第24話「再会、そして最高のご褒美」

 古今東西いつの時代も……

 総司令官つまり大将が倒されれば、軍隊は統制を失い雲散霧消する例は多い。


 その理は人間だけでなく悪魔も全く同じだった。

 バエル、メフィストフェレスが総勢1億と豪語していた超の付く大軍も、

 追い詰められたケンの起死回生の攻撃により、

 大将も副将も不在となり、呆気なく敗走してしまった。


 誰もが名を知る2体の超大物は倒したが……

 敗走した数多の悪魔はほぼ無傷。

 まだたくさん生き残っている。

 なので油断は出来ない。

 だが……

 『最大のヤマ場』は越えたという気はする。 


 ホッと安堵したら、高まっていた体内魔力も下がって行く。

 昂った心に温かみも戻って来た。

 先ほどの俺は『優しさのリミッター』って奴が外れたか、壊れたかしたんだ。


『だ、大丈夫? ケン……』


 アリス……

 否、ベアトリスが心配そうに身体をさすって来る。


『ああ、大丈夫だ』


 と答えた瞬間。


 ばっっきぃ~~~んんんんん!


 何か固いものが、弾け砕け散る凄まじい異音がして、

 紫色に染まった魔界の空が大きく割れた、というか裂けた。


『何だ、何だ? ベアーテ、魔界の空は、ああやって開く仕様になってるのか?』


『えええ? ち、違う! なってない! 開いたりしないっ!』


 だが……「魔界の空が開いた」理由はすぐに分かった。

 裂けた空間から何者かが現れた?

 いや、何者とかそういう数じゃない。

 凄く多い!

 大人数だ。


 レベル99で、視力がビルドアップした俺が目を凝らせば、

 現れたのは妙齢の美女達だ。


 綺麗な編隊を組み、すいすいと飛翔して俺達へ向かって来る。

 鮮やかな深緑の革鎧を着込んだ彼女達の総数は……数千は居ると思われた。


 もしや!

 悪魔の新手?


 緊張して思わず身構えたが、違っていた。

 全然違っていた。


 改めて見やれば、軍団の先頭に立って飛んで来る3人の美女に、

 俺は覚えがあったから。


 俺が3人を認識すると、相手も同じらしくすかさず念話が送られて来た。

 

 ひとりは、がっちりした逞しい体格の美女。

 手を大きく打ち振っている。

 俺を永遠に愛すると、サキへ告げた女傑である。 


『お~い、ケン! 大丈夫かぁ! 管理神様に命じられ、天界から援軍として赴いたぞぉ!』


『ヴァルヴァラ様!』


 もうひとりは対照的に細身、長い金髪をなびかせたアールヴ美女。

 転生し続けたフレデリカことアマンダを、無事に俺へ引き合わせる為、

 ずっと見守ってくれていたに違いない。

 

 今回は俺を、ず~っとチェックしていたようだ。


『ふっ、さすがはケンだ。土壇場で覚醒したな』


『ケルトゥリ様!』


 そして、後輩も居た。

 俺が新人研修で指導した可愛いあの子である。

 すっかり貫禄がついた感じ。

 さすがに、あのゴスロリ風の黒服は着ていない。


『ケン様ぁ! 今回、私も志願して、特別参加しましたぁ!』


『おお! スオメタルぅ! 元気だったか!』


『は~いっ!』


 親し気に女神達と、

 念話で会話を交わす俺に、少し戸惑うベアトリス。


『ええっと、ケン、名前は知っていたけれど……あの人達は女神様?』


『ああ、そうだ! 親愛なる女神様達さ!』


 俺は大きく頷き、再び3人の女神達へ手を振ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔界の空を割り、やって来たのは、

