第23話「反撃! 悪魔を喰らう!」

『ケン!! 私はっ! 魔界の王アリスはっ!! ベアトリスよぉっ!!

転生したベアトリス・ガルドルドなのよぉっ!!!』


 絶体絶命の危機……

 その中で明かされた衝撃の事実……

 

 魔王アリスは……『人間』だった!

 俺といつか再会する事を夢見て、挫けず諦めず……

 幸せな未来への希望を持ち、天へ還ったはずの……

 『亡国の王女ベアトリス』だった!!


 巨大なハンマーで、思いっきりぶん殴られたように……

 俺はアリス……否! ベアトリスを抱え、

 迫り来る悪魔の群れの中で、立ち尽くしていた。


 一気に謎が解けた!

 真実が見えた!


 管理神様がアリスへ神託を与えた意味も見えた。

 俺とアリスの……ベアトリスとの愛を……

 何とか、成就させる為だったんだ!


 様々な想いが交錯し、熱い感情が込み上げる!


 俺の……大バカ野郎!

 何故俺は! 

 気付かなかったんだ!

 どうして『IF』を考えてみなかったんだ!!


 クミカの時と一緒じゃないか!


 強い自責の念が……

 深く深く後悔の想いも満ちて来る。


 ああ、何だか……

 ……昔の記憶が走馬灯のように甦る。


 わけも分からず……

 いつの間にか死に、転生して、管理神様に導かれ、

 真っ白な異界にてレクチャーを受けた。

 

 異界から突如、原野へ放たれ、クッカと共に街道をとぼとぼ歩いていた俺は……

 ゴブリンに襲われ、追われていたリゼットを、勇気を振り絞って助けた!

 雄叫びをあげ、剣を振り回し、必死に戦った!


 その後、俺はリゼットを始め、巡り会った女子達と家族となった。

 初恋の『クミカ』3人と、異世界でフレデリカと邂逅、紆余曲折あって再会……

 人生を共にする嫁ズに、魂の絆を固く結んだ大きな家族となったんだ。


 ……そして今!

 俺の腕の中にはベアトリスが居る!

 

 転生して容姿は変わってしまったけど……

 人間から魔族の王となってしまったけれど……


 彼女の中身は、心は……魂は全く変わっていなかった!

 健気な亡国の王女は、必死の思いで、死まで覚悟し、

 地上の俺へ会いに来てくれた!

 生涯変わらぬ深き愛を携え、この魔界からはるばる会いに来てくれたんだ!!


 ならば!

 尚更!

 強く強く想い感じる。


 愛しいベアトリスを守らなければと思う!

 絶対に絶対に死なせはしない!!!


 大いなる過ちを繰り返してはならない!


 クミカのように、フレデリカのように、奇跡が起きたんだ。

 今、俺とベアトリスは巡り会えたのだから!

 宿命の再会を果たしたのだからっ!!


『許してくれ、ベアトリス。いや、ベアーテ! お前の気持ちが見抜けなかった……俺が大バカだった』


 ベアトリスが愛しい。

 愛称で呼ぶと、愛が更に更に深くなる。


『ケン……』


『確かに約束したぞ! 死ぬ時は一緒! 俺はベアーテと永遠に一緒だ!』


『ケ~ン!!』


『別れるのは、ベアーテと離れ離れになるのは二度とっ!! もう二度と嫌なんだぁぁっ!!』


 叫んだ瞬間!

 俺の心の『何か』が、派手な音を立てて壊れた。


 温かさが消えて行く。

 情けも容赦もなくなって行く。


 これが……神の冷徹さ……なのだろうか?


 冷え冷えとした俺の眼差しは、数多の配下に護られた、

 バエルとメフィストフェレスへ向けられる。


『貴様ら! ……良く聞けよ! この子は……ベアーテは!

魔王アリスに転生した時、己の出自を……正体を悟っていた! 

天へ還ったはずなのに!

何故魔族に! 何故魔王に生まれ変わったと悩み葛藤したんだ!


だが……魔界の窮乏を知り、何とか『同胞』を救いたいと命を懸けた!

貴様らが隠し持った下種な欲望も分かった上で、必死に救おうとしたんだ!


てめぇらは!

ベアーテの真摯な自己犠牲の気持ちを踏みにじり、

後足で砂を蹴り、汚らしく唾を吐いた!


許せねぇ!

絶対に許せねぇ!!


主不在の時に、陰でこそこそ動きやがって!


反乱だと!!

ふざけんじゃねぇ!!


人間を99、9%喰らう?

は?

おもしれぇ!!


神たる俺が、いや人間の俺が逆に!

てめえら悪魔をむさぼり喰ってやる!!』


 俺の底知れない憤怒は、膨大な体内魔力となって行く……


 バエルの顔に、メフィストフェレスの顔に浮かんでいた、

 余裕しゃくしゃくな薄ら笑いが消えた。

 俺の凄まじい気迫と巨大な魔力に気圧されて、逆に蒼ざめていくのが、はっきり分かる。


『は、ははははは、に、に、人間めぇ! く、口だけは達者だ! ……ご、御託は、それだけ……ぐあああうっ!!!』


 言い切ろうとしたバエルの言葉は……途中でさえぎられた。

 さえぎり断ち切ったのは、俺の身体から数百メートル以上伸びた、

 巨大な魔力の右腕である。


 魔力の腕は、バエルの左胸に突き刺さり、

 心臓にしまい込まれた奴の魂をしっかりとつかんでいた。


『バ、バ、バ! バエル様ぁ~~っ!! あ、ぎゃああああああっ!!!』


 驚き、慌てふためくメフィストフェレスにも同じ運命が待っていた。

 今度は鋭く伸びた魔力の左腕が、奴の左胸に突き刺さっていたのだ。


 情を交えず、敵を倒す。

 それが神たる者の戦い、すなわち粛正!


『破壊!』


 俺はバエルとメフィストフェレス、2体の悪魔の魂をつかんだ拳に、

 ぐっと力を入れ、握りつぶした。


 卵を簡単に握りつぶすような、あっけない手応えだった。


 ぼしゅっ!!

 ぼしゅっ!!


 魂が消えると同時に不気味な異音を立て、バエル達の肉体も消滅した。


 こうして……

 不死を誇り、驕り高ぶった悪魔2体は、

 この世界から存在自体を、完全に消し去っていたのである。

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