


 あ、人の事を言えない。

 俺の家もかかあ天下だ。

 最近、ますますリゼットが母のフロランスさんに似て来たから。


 まあ……

 お陰で俺は各国との折衝に専念出来るので、すっごく助かってるけど。

 それにユウキ家では女子が、それも強い女子が圧倒的に多い。


 俺がジョエルさんとの会話を終え、つらつら考えていたら……

 ティターニア様が手を伸ばして来た。


「ケン、さっきオベール様ご夫妻が渡してくれた地図と資料を見せてくれる?」


「了解です。どうぞ」


 俺が地図と書面を渡すと、ティターニア様はベリザリオとアルベルティーナに声をかけ、テーブルの上に地図を置き、わいわい嬉しそうに相談を始めた。


 ここで打合せが終わったら、俺は再び転移魔法で『エモシオンの自宅』へ行く。

 何せ、俺達は正規の手続きで正門から入っていない。

 ボヌール村に居る事になっている。

 なので、この街の自宅はオベール様が俺の名義で無償貸与してくれている。

 町民に知られずに、俺や家族が上手く立ち回れるようにしてくれているのだ。


「旦那様、ウチのお父さんとお母さんは?」


「もう間もなく来るよ」


「ホント? 早く来ないかな」


 そんな会話をリゼットとして10分後……


 こんこんこんこん!


 俺達の居る従士控室の扉がノックされたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 警戒厳重なオベール様の城館だが、ブランシュ夫妻は家臣扱い。

 その上、今日の来訪は事前に従士達に伝えてある。

 ここまで来るのに何の支障もなかったようだ。 


「おお、リゼット!」

「久しぶりね、リゼット!」


 開口一番、愛娘リゼットに声をかけたジョエルさんとフロランスさん。

 久々の再会だし、これは致し方ない、全然問題はない。


 しかし、今この場に居るのは身内だけではない。

 VIPのティターニア様一行が居る。

 ここでひとつ。

 ブランシュ夫妻には、ひとつ隠している事があった。


 ティファナ様の正体?

 否、それは既に伝えている。


 という事で、果たしてどうなるのか?

 ちなみにこれは両親をびっくりさせようという、リゼットの発案である。


 話を戻そう。


 ハッとしたフロランスさんが、ジョエルさんの脇腹をつついた。


「貴方」


「あ、ああ……これは失礼。初めましてティターニア様。ティファナ様とお呼びすれば宜しいのですね。私はジョエル・ブランシュ、リゼットの父でボヌール村の元村長です」


「初めまして、ティファナ様。リゼットの母でジョエルの妻フロランスです」


「うふふ、おふたりとも久しぶりですね」


「え? 久しぶりって? ど、どういう事でしょうか?」

「ええっと、私達夫婦は、ティターニア様に、お会いしていましたっけ?」


「うふふ、お忘れですか? 以前お世話になったテレーズでっす」


「ええっと……テレーズって?」

「も、もしや! あ、あの……ケンが預かったあの子?」


 ティターニア様が、旧名を告げた事で、ブランシュ夫妻の記憶は甦って来たようだ。


「そうでっす! おふたりにボヌール村で初めてお会いした時は、魔法で少女に変身していたのですよっ!」


「ええええええええええええええっ!?」

「ま、まさかあっ!」


「うふふふ、改めまして、今は大人のティファナです。近いうちにエモシオンの街で店を出します。ジョエル様、フロランス様、ご指導宜しくお願い致しますね!」

 

 ティターニア様はにっこり笑い、深々と頭を下げた。

 

 すましたティターニア様と、驚き慌てる自分の両親を見て……

 俺の傍らに立つリゼットは、笑うのを必死にこらえていたのである。

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