第22話「反乱! 衝撃の告白!」

 魔界王国ディアボルス、魔都ソドム……

 人間の王国とほぼ同じ……

 仕様やデザインこそ全く違うが、高い城壁に囲まれた城郭都市である。


 転移魔法で一気に跳んだ俺とアリスは……

 魔都ソドムの正門前に立っていた。


『私が住む王宮へ先ほどの転移ポイントからは直接跳べないの』


『そうか……だから王宮へ直……ではなかったんだな』


『ええ、ここから防衛結界を一旦解除する言霊を詠唱し、跳ぶようになってる。安全上の為にね』


 しかし変だ?

 俺はずっと違和感を覚えていた。

 『嫌な予感』と言い換えても良い。


 先ほどの転移ポイントからずっと感じていた事だ。

 魔界の長たるアリスが帰還したというのに出迎えひとつない。

 発する巨大な魔力により、『アリス帰還』は分かっているはずなのに……


 と、その時、正門の向こうが殺気に満ちた。

 夥しい数の殺気だ。


 これは!!

 ……この禍々まがまがしい大量の気配は……

 おびただしい悪魔の軍団だ。

 すっげぇ数だ。


 門が動いた!

 そして開いて行く。

 

 やがて門は、完全に開いた。

 

 門の向こう側には……

 やはり、うじゃうじゃという形容がぴったりするくらい、

 悪魔が大群で、ひしめいていた。

 

 改めて見やれば、俺の知らない中小の悪魔ばかりだ。

 だが、おぞましい光景極まりない。


 真ん中に見覚えのある悪魔が、腕組みをして仁王立ちをしている。

 あいつは……メフィストフェレスか?

 

『どういうつもり!』


 アリスが叫ぶ!


 しかしメフィストフェレスはせせら笑う。


『見たらすぐに分かるでしょう、アリス』


 メフィストフェレスがアリスを呼び捨てにした。

 嫌な予感が、はっきりした確信に変わって行く……


『貴女の夢想は終わった。人間と共存する時代など永遠に来ないのですよ。既に魔界はバエル様の治世となった! あ、そうそう! 頑固なアガレス爺さんは貴女の味方をすると聞かなかったので眷属1万と共に、魔力を封じ、幽閉しましたよ』


『アガレスを!? 裏切ったわね! 何故よっ!』


 アリスが詰問しても、メフィストフェレスは鼻で笑う。


『ふっ、裏切ったのは貴女の方でしょう? 前魔王を遥かに超える力を持ちながら、その力を振るおうとしない。期待外れとしか言いようがない』


『何言ってんの! このままでは魔族に先はない! 魔界は滅びる! 私は魔王のことわりに従い、魔族の幸せを望んだだけよ!』


『あはは! 魔王の理、結構! 我々魔族が天界に勝てないのなら、上手く立ち回れば良い』


『何、それ!』


『分かりませんか、頭の悪いアリスお嬢ちゃん。完全に人間を、つまり100%滅ぼしてはならないのなら、99,9%まで殺して魂ごと喰えば良いのです。そして我々魔族が、人間を生かさず殺さずのロジックで地上を支配する!』


