第18話「妖精女王の提案」

 ひと通り挨拶が済むと……


「着いて早々ですが……急ぎ相談しましょう。現在の状況をいろいろ教えて欲しいわ」


 ややこしいが……テレーズことティファナこと、

 つまり妖精女王ティーターニア様が打合せをしたいと告げて来た。


 朝一で、俺は『アリスとの結婚云々』までの状況までオベロン様達へ、

 魔法水晶ホットラインを使い報告したが……

 管理神様が魔王に神託を与えるなど、前代未聞の出来事の連続で、

 妖精王夫婦にとっても不可解な点が多すぎるのだ。


「分かりました。俺の部屋で打合せをしましょう」


 『結婚云々』はまだ嫁ズへも伝えてはいない。

 朝の忙しい中、「俺、アリスと結婚するから、ヨロシク」なんて、

 ウルトラライトに、「ほいっ」と伝えるなど出来ないもの。


 だが嫁ズ全員を「大事な話」があるなどと言い、引き留めたら、何事かと話が大きくなってしまう。

 タバサ以外の子供達だって、「何事か?」と騒ぎかねない。


 なので、俺はリゼット、クーガー、クッカのみ、

 仕事に行かずウチで待機していてくれと告げていた。


 他の嫁ズは自分に割り振られた仕事、幼児赤ん坊以外の子供達はいつもの通り学校へ行っている。


 俺は嫁3人の打合せの同席を申し入れる。


「ティファナ様、ウチの嫁も3人、現在の状況を伝え、共有したいので同席させても構わないですか?」


「ええ、構いません。こちらも人数を絞ります。ベリザリオとアルベルティーナを同席させても宜しいかしら?」


「OKです。では、場所を移して俺の部屋で話しましょう」


 人数が多くなり、窮屈になってしまったが……

 打合せは何とか開始されたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 天界の秘密に触れる部分も多少あるが……

 緊急事態である。


 俺は包み隠さず昨夜管理神様と話したまでの出来事を告げた。

 当然、万が一を考え、念話を使う。


 全員びっくりしていた。

 特に命を懸けるという俺の覚悟に……

 ここは補足説明が必要である。


『何故、悪魔を始めとした魔族が侵攻しないのか、俺はいろいろ考えてみたんだ』


 そう、何故悪魔を始めとした魔族が侵攻して来ないのか?

 魔王のことわりのひとつ……

 「人間を完全に滅ぼしてはいけない」という含みのある言葉。

 その裏にある意味。

 すなわち……100%じゃなければ、人間や他種族を喰い殺しても……

 「魂ごと『食料』にしても構わないのだ」という怖ろしい事実なのである。

 

 しかし、アリスは『それ』をしない。

 魔族の中には、

 「侵攻し、人間や他種族を容赦なく狩り、地上を魔族の《牧場》にしよう」

 という過激な……まあ捕食者たる魔族にとってはけして過激ではないが、 

 好戦的な意見……主戦派の者だって絶対に居るだろう。

  

 でも……

 アリスは主戦派を押さえ、単身人質のような形でボヌール村へ来た。

 更に神の俺と結婚してまで、魔界を救い、他種族と共存したいと望んでいる。


 アリスの決意と厳しい現実を、俺が投げかけると、

 その場の全員が黙り込んだ。


 やがて……

 俺以外で最初に口を開いたのは、元魔王のクーガーだった。


『アリスは……本気だと思う。そして嘘偽りなく、旦那様に接し、平和を望んでいると確信する。私は彼女との結婚を許し、魔界を救う為にも全面的に協力するわ』


 リゼットもクッカも同じ気持ちらしい。

 反対意見を述べず、黙って大きく頷いていた。


 そしてティターニア様は、


『私もクーガーと同意見です。それに管理神様の言動が気になります。私の時以上に、特別なお考えが……深謀遠慮がおありに違いないわ』


 これは俺も同意だ。

 管理神様は、俺の要望を全て聞いてくれた上、

 創世神様へのお願いも頭から否定しなかったから。

 

 それどころか、悪いようにはしない。

 「結果良し」にしてくれるとまで、励ましてくれた。


 ここで「はい!」と挙手して、発言を求めたのは妖精のアルベルティーナである。


『私は悪魔にとらわれ、凄く怖かったけど……ケンの話を聞くと、アリスは違うと思う。それにタバサにも聞いて確かめたい』


 アルベルティーナは……ティナは、信頼出来る親友タバサの身を案じ、

 直接考えも聞きたいのだろう。


 更にティターニア様が俺を呼ぶ。


『ケン』


『はい、ティターニア様』


『アリスが戻ったら、一対一で話してみたい。構わないかしら?』


『ええええっ!? ティ、ティターニア様! 何を仰います!!』


 ベリザリオが主の発言を聞き、驚愕していたが……

 ティターニア様は優雅な所作で、部下を制止すると、

 

『どう? ケン』 


 と再び尋ねて来た。


『俺は構いませんけど……アリスとサシで大丈夫ですか?』


『うふふ、大丈夫! オベにOK貰った良い提案があるの。ええっと、こういうのどう?』


 ティターニア様は簡単に説明をしてくれた。

 成る程!

 

 オベロン様公認のアイディアは中々……

 というか凄い英断である。

 

 ある『大きな条件』が前提だが……

 提案自体は全く問題がないと思う。


 俺は即座にOKを出した。


『……もしもアリスが本気になれば、私達はただじゃすまない』


『ティターニア様……』


『それにね、家出をした先輩として、後輩とじっくり話もしたいし』


 ティターニア様は……

 『凄いおみやげ』を提示した上で、アリスと直接話し、真意を確かめたいに違いない。

 そして夫のオベロン様に、自分の考えを加え、伝えるのだろう。


 でも……

 真摯なアリスとなら……

 ティターニア様はきっと上手く折り合える。

 

 確信した俺は大きく頷いていたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る