 管理神様に命じられた天界の軍、俺達への救援部隊だった。


 それもヴァルヴァラ様とケルトゥリ様に率いられた、

 オール女神の精強な女子部隊である。

 俺のピンチを救いたいと志願し、

 後方支援課のスオメタルも特別参加していた。

 3人の女神の心意気が凄く……嬉しかった。


 そんなこんなで、積もる話もあり……

 女神達と旧交を温めた俺……

 幸い魔王アリスことベアトリスも「反乱の意思なし」という事で許された。


 俺がバエル達を倒した事で、悪魔達は敗走した。

 なので、ここからは一方的な追撃となる。

 まだ戦いは終わっていないが、女神達と話す内容は、

 いわゆる戦後処理についてである。


 ここで俺は頼みたい事があった。


『あの……ヴァルヴァラ様、ケルトゥリ様、お願いがあるのですが』


『何だ、ケン』

『言ってみるが良い』


『アガレスという上級悪魔と、その眷属1万だけはお許し頂けませんか? 魔界を治める人材も必要ですし』


 そう、アガレスはアリスことベアトリスに忠義を誓い、反乱軍に加わらず、

 俺に倒されたメフィストフェレスにより、1万の眷属と共に幽閉された。


 ベアトリスによれば……

 説得の余地はあるらしい。


 だから俺と共に、ベアトリスも懇願する。


『女神様、忠義者アガレスを人間と共存するよう絶対に説得します。どうぞお許しくださいませ』


 しかし俺とベアトリスの願いはあっさりと却下される。


『駄目だ、駄目だ』

『魔界の悪魔や魔族は全員浄化する。魔界自体も封鎖する! つまりこの世界から全て消去する』


 む~。

 こうなると、ベタだが情に訴えるしかない。


『ベアーテ』

『はい!』


 俺とベアトリスはツーと言えば、カー。

 完全に心が通い合ってる。

 なので、ふたり揃って土下座する。


『何卒! アガレスと眷属にご慈悲を!』

『この通り! 宜しくお願い致します!』


『…………』 

『…………』 


 あれ?

 ノーリアクションの両女神。

 一体どうしたんだろう?


 と、思ったら……

 「くっくっ」とスオメタルが面白そうに笑ってる?


 何なんだ?

 俺とベアトリスが戸惑い、顔を見合わせ困惑していたら……


『な~んてな!』

『うむ、管理神様から、アガレスの恩赦は既に了解を得ている。悪魔や魔族の処置も検討中だ』


 と、ヴァルヴァラ様とケルトゥリ様も、にやにや。


 うっわ!

 3人共、人が悪いというか、女神が悪い?


 しかし、とげの付いたいばらの鞭の後には、素晴らしく甘い飴が待っていた。


『ケンとベアトリスには、今回、世界の為に尽力した褒美を与える』と、ヴァルヴァラ様。

『うむ、大いに期待して良いぞ』と、ケルトゥリ様。

『ケン様にとって、最高のご褒美ですよ』と、スオメタル。


 ここで、ヴァルヴァラ様が、少し拗ねた感じで言う。


『はっきり言って少々妬ける! だが……仕方がない! 管理神様の命令だ!』


 少々妬ける?

 どういう意味だろう?


 ?マークをいっぱい飛ばす、俺とベアトリスへ、

 今度は、ケルトゥリ様が命ずる。


『さあケン! ベアトリス! しっかり抱き合うが良い!』


 え?

 抱き合うって?


 数千人の女神が見ている前で?

 注目されてる中で?

 結構、恥ずかしい。


 だけどこういう場合、女性の方がきもが据わっている。


『ケン、言われた通りにしましょ』


『あ、ああ……』


 俺は、おずおずという感じでベアトリスを抱いた。

 すると、今度はスオメタルが命令口調で、


『ケン様! もっとしっかりベアトリスを抱いて! そして、愛してると叫んで、熱~くキスしてください! ベアトリスは、はっきり返事をしてねっ!』


『はい! スオメタル様!』


 即座に返事をする、ノリノリのベアトリス。

 俺も仕方なくOKする。


『りょ、了解』


 ベアトリスは覚悟を決めたというか、とても嬉しいようだ。


 よし!

 じゃあ、俺も気合を入れ直して!


『愛してるぞっ! ベアトリス!!』

『はい! ケン、私も愛してます!』


 ふたりの愛を交わす声が重なり、

 目を閉じ……唇が気持ちを込めて合わせられた瞬間。


 俺達の身体が強力な魔力に、包まれたのを感じる。


『ケン! ……目を開けて、私を見て』


 驚いたようなベアトリスの声に促され、

 俺が目を開けてみたら……

 とんでもない衝撃の光景が飛びこんで来た。


 何と!

 ベアトリスが……

 転生した10歳の少女魔王アリスの姿ではなくなっていた。


 初めて出会った時は幽霊だった金髪碧眼の美少女、

 『17歳の人間族』亡国の王女ベアトリス・ガルドルドへ戻っていたのである。

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