第25話「全員揃った!」

「初めまして! ベアーテ・ゴドフロワです! 不束者ふつつかものですが、宜しくお願い致しますっ!」


 元気良く挨拶をしたのは、金髪碧眼の美少女だが、

 10歳の子供ではなく、17歳のティーン女子。


 彼女は元魔王アリス、

 すなわち5千年前に死んだ、亡国の王女ベアトリス・ガルドルドである。

 

 ぎりぎりまで正体を隠していたのは……

 やはり管理神様との約束だったそうである。

 もしも正体を明かしたら……

 俺とは永遠に結ばれなくなる!

 そう戒められていた。


 だが……

 お互い命を失うという土壇場で、つい叫んでしまったらしい。


 さてさて!

 アリスと旅立ったはずの俺が……

 村民として「移住希望」という設定の美少女ベアーテを連れ帰って来た。


 何それ?

 俺と旅立った、少女アリスはどうしたの?

 という疑問がタバサ以外の子供達や村民には当然生じる。

 

 まさか魔王アリスの正体が、亡国の王女ベアトリスであり、

 その上人間ベアーテに戻して貰えるなんて、完全に想定外でイレギュラー。

 当初の予定ではアリスとボヌール村へ戻る事になっていたもの。

 

 しかし魔王アリスは紆余曲折の末、人間の美少女ベアーテとなり、

 ボヌール村へ戻る事が叶った。

 こうなったら、バックグラウンドストーリーを考えるしかない。


 嫁ズとタバサは、ベアーテが来た経緯を知っているが、

 タバサ以外……

 真相を知らない子供達と、村民へ示した筋書きはこう相成った。


 人生は出会いと別れ……

 ひょんな形でボヌール村へ来た10歳の少女アリスは、

 俺と旅をしている途中で、連絡をして来た商人の父親へ引き取られた。

 

 アリスは父と共に故郷へ帰った。

 多分、もうボヌール村へ来る事はない……

 寂しいが仕方がないという事に……


 その父親が『秘書』として連れていたのが、

 今回村へ来たベアーテ・ゴドフロワさん。

 たまたま、彼女は以前から地方への移住を希望していた。


 出会った俺からボヌール村とエモシオンの話を聞き、渡りに船と意気投合。

 ユウキ家へ住み込みという条件で来る事になったというストーリ―。

 

 あれ?

 名前は?

 ベアトリスじゃないの?

 という疑問。


 実は……

 ボヌール村へ行く前にベアーテと、『名前』をどうしようかという話になった。

 彼女曰はく、確かにベアトリスという名にとても愛着はある。

 

 だが、ガルドルド王族としての名前を変え、

 新たな人生をスタートしようという気持ちも強くあった。

 俺といろいろ相談した結果……

 今後は、『愛称のベアーテを本名として』採用する事になったのである。

 

 もうひとつ付け加えれば……

 ベアーテとして、俺との正式な結婚式を、ボヌール村で挙げる事にした。

 

 幽霊の時、ベアーテは西の森のハーブ園で、

 既に俺と仮の結婚式を挙げてはいる。

 しかし生まれ変わったベアーテとして、人生のリスタートイベントとして、

 結婚式を挙げ直す。


 来村からしばし経って……俺との愛が芽生え、育まれたという設定で……

 式を挙げた上で、ユウキ家の正式な一員となる事も決めたのである。


 そう……

 魔王アリスに転生したベアトリスは、最後に凄いご褒美を貰った。

 クッカ、クーガーと同じく人間の少女ベアーテに転生……

 否、戻して貰ったのだ。


 人間に再び転生する際、魔王としての力はだいぶ削られてしまった。

 だが、上級魔法使いとしての力は残して貰ったのもクッカ、クーガーと全く同じ。


 いやそれ以上かも。

 転生したベアーテは、転移魔法を含め、オールラウンダーで魔法を使える。


 だから、村で『人間』として暮らして行く分には何の不自由もないし、却って逆。

 有能な魔法使いとしては勿論だが、前世の知識と経験を活かし、

 ハーブに超堪能な女子としても大活躍してくれるだろう。


 まあベアーテが人間に戻ったのは俺にとっても最高のご褒美。

 女神スオメタルが言った通りとなった。


 そうそう魔界と悪魔族はどうなったかって?

