第19話「先輩VS後輩 家出娘対決!」

「たっだいま~!」

「ただいま!」


 美少女魔王アリスと我が愛娘タバサが一緒に、意気揚々と学校から帰って来た。


 先にも述べたが、ふたりは完全に意気投合。

 『突っ込み役』と『ぼけ役』も交互にこなし、掛け合いはばっちり。

 まるで実の姉妹のようである。


 しかし……

 『現』家出娘アリスへ向かい、鋭い視線を発している者が居た。


 『先代』家出娘テレーズこと、ティファナこと、

 つまりは妖精女王ティーターニア様である。


『お帰りなさい、タバサ!』


 敢えてアリスを無視。

 タバサだけへ、念話で挨拶するティターニア様。

 

 これって作戦?

 いや、何か……

 吹き上がる炎の形をした怒りの魔力波オーラが渦を巻いてる!

 

 新参のアリスが、妹分のタバサと馴れ馴れし過ぎるから?

 もしかして、先輩の嫉妬?

 凄まじい怒りはもしや、アリスへ向けられてる?

 

 一方、タバサはピンと来たらしい。

 ティターニア様が近いうちに来訪すると告げていたから。

 『ティファナ』様は、実物とは少し違う擬態の姿なのだが……


『え? もしかして! 貴女はテレーズ姉?』


『ええそうよ、タバサ。さっき着いたわ』


 ティターニア様が肯定すると、タバサは大喜び。


『テレーズ姉! いえ、ティターニア様、ようこそっ!』


 と、ここでアリスが会話へ割って入った。

 彼女は彼女で、ティターニア様に完全無視され、不快に思ったらしい。


『ふうううん! あんたがティターニアね? いい年して、ケンをお父様ぁと呼ぶなんて気持ちわる~い』


 いきなり「あんた」呼ばわりされ、終いには「気持ち悪い」などと言われ、

 カッチ~ン!!

 と来たティターニア様。

 折角考えていた、オベロン様了解の『大きなおみやげ』も、

 どこかへぶっ飛んでしまったらしい。

 

 憤怒の表情で、容赦なく、アリスへ反撃する。


『はあ? 地の底に棲む、超お下品なガキんちょ魔王は、目上への口の利き方もなってないわね』


 うっわ!

 麗しき美人が猛毒を吐くと、威力は何十倍にもなるって本当だ。


 可哀そうに……

 ベリザリオ達家臣は、主の怒りに怯えて近付けない。


 こうなるとアリスも負けてはおらず、

 口撃にもますます拍車がかかる。


『何よぉ! 年喰ったおばさんの癖にぃ!』


『ふざけないでね、小便臭い小娘!』


 口ゲンカはますます、エスカレートして行く。

 ふたりに、はさまれた形のタバサが必死で止めに入る。


『わあ! や、やめて! ふたりともっ!』


 まさに妖精と悪魔の戦争勃発!

 という寸前だった。


 さすがに俺も放置出来ず、止めに入った。


『ほらほら、もうやめろって、ふたりとも』


 ここで出張ったのが、丁度『狩り』から戻って来たクーガーである。

 まずはアリスへ一喝!


『こら! アリス!』


『クーガーぱいせん!』


『何、言ってんの。ティターニア様もれっきとした《ぱいせん》でしょ! もっと言葉遣いを丁寧に! そして敬意を払いなさい!』


『は、はい! ご、ごめんなさい……』


『ティターニア様も冷静になってください。言い過ぎです!』


『は、はい! ご、ごめんなさい……』 


『旦那様も! もっと早く止めないとダメでしょ!』


『す、すんません……』


 と、俺も含め、3人を公平に怒った後……

 クーガーは軽く息を吐き、


『ふう……じゃあ、旦那様。これから私、ティターニア様、アリスの女3人だけで話すから!』


『え? 女3人?』


『うん! ティターニア様とアリスはね、もっともっとぶっちゃけ合った方が良いの。すっきりするから!』


『な、成る程』


『大丈夫! 私が間に入って上手くまとめる!』


 と、ここでタバサが……


『あ、あの! クーガーママ! わ、私は? 私は話し合いに入らなくても良いの?』


 タバサは責任感が強い。

 それぞれ仲の良いふたりを仲直りさせる為に尽力したいようだ。


 しかしクーガーは首を横に振る。


『ノーサンキュー! とりあえず、私が入るから! タバサには、後でいろいろフォローして貰うよ!』


『わ、分かりました……いつでも声をかけてください』


『うん! よろしく! ……さあ、ティターニア様とアリスは、こっちだよ!』


 クーガーは、ユウキ家で『女子会』を行う大きめの部屋へふたりを連れて行くらしい。


 折角だから任せるか……

 クーガー、ありがとな!


 笑顔で、ティターニア様、アリスと話ながら部屋へ向かうクーガーへ、

 俺は感謝の気持ちを込め、深く頭を下げていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 約1時間と少しが経った……


 自室へ戻り、事務仕事をしていた俺。

 先ほど女子会部屋へ入った3人の気配が近付いて来るのを感じた。


 放たれる波動は全て穏やかである。

 どうやら……

 クーガーが上手くやってくれたらしい。

 わだかまりは解けたようだ。


 とんとんとん!


 ノックをしたのは、クーガーのようである。


『入ってOKだ』


 俺が入室を許可すると、扉が開き、

 クーガーに先導され、ティターニア様とアリスも入って来た。


 ティターニア様とアリスは、ふたりとも柔らかく微笑んでいた。

 唯一苦笑しているのは、クーガーである。


『旦那様! ふたりは無事仲直り出来た! というか打ち解けちゃった!』


『おう、ありがとう! お疲れ様、本当に助かったよ』


 ふたりの仲をとりもったクーガーを、俺が労われば……

 続いてティターニア様が笑顔で言う。


『お父様! いろいろ話してみて分かった! アリスは……本気なのね! それにまっすぐだし、凄く良い子ね! 私、誤解してた! 後輩だし応援しちゃう!』


 おお、ティターニア様、良かった!

 『憎き宿敵』から、『良きシンパ』にスーパーランクアップして頂いたようで、

 何よりである。


『ありがとうございます。宜しくお願い致します』


 俺がティターニア様へ礼を言えば、

 アリスも照れくさそうに……


『私が悪かったから、ティターニアぱいせんには謝った。幸い許して貰えて、素敵な提案もして頂いたわ!』


『おう、良かったな』


『ぱいせんに構って貰えなくて、ついカっとなっちゃった! 反省してます!』


 うん、アリス!

 お前が『構ってちゃん』なのは、よ~く分かってる!


 こうなると、話はどんどん弾む。


『ようし、今夜はティターニア様とアリスのW歓迎会だ!』


 と、クーガーがニコニコして音頭を取れば、


『よっし! 私もオベに褒められた料理を作っちゃう!』

『アリスも習った料理を作ろう!』


 ティターニア様とアリスも笑顔で追随したのであった。

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