第15話「魔王を救え!④」

 魔王アリスが神となった俺と結婚する事を考えていた。

 神と魔王という究極の『政略結婚』を考えていた。

 

 そして強烈なインパクトを各所へ与え、己の立場を強固にしようとしていた。

 打てる選択肢を増やし、魔界を救おうとしていた。


『アリス、お前の基本的な考え方とやろうとしている作戦はほぼ分かった。次は魔界の現状を具体的に聞きたい』


『うん、魔界の……現状ねぇ』


『ああ、魔界を救う事が出来れば、お前は無理やり俺と結婚する必要はない』


 そう、魔界を救えれば……

 アリスは俺と結婚する必要などない。


 対してアリスは何故か元気なく口ごもる。


『そう……だよね。魔界が回復すれば、ケンと結婚する必要……ないよね』


 言い難そうに口ごもるアリスを見て、俺はふっと思い立った。


『ああ、お前は可愛い。もしかしたら、もう結婚してるか、婚約者が居るだろ』


『…………』


 俺の問いに対し、アリスは黙ってしまった。

 でも、ここははっきりさせないと!


『ノーコメントか? じゃあ、好きな相手くらいは居ただろ?』


 と、聞けば。

 アリスはきっぱり。


『うん! 好きな相手は居る!』


 おお、やっぱ!

 アリスには好きな相手が、『想い人』が居るじゃないか!


『だろ! じゃあ、俺みたいな人間と政略結婚する必要なんかない』


 と、俺が言えば、

 アリスからは衝撃的な発言が!


『……私、実は結婚してる!』


『おいおい、アリスは既婚者かよ? だったら尚更だ。俺も不倫なんかしたくねぇし! それとも魔界はこの国の逆、一妻多夫制か?』


 と追及すると、アリスは大袈裟に肩をすくめた。


『もう良いよ、その話題は! 過去はどうであれ私はケンと結婚する! もう決めたの!』


 何か、このままじゃあ不毛な会話へ陥りそうな気がある。

 後回しにするか……


 そうだ!

 管理神様が言っていた。

 時間があまりないのだった。

 愚図愚図していたら、魔界は救えず、アリスは命を差し出す。

 

『分かった、話題を変えるというか話を戻す。……魔界がレッドゾーンって具体的にどういう事なんだ?』


『ええ、ズバリ、食糧不足よ』


 食料不足……

 もう少し聞いてみよう。


『食糧不足か……魔界の食料事情を教えてくれ』


『良いわ。魔界でも地上と同じ、家畜を飼い、作物を育ててる』


『成る程』


『でも家畜が死に、作物が育たなくなった』


『…………』


『それで地上へ、という話になった。食料を確保する為に』


 地上侵攻は、大いなる主が魔界に飽きた。

 当初、メフィストフェレスはそう言っていた。

 しかし内情は違っていた。

 でも、食糧不足なんて言えないから、偽っていたんだ……


『分かった。……そもそも魔族の食生活ってどうなんだ? 人間とはやっぱり違うんだろうな』


『確かに人間とは違う……だけど同じ食生活は送れるのよ』


『人間とは違う……だけど同じ食生活は送れる。う~ん、分かりにくいな』


 俺が首を傾げると、アリスは改めて説明してくれた。


『ええ、魔族は人間と同じ食生活は送れる。だけど基本的には合わない。地上の食べ物が美味しくないの。例外を除いては』


『例外を除いて、地上の食べ物が美味しくないって事は……一応、大好物があるんだな?』


『あるわ! ……人間よ。アールヴや妖精も好むわ』


 おっと!

 ズバンと直球が来た!


 そりゃ、そうだ。


『うわ、やっぱりそうなのか。俺達人間にとって魔族は完全に捕食者だな』


 と、俺が聞けば、アリスはきっぱりと言い放つ。


『ええ、魔族は食物連鎖の頂点に立つ存在。一番美味しいのは人間の魂、次に血、そして最後に肉ね』


『…………』


 リアルな想像をした俺が黙り込むと、アリスは更に言う。


『人間なんて……私は全く食べた事がないけどね』


 アリスが……この子が人間を捕食した事はない。

 何故だか、俺はとてもホッとしてしまった。


『そ、そうか……それは良かった』


 安堵する俺を見て微笑むアリス。

 

『話を戻すわね。魔族が、人間の魂や血が好きなのは、含まれる魔力が美味しいから。私は……魔界の家畜の魔力だけ摂っていたのよ。人間が食べられないから』


『もしや……』


 とここで俺は考えた。

 クーガーが魔王だった頃……

 人間を栄養分としていたのかと……


 しかし俺の考えは杞憂だった。

 まるでアリスは俺の考えを見抜くが如く告げたからである。


『大丈夫! クーガー先輩は私と同じ、人間を食べてはいない』


『そ、そうか……』


『リリアン……つまりサキちゃんも一緒。人間を食べてはいない』


 おいおい!

 家族にも伏せてある天界の秘密……

 サキの転生の事情まで……知ってるのかよ。


『アリス! ……お前……』


『言ったでしょ? 私はね……ケンの事は何でも知ってる。これで分かった?』


『そのようだ……しかし俺の方はアリス、お前の事を殆ど知らない』


『私と結婚すれば……全て分かるわ』


 アリスと結婚すれば分かる。

 彼女と協力し、魔界を救えば、謎が解ける。

 

 俺の心には……

 アリスと管理神様の言葉が交錯したのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る