 こちらも説明しようか。


 俺と抱き合いキスしたベアーテが人間に戻ってから……

 ヴァルヴァラ様、ケルトゥリ様、スオメタル参加の女神部隊は、

 魔界を完全に制圧した。

 戦意を失っていたから、悪魔族は殆どが無抵抗で、降伏した。

 バエルとメフィストフェレスに脅され、仕方なく従っていた者も、

 数多居たらしい。


 囚われの身となっていたアガレスも、ベアーテの説得で降伏した。

 とりあえず、俺とベアーテが共同で創ったエデンを模した異界へ

 仮住まいの為、移って貰った。


 アガレスとその眷属以外、生き残った悪魔族は、

 最後まで反抗の意思を示した者以外は全員が許された。


 管理神様によれば……

 アガレス達も含め、悪魔族は種族として、

 アールヴ、ドヴェルグと同じ立ち位置に変えられるという。


 容姿は人間に近い仕様に。

 性格もそう。

 やたらに戦いを好み、人間を手当たり次第に殺し、魂と血肉を捕食する……

 という本能も完全に消し去るそうだ。


 結果、悪魔族のアイデンティティはすっかり消えてしまうが……

 これから他種族と共存して行く為に、創世神様が全知全能神の判断として、

最終決定したそうである。


 その『新生悪魔族』を率いるのは、最後まで忠義を貫いたアガレスとなり、

 今後は新たな『魔王』となる事も決定した。


 悪魔族が居なくなった魔界は……

 ゴブリンやオーク、オーガなど高い知性のない、魔族だけの世界にはなる。

 だが、気候は回復し、自然の摂理に則った、新世界になるという。


 だが、はい、良かったね、これで終わり!

 となれば、俺とベアーテはいかにも無責任だ。


 『新生悪魔族』は、新たな世界の仲間となる、

 だから今後もアガレスを助け、新生悪魔族の面倒を見る!

 俺とベアーテは、そう決めたのだ。


 協議の結果、魔王となったアガレスが4者会議に参加する事も決定。

 まずは直接ではなく、俺の夢の中での参加という事になりそうではある。

 しかしこれも大きな前進であろう。

 

 そして、イルマリ様とは相談しなければならないが……

 アールヴ族とは犬猿の仲のドワーフことドヴェルグ族とも、 

 お互いに長年のわだかまりを捨て去って貰う。

 

 人間として親しくして来た俺が『正体』を明かした上、

 管理神様からも命ずる形で、ドヴェルグ族にも会議へ参加して貰う予定である。


 ここで、ティターニア様の言っていた、

 オベロン様公認の企画も、条件をクリアしたので正式に決定となった。

 

 この公認企画とは、妖精の国アヴァロンにおいて、

 新生悪魔族が居住する街を造る土地の提供である。

 

 『保険案』として提供し、仮住まいしている、

 俺とベアーテの創る亜空間よりは、ずっと良い場所だと思う。 

 

 ちなみに……

 オベロン様が出した必須条件とは……

 移住した悪魔族があくまで穏やかに暮らし、本来の住人である妖精族を絶対に害さない。

 アヴァロン発展にも全面的に協力するという結構難度の高い条件ではあった。

 

 しかし創世神様の御業で、悪魔族の害を為す『狩猟本能』が消え、

 アールヴ族、ドヴェルグ族と同じ立ち位置になる。

 ならば問題はないだろうとオベロン様が最終的に判断した。

 

 今後アヴァロンの入植が成功すれば、イルマリ様もレイモン様も譲歩し、

 最初に俺が提案した『地上の魔境』あたりにも街を造る事が出来るはずだ。


 こうして世界には……

 全ての種族が共存する新たな時代が訪れた。

 以前、『魔王アリスが予言した通り』となったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 さてさて!