『何ですって!』


『ははは、人間も妖精も、アールヴもドヴェルグも……魔族以外の種族は所詮、単なる餌……もっと要領良くやりましょう』


 と、ここで悪魔の大軍が割れた。

 メフィストフェレスの比ではない、凄まじい魔力が俺にプレッシャーを与える。


 豪奢ごうしゃな衣服に身を包んだ恰幅かっぷくの良い男が進み出た。

 人化しているが顔は、醜悪なガマガエルという形容がぴったり。

 メフィストフェレスの傍らに並ぶ。

 同時にアリスが叫ぶ


『バエル!』


『何、あいつがバエルか!』


 思わず俺が叫ぶと、進み出た悪魔――バエルは高らかに笑う。


『ふはははははははっ! これだから人間は愚かで大バカだ! 一対一で決闘をするなどという、子供騙しの嘘を信じおって、のこのこ魔界へ出向いてくれおった』


 勝ち誇るバエルへ、アリスが叫ぶ。


『卑怯者! ケンが怖いんでしょ!!』


『卑怯? 相手を欺く策略と言い直して貰おう。引っかかる方がバカなのだよ』


 バエルはふっと笑い、更に言う。


『それにコイツが怖いだと? 世迷い言はいい加減にして貰おう。神を気取るこんな人間が怖いわけなかろう』


 おいおい、やめてくれよ、そのセリフ。

 俺の笑いのツボに来た。

 どん、ぴしゃに来たよ。


『あっはははははははははははははははは!!!』


『な、何がおかしいっ!!』


 俺が大笑いしたのを見て、バエルは気色ばむ。

 イラっとしたのがはっきり分かる。

 だから俺は言ってやる。

 ハッキリと教えてやる。


『怖くないなら、数を頼まず、お前自身が俺を倒せば良い。圧倒すれば良い! 指先ひとつで、小虫を殺すようにあっさり潰せば良い』


『くあああああっ!! くっそ生意気な人間めぇ!! 望み通りぶち殺してやる! 終わりにしてやる!! 虫けらのように潰してやるからなぁ!!』


 激高するバエルに対し、傍らに控えるメフィストフェレスは相変わらず冷静だ。

 対照的ともいえる慇懃いんぎんさでのたまう。


『ふふふふふ……本当に生意気ですね、ケンは。いくら凄い力があってもアリスとたったふたり……、我々1億余の悪魔に勝てるわけがないでしょ? よ~く周囲を見て御覧なさい』


 メフィストフェレスに言われ、俺はアリスと共に改めて四方を見た。

 魔都ソドムは勿論悪魔で満ち溢れていたが……

 四方八方に悪魔が出現している。


 転移魔法に近い魔法を行使しているらしく、真っ青な炎の転移門が次々に出現し、

 おびただしい悪魔が湧き続けていた。


 ハッとして上空を見上げれば……

 紫色の空も、蒼い炎の転移門があちこちに現れ、悪魔で覆われつつあった。


 さすがに『一億』はきついか……

 レベル99でも魔力が持たない!


 でも……アリスだけは逃がしたい!

 命を助けたい!

 いや、必ず助ける!

 その為には、奴らの注意を俺に向かせる事が必要だ。


『おい、アリス!』


『ケン! な、何!?』


『こういう時はピンポイント作戦だ』


『ピンポイント作戦?』


『ああ、雑魚には目もくれず親玉を倒す! つまりバエルだけを目標に攻め、奴を討ち取る!』


『わお! いいわね、それ!』


『だが、その作戦を遂行するのは俺! 俺単独で仕掛ける!』


 言い切った俺に対し、驚いて大きく目を見開くアリス。

 信じられない!

 という表情だ。


『な、何故よぉっ!!』


『言うは易く行うは難し! いちかばちかの作戦! さすがにこの数だと失敗する可能性が大だっ!』


『そ、そんな!』


『それにメフィストフェレスが居る! 奴は絶対漁夫の利を狙ってる! バエルを倒せば、余力のなくなった俺の首を即座にはねるだろうよ』


『だから! 私がケンをフォローするって!』


 必死にすがるアリスを俺は断腸の思いで突き放す。

  

『駄目だ! 勝利の可能性は限りなく低い!1%もないっ!』


『だったら! どうするのっ!!』


 再び断言した俺へ、アリスは問う。

 俺は最後の覚悟を示す。


『アリスは逃げろ! 俺が奴らをひきつける! 隙を見て転移し、地上へ逃げるんだ!』


『そ、そんな!』


『俺はただでは死なん! ひとりでも多く! 少なくともバエルとメフィストフェレスふたりは道連れにする! 魂を砕き、滅ぼしてやる!』


『な!?』


『地上へ戻ったら、管理神様と相談し、全種族で結束し、悪魔どもと戦ってくれ! ……俺の家族を! 後を頼むぞ、アリス!』


 しかし、アリスは単独の撤退を断固拒否。

 首を激しく打ち振った。

 そして、絶対離さずとばかりに、俺へしがみついて来た。


『い、嫌よぉっ!! さっき約束したでしょっ!! 死ぬ時はいっしょだって!! いいえっ!! 私とケンは永遠に一緒だって!!』


『ア、アリス!』


『もう別れるのは!! ケンと離れ離れになるのはっ!! 二度とっ!! 二度と嫌なのよぉっ!!』


 な!?

 アリス!


 お、お前!

 今、何て言った!!


 俺は驚愕し、動揺。

 大きく噛みながら聞き直す。


『アリス!! 二度とって!! ど、どういう意味だぁっ!!!』


『ケン!! 私はっ! 魔界の王アリスはっ!! ベアトリスよぉっ!!

転生したベアトリス・ガルドルドなのよぉっ!!!』

 

 絶体絶命の危機……

 その中で明かされた衝撃の事実……

 

 魔王アリスは……『人間』だった!

 俺といつか再会する事を夢見て、挫けず諦めず……

 幸せな未来への希望を持ち、天へ還ったはずの……

 『亡国の王女ベアトリス』だった!!


 巨大なハンマーで、思いっきりぶん殴られたように……

 俺はアリス……否! ベアトリスを抱え、

 迫り来る悪魔の群れの中で、立ち尽くしていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る