第16話「魔王を救え!⑤」

『私と結婚すれば……全て分かるわ』


 魔王アリスと結婚すれば分かる。

 彼女と協力し、魔界を救えば、全ての謎が解ける。

 

 俺の心にアリスと管理神様の言葉が交錯する。


『……分かった。余計な事を考え、話の腰を折って悪かった』


『いいえ……大切な事よ』


『今度こそ、話を戻す。つまり魔族が怖ろしい捕食者である限り、俺達と共に暮らして行くのは高難度だって事さ。アリスのように理性があって知能が高ければ別だろうけど』


『そうね……』


『ゴブリンやオーク、オーガと共に暮らせはしない。奴らは人間を害し、喰う事しか考えていない。今迄の俺の経験則ではそうだ』


『ええ、ケンが言った低級な魔族は監督者、否、支配者が居なければ本能の命ずるがままに……人間を襲うから』


『成る程……魔族が人間と同じ食生活を送る。絶対に人間を襲わない……そのように誓い、実証して見せなければ共存は難しいだろう』


『その通りだわ。もしも私が人間だったら……そう思うもの』


 人間の立場で考える事が出来るアリスはさすが傑出した存在。

 上級悪魔たるメフィストフェレスやアガレスが一目も二目も置く存在。

 話していてそう思う。


 俺も考えていたアイディアを出そう!


『よし! 魔族が人間と同じ食生活を送る。絶対に人間を襲わない方法は……いくつかある』


『教えて!』


『ああ、まずは当たり前の方法! 人間と同じ食生活を実践し、長きに亘り実行する事』


『成る程……超まずい食事を我慢して摂る。それを時間をかけて……例えば100年くらい続けるのね?』


『そういう事。だが食事を美味しく楽しく変えられる可能性はある!』


『食事を美味しく? 楽しく? 変えられる?』


『ああ! ウチの……ユウキ家の料理をお前は美味しいと思っただろ?』


『うん! ケンの家で食べるハーブ料理は美味しいわ。皆で食べると楽しいし!』


 アリスは先ほどの食事を思い出したのだろう。

 嬉しそうに笑い、目を輝かせた。


『ならば相性がある。魔族にも美味しいと思える食材や料理がきっとある! 人間を食べなくても済むくらいのな!』


『うん、そうだね』


『加えて、食事の方式も変える! 効果倍増だ』


『了解! 良いわね!』 


『……ふたつめは人間の食材を、魔族向きに改良する事』


『魔族向きに改良?』


『ああ、俺の前世では疑似的な食品……つまりコピー食品があったから』


『コピー食品?』


『ああ、コピー食品だ。……コピー食品とは他の食材に似せ、別の食材を用いて作った加工食品さ』


『別の食材を用いて作った加工食品……』


『うん! 本来の食材が高価で稀少な場合とか、病気やダイエットなどによって食物制限がある場合に代用食として用いられていた』


『代用食……』


『技術次第だが、本物そっくりなんだ。食感も味も! 例えば……肉の代用として豆を使うとか、魚肉を違うものに似せるとかだな』


 そう言いながら、俺は少し不安になる。

 魔族の一番の好物。

 人間の魂のコピー食品なんか、作れるのかと……


 しかし……

 アリスは素直に喜んでくれた。


『………………それ良い! グッドアイデアね!』


 嬉しそうなアリスを見て、俺はネガティブな思考を捨てた。

 トライ&エラーでガンガン挑戦して行くしかないって!


『ああ、研究、開発が必要だが、多分選択肢は多いだろう。食材は地上だけでなく、魔界の食材を使ってもOKだと思う』


『ケン、ありがとう! 第一案と共に、いろいろ研究し、試す価値はあるわね!』


 完全に晴れやかな表情となったアリス。

 ここで俺は究極の提案を行う。


『だな! もうひとつ! これは限りなく実現が困難だが……』


『何? 教えて!』


『創世神様に奇跡を起こして貰う』


『ええっ!? 創世神に!? 奇跡……って』


 アリスはさすがに驚いていた。

 しかし俺は話を続けて行く。


『魔族の体質を根本的に変えて貰う。人間……いやアールヴやドヴェルグに近い存在にして貰うんだ』


『アールヴやドヴェルグ……』


『うん! アールヴやドヴェルグは妖精族の末裔……つまり人外だった。しかし今や人間と立派に共存してる。魔族が彼等と近い存在になれれば、人間社会で折り合い、上手くやって行ける!』


 アールヴ……エルフ。

 ドヴェルグ……ドワーフ。

 考え方や生活様式は違うが、ふたつの種族は外敵ではなく、上手く人間と折り合っている。


 アリスもイメージが出来たみたい。


『それ……確かに超が付く高難度だね』


『ああ、でも可能性はゼロじゃない』


『可能性はゼロじゃない……』


『忘れたのか? 名誉職だが、俺は神様だ。創世神様は文字通り、本当に雲の上の存在だが……管理神様から上申して貰う事は出来るかもしれない』


『でもそれって……天界からおこがましいとか、生意気だって思われない? 創世神の不興を買うんじゃない? バチが当たらない?』


 アリスは唇を噛み締めた。

 神の怒りは凄まじい。

 簡単に種族を滅ぼしてしまうくらいに。


 しかし……

 俺は覚悟を決めている。


『その時は俺がバチを受ける! 一切の責任を取るさ!』


『ケン……そこまで』


『言ったろ! 魔界を救い、お前の命が失われないよう救う! 俺の持てる力、全てを使う! ……ってさ』


『ケン……』


『アリスは魔界を救う為に命を懸けてるんだろ? 俺も地上を救う為に命を懸けるさ!』


『……………』


『大事な家族、仲間……そしてアリス、お前を救えるのなら、俺は命を差し出しても構わない! どうせ一度死んだ身だ』


『ケ~~ン!!!』


 俺が言い切ると……

 アリスは感極まったらしく、俺に抱き着いて来た。

 そして熱く激しく、俺にキスをしたのであった。

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