 ウチの家族に、そして村民にも挨拶した翌日から……

 『人間』に戻ったベアーテの、ボヌール村での新生活がスタートした。


 当然ながらウチの家族とは、すぐに仲良くなった。

 クーガーはベアーテの面倒を『美少女魔王のぱいせん』として、

 親身になって見たし、サキは新たな魔法をぜひ習いたいと甘えまくった。


 ミシェルとレベッカは『女子会』のメンバーにベアーテを加えたし、

 クラリスは洋服づくりと絵を描く事を勧め、

 更に俺との出会いの物語を描いた『奇跡の再会』を、既存の『ベアトリス版』に加え、新たに『ベアーテ版』を描き加えるとも約束した。

 

 ソフィはエモシオンのカフェの素晴らしさを力説し、制服着用のママメイドをやろうと提案したし、グレースはロランとアンジュの世話を実地で見せながら、早くも育児の教授を始めた。 


 そして……

 子供好きのベアーテは、お子様軍団全員に好かれたのは言うまでもない。

 

 また、こちらも『家出美少女のぱいせん』妖精女王ティターニア様以下、

 ベリザリオ、アルベルティーナら、妖精チームとも意気投合したし、

 ボヌール村の村民全員も、ベアーテを大歓迎した。


 でも……

 特に打ち解けているのが、ベアーテの復活&再会を大いに喜んだ、

 リゼット、クッカ、そしてアマンダの『ハーブ仲間』

 否、『ハーブオタク軍団』だ。


 4人は早速、厨房で大盛り上がりの大活躍。

 結果、新たなハーブ料理のレパートリーが一気に増えてしまった。


 幽霊の時にリゼットに憑依、そして魔王アリスとして暮らした……

 ボヌール村での生活経験値もあり……


 ベアーテは超大得意な料理を始め、子守り、洗濯、掃除などの家事全般、お使い、店番、畑仕事、そして学校の教師迄すべて難なくこなし……

 すんなり村民として溶け込む事が出来たのである。


 そんなこんなで月日が過ぎ……

 約3か月後……

 頃合いと見た俺はベアーテと村で結婚式をあげた。

 ずっとベアーテから、挙式を催促されていた事もある。


 他の嫁ズと同じで、本当に質素でシンプルな式だったが……

 出席者の全員から祝福され、ベアーテは大喜びした。


 遂に念願叶い、ベアトリス・ガルドルドは正式に俺の嫁に……

 ベアーテ・ユウキとなったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 結婚式が行われた日の晩……

 俺とベアーテは初めて結ばれた。


 お互い、我慢して我慢して、遂に結ばれたから……

 嬉しさは格別だった。


 激しく何度も何度も愛し合った。

 その後、訪れた、けだるいまどろみの時間……


 恥じらうベアーテは念話で話そうと言い、

 俺の腕枕で、とりとめもなく話している。


 ベアーテは遥かな昔の記憶まで、手繰っているようだ。

 目が遠くを見ているから…… 


『ねぇ、旦那様』


『ん?』


『私の歩んで来た人生って……本当に旦那様の前世にあったラノベのヒロイン、そのものみたいになったよね?』

 

 おっと!

 いきなりラノベの話が出た。

 ベアーテの言う通りかも。


『ああ、本当にそうだ。5千年前にベアーテはガルドルドの王女として生まれ、亡くなって幽霊として、俺と巡り会い、天へ還ったと思ったら転生して魔王、そして今は魔法使いで農民の嫁……波乱万丈、まさにラノベのヒロインだな』


『うふふ、旦那様もね! 違う世界で学校卒業したてな普通の男の子から始まって、転生して農民兼最強のふるさと勇者、騎士爵家の宰相、世界のいろいろな人と仲良くなって、遂には神様なんだもの!』


『全くだな』


『うん! 5千年経って、景色は全く変わってしまったけど……ハーブ園のある西の森……そしてこのボヌール村が私の故郷! 初恋の相手である旦那様と邂逅した、今を生きる心のふるさとなのよっ!』


 俺もそうだ……

 ベアーテと同じなんだ。


 転生して行き着いたこの異世界で……

 遥か遠き心のふるさとで……

 離れ離れとなっていたクッカ、クーガー、さらにサキ……

 初恋の幼馴染み『クミカ』と再会する事が出来た!

