第5話「事件が起こった?」
俺とロヴィーサは……
今ふたりだけで、ボヌール村近くの雑木林の中に居る。
「ケン様、人間って、ややこしい事するんですね」
「ああ、確かにややこしいな」
「ケン様、クーガー様、ベアーテ様の3人で妖精の国アヴァロンへ行っていました。そして私ロヴィーサを村へ連れて来ましたって言えば済む話なのに……」
「それが済まないから、手間がかかるのさ。全てを、それも最初から全村民へ説明して理解させ、納得して貰わないといけないから」
「う~ん。まあ、そこまで手間がかかるのなら、仕方がないですね。理解が及ばずトラブルが起こる可能性もありますし」
「ああ、仕方がない。俺の家族と仲間以外、ボヌール村の一般村民にはいろいろと内緒にしているんだ」
「そうですか、内緒ですか。つまり関係者以外、口外出来ぬ秘密って事ですよね?」
「ああ、そうだ。ロヴィーサが人間ではなく人魔族というのも秘密だ」
「成る程」
既にロヴィーサは、俺の変身魔法で人間に擬態していた。
だが人魔族の風貌は元々人間に近い。
ほぼ素のままである。
大事だからもう一度言おう。
ロヴィーサの顔は前世で俺が写真で見たモデルのように小さく、造作は端麗である。
深い漆黒の瞳を持ち、肩までの黒髪はサラサラだ。
つまり凄い美人だ。
アヴァロンの官邸で会った時より表情がずっと柔らかだから、尚更魅力的である。
「お前を
「……………」
「人間にとって、悪魔は忌み嫌うほど怖ろしい存在だった」
「……………」
「そもそも俺が神であり、勇者というのも内緒なんだよ」
俺がそこまで言うと、複雑な表情をして無言だったロヴィーサがやっと笑った。
「うふふ、この世界は内緒とか秘密ばっかり、でも私が逆の立場なら、自分を食べる捕食者は、やっぱり怖いと思うから仕方がないです」
「え? ロヴィーサも怖いとかってあるのかい?」
「あ~っ、酷い! ケン様は意地悪です!」
もう大丈夫。
ロヴィーサは、俺に対しては全く臆さない。
アヴァロンから一緒に戻って来たクーガーとベアーテは、転移魔法で先にボヌール村の自宅に帰している。
そしてそのクーガーとベアーテは、ティターニア様の親戚ロヴィーサが来ると連絡を受け、素知らぬ顔で迎えに来るという段取りだ。
当然ロヴィーサの、偽りの出自は、まずオベロン様へ了解を取り、
更にその場で、ボヌール村に居るティターニア様へも連絡、快諾を得ていた。
ロヴィーサの言う通り、何故こういうややこしい事をするのか?
表向きはこうだ。
俺、クーガー、ベアーテ3人は村から出ていない。
今回のアヴァロンだけではなく、王都セントヘレナ、アールヴの国イエーラへ行く時も、他の村民には自宅に居ると思われている。
だからいきなり見ず知らずのロヴィーサを入れた4人で、外から村へ帰るのは変なのだ。
と、ここで俺は接近して来る気配に気づいた。
荷馬車である。
ユウキ家の荷馬車を走らせるクーガーとベアーテに間違いないだろう。
指示した通り、荷馬車の真横にケルベロスが並走し、『護衛』として付き従っているようだ。
やがて到着した荷馬車には、打合せ通りクーガーとベアーテが乗っていた。
俺とロヴィーサを見て、何故かふたりは「にやにや」している。
「お待たせ! 迎えに来たよ! うふふ、ふたりきりで仲良くしてた?」
「そうそう! 旦那様とロヴィーサは、もっと仲良くならなきゃね」
おいおい!
なんちゅう突っ込み。
「おう、ロヴィーサと、いろいろ話してた」
「ケン様とふたりきりで仲良くって……そんな」
俺は当然「しれっ」とシンプルに返したが、何とロヴィーサは頬を赤くしていた。
恥ずかしそうに顔を伏せてしまう。
まあ、良い。
打合せ通り、この場は任せて俺は転移魔法で自宅へ帰ろう。
「じゃあ、先に帰ってるからな」
「うん、バッチリ演技するから」
「ティターニア様の姪って事で良いのよね?」
俺は大きく頷くと、転移魔法を発動。
自宅の私室へ戻ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺が村へ戻り、ウチの家族、そしてティターニア様妖精軍団に改めて話をした上で、3人を待った。
全村民にも話が通っており、「ティターニア様の姪とはどんなに美人なのか?」と大いに噂となっている。
やがて、無事に荷馬車が戻って来て……
予想通り笑顔で手を大きく打ち振るクーガーとベアーテ、
そして俯き無言のロヴィーサの姿があった。
あららら……また元のナイーブなロヴィーサへ戻ってしまった。
どうせ「村民が総出でお迎えするよ」とか、クーガーとベアーテから、
散々からかわれ、緊張がMAXに達しているに違いない。
多分、顔も真赤になっているだろう。
そして事件は起こった。
荷馬車が止まった瞬間。
ロヴィーサは、真っ先に勢いよく飛び降りた。
そして何故か、きょろきょろしている。
必死に何かを探しているようだ。
俺と目が合った。
ロヴィーサの顔が歓びで「ぱああっ」と輝いた。
「地獄で仏」というのは和風の表現。
「一筋の光明が差し込む」とか、「渡りに船」という方が、まだこの世界の雰囲気に近い、言い得て妙かもしれない。
しかしロヴィーサの顔は、やはり地獄で仏……だった。
大きく俺の名を呼んだロヴィーサは脱兎の如く駆けた。
そして思い切り、俺の胸へ飛び込んでいたのである。
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