第4話「光の中で」

 俺達は……

 まだ妖精の国アヴァロンに滞在している。

 いろいろあったし、ロヴィーサが父アガレスとじっくり話をしたいと希望したからだ。

 

 さすがに女神スオメタルも折れて、半日の猶予をくれた。

 なので、この日はアガレスの官邸の客室へ泊ったのだ。

 

 そして翌朝、スオメタルは約束通りやって来て……

 まだ不安げなロヴィーサと、秘書の役目を入れ替わった。

 

 それで俺達は、父へ別れを告げたロヴィーサを連れ、一応出発はしたのだが……

 今ここはどこか? と言えば……


「ははははは、創世神様のご指示で女神様がいらしたのか! それでロヴィーサはケンの下へ、ボヌール村へ行くというのだな」


「………………」


「そうそうティーが、あれからず~っとボヌール村へ滞在し、アヴァロンへ一度も帰って来ないんだ。まあ毎日念話で話しているし、ベリザリオとアルベルティーナからも逐一報告が入っているから、元気なのは分かっておるがね」


「………………」


 口調と話の内容でお分かりだろう。


 そう、ここはアヴァロンの王宮である。

 話しているのは妖精王オベロン様、話しかけられているのは、

 アガレスの愛娘ロヴィーサなのだ。

 

 実は、俺とクーガー、ベアーテ、そしてロヴィーサはオベロン様へ謁見している。

 ちなみにオベロン様がいうティーとは、彼の妻で妖精女王ティターニア様の事なのだ。

 ボヌール村へ旅立つ前、ロヴィーサの人見知りのトレーニングじゃないけれど、 オベロン様の王宮へあいさつと、業務連絡を兼ね、立ち寄ったのである。

 

 さてさて!

 ロヴィーサはやはりというか、俯いたままずっと無言。

 相当緊張しているらしい。


 念の為、ロヴィーサはオベロン様とは初対面ではなく、面識がある。

 一族総出で、このアヴァロンの入植地へ移り住む際……

 父アガレスと共に挨拶に伺ったのだ。


 ずっとダンマリのロヴィーサを他所よそに、オベロン様は一方的にしゃべりまくった。


「うむ! ティーはボヌール村の暮らしがよほど楽しいとみえる。私もまもなく政務が片付く。終わり次第、ボヌール村へ駆けつけるつもりだ」


「………………」


「ああ、私も早くボヌール村へ行きたい! 先に行くロヴィーサが羨ましいぞ!」


「………………」


「どうした、ロヴィーサ。普段から口数は少ないと思っていたが、今日は殊更ことさら無口のようだ」


「………………」


 遂にオベロン様からロヴィーサへ『質問』が飛び、仕方なく俺がフォローする。


「ええ、オベロン様。ボヌール村でお待ちしております。仰る通り、ティターニア様は村でとてもお元気にお暮しですよ」


「うむ、愛する我が妻を宜しく頼むぞ。私もすぐ行く!」


 何とか、謁見が終わり……退出した俺達。

 特にロヴィーサは王宮を出た瞬間、「はあ」と大きく息を吐いたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 アヴァロンの王宮を出た俺達は、転移魔法で一気に地上へ戻った。


 地上への転移ポイントは……

 ボヌール村から数十キロ離れた雑木林である。

 

 周囲に人の気配はない。

 事前に連絡を入れた上、ここからまたピンポイントでボヌール村の自宅、

 俺の私室へ跳ぶという段取り。

 ロヴィーサは、村民には初見だから、尤もらしい理由をつけて、

 紹介するつもりだ。


 閑話休題。


 帰還した地上の天気は快晴。

 雲ひとつない真っ青な大空が広がっており、陽がさんさんと射していた。


「わあ! まぶしい!」


 極度の人見知りのロヴィーサも、さすがにこれだけ一緒に居れば、

 俺、クーガー、ベアーテには慣れて来たようである。

 遠慮なく嬉しそうに声を発した。


 実は、ロヴィーサが地上へ出るのは今回が生まれて初めてである。


「あ、温かいっ! 冷たく寒い魔界の陽射しは勿論、アヴァロンとも全く違いますね!」


 満面の笑みを浮かべ、熱く語るロヴィーサ。

 本人に分からないよう、クーガーとベアーテは笑いをこらえていた。


「わあ! 空が真っ青! 大地は一面緑! 広~い!」


 大空と大草原を見て、子供のようにはしゃぐロヴィーサ。

 確かにこの豹変ぶりは極端である。

 

 俺も、大笑いするのを何とかこらえながら言葉を戻す。

 

「ああ、温かいし、広いな。思い切って地上へ来て良かっただろ?」


「はい………」


 俺の問いかけを聞くと、はにかみながらも、ロヴィーサは素直に頷いた。

 

 よし!

 ここで心の距離を縮めよう。


「ロヴィーサさん。いやロヴィーサ」


「はい……」


「お父上にはああ言ったが、ロヴィーサの事は今後、家族として扱おうと思う」


「今後は私を家族と同じ……」


「ああ、これまで多くの者が村へ来て、ユウキ家の家族となり、また旅立って行った……」


「これまで多くの者が村へ来て、ユウキ家の家族となり、また旅立って行った……」


「ああ、そうだ。ロヴィーサは、俺達の家族になるんだ」


「家族……私が……」


「ボヌール村へ訪れた者達はな、特別な事をしてもしなくても、派手でも地味でも……全員が素敵な想い出を作り、家族となり、また旅立って行ったんだ」


「訪れた者達は……全員が素敵な想い出を作り、また旅立って行った……」


「うん、お前は村でいろいろな人と出会い、別れるだろう」


「村でいろいろな人と出会い、別れる……」


「そうさ! お前が人生を振り返る時……宝物だと思える素敵な想い出を、しっかり心に刻めるよう祈っているよ」


「私が人生を振り返る時……宝物だと思える素敵な想い出を、しっかり心に刻めるように……」


 黙って、俺とロヴィーサの話を聞いていたクーガーとベアーテもエールを送る。


「ロヴィーサ、私が保証する。退屈で地味な場所だけど、きっとボヌール村へ来て良かったと思うはずだよ」


「クーガー様……」


「ええ、私も同意見。ボヌール村は心のねっこになる場所なの。たとえ遠きにありても、最後には帰りたいと思う心のふるさとなのよ」


「ベアーテ様……」


 おお、我が嫁ズよ、ナイスフォローだ。


「ああ、ロヴィーサ。ふたりの言う通りさ。そして村民全員がお前を大歓迎してくれるはずだ」


「村民全員が私を大歓迎! わあ! 楽しみです!」


 「さんさん」と注ぐ陽の光を浴びながら……

 ロヴィーサは俺達へ、一番素敵な笑顔を見せてくれたのである。

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