 

 そして俺は……

 この『心のふるさと』で、

 巡り会った愛する家族と、大切な仲間達と……

 共に『今』を生きている。

 

 前世の故郷とは全く違う異世界なのに、ひどく懐かしく愛おしい。

 誰にでも、いつかは……帰りたい『心のふるさと』があるんだ!

 そう、実感する。


『ひとりの女子クミカから、ふたりの女子へ転生したクッカも、クーガーもそう、全員がそう! 女子達は皆、劇的な運命を乗り越えて、旦那様と邂逅したラノベのヒロイン!』


『だな!』 


『うふふっ! 私ね、アマンダと……フレデリカともじっくり話したのよ』


『そうか!』


『うんっ! フレデリカは……いえ、フレッカは遥かな時と次元を超え、何度も何度も転生を繰り返して来たそうね。私、感動しちゃった!』


『ああ、俺もだ』


『うふふ! 彼女の人生もまさにラノベのヒロイン! 私が天へ還ってから、とんでもない事件の結果、旦那様が彼女を救い、アマンダとして劇的な宿命の再会を果たしたんだもの』


『ああ、その通りさ! アマンダを助け……最後にベアーテが来てくれて、ようやく家族が全員揃った! 本当に! 良く戻って来たな、お帰り! ベアーテ!』


 俺が実感を込めて告げると、ベアーテは元気良く挨拶をした。

 

『ただいま! ボヌール村へ、旦那様の下へ戻って来れて本当に嬉しい!! ……でも旦那様』


 でも?


『おいおい、でも、って何だい?』


『違うわ! ウチの家族はまだ、全員揃っていないもの』


 おっと!

 ベアーテに否定されてしまった。

 彼女が来て、家族は全員揃ったと俺は思うけど、

 ……違うのかな?


『え? そうかな?』


 と聞けば、ベアーテは口をとがらせる。

 頬を「ぷくっ」とふくらませる。

 そんな仕草も凄く可愛い……


『もう! 私は……ベアーテは! 旦那様の……可愛い子をい~っぱい産むじゃない! アマンダもサキちゃんもそうだし、他のお嫁さんも! ユウキ家の家族はまだまだ増えるわ!』


『おう! そうだなっ!』


 あはは、ごめん、ごめん。

 そうだ!

 ベアーテの言う通りだ!


 俺の家族は……

 ユウキ家は、もっともっと大家族になる!


 宿命の邂逅かいこうを果たした、俺達家族は……

 これからもこの世界で生きて行く。

 強く逞しく、お互いにいたわり、助け合いながら生きて行くんだ!!


 俺の強い決意が伝わったのか、

 ここでベアーテは感極まり、甘えて来る。

 究極の甘えん坊になる。

 

『だから、旦那様! もっともっと! 明るく素敵な未来の為、い~っぱい、ベアーテを愛してねっ!』


 俺に抱きついたベアーテは、

 たくさんの愛をせがみ、何度も何度も熱いキスをしたのであった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



※『魔王再降臨編』は、今回の話で終了です。

 このパートが当作品の最終章、この話も作品全体の最終話となります。


 ほぼ全ての主要人物の行く末を書き切れたという思いでいっぱいです。

 詳細を記してはいない者も想像は出来るかなと思います。 

 

 2017/06/03 から始まった連載、

 3年と約3か月、トータル715話、

 長きに亘り、ご愛読頂きありがとうございました。


 皆様の更なるご愛読と応援が、作者の力にもなります。

 本作をじっくり読み返して頂ければ作者は大感激します。

 もしもご要望があれば、『続編』も検討します。

 東導号の他の作品ともども、何卒宜しくお願い致します。

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