第14話「魔王を救え!③」

 アリスからは夜、ウチの家族が寝静まってから話そうと念話があった。

 OKした俺は、いつもの通り仕事をこなす。


 今日は教師の仕事があったので、学校へ。

 機嫌の直ったタバサは、アリスと一緒に、楽しそうに授業を受けている。


 ちなみに俺は校長兼教師、主に社会科を教えているが、急用が出来て授業が行えなくなった者の代理も務める。


 だが……

 いろいろな仕事を抱え、さすがに多忙となって来たので、

 様々な仕事を他の者へ譲り、引継ぎをしたいと感じていた。


 まずは校長の職務を譲りたいと考えている。

 適任者はヴァネッサことグレースだ。


 グレースには日々の仕事は勿論、まだ幼いベルティーユの世話がある。

 だけど、ベルは家族でケア出来る事。

 宿の女将稼業もアマンダの加入で分担出来る事。

 村の子供達にとても人気があり、教師の仕事が好きな事等々が、

 後任の校長へ指名する理由だ。


 グレースへ伝えたら快諾してくれた。

 なので、校長代理へ昇格させ、さっそく引き継ぎを開始している。


 授業終了後、アリスも含め子供達と給食を食べた俺は、午後から畑仕事。

 その後は、さくっと狩り&釣り。


 最近お子様軍団に魚ブームが起こっており、湖の鱒は勿論、

 湖の傍を流れる清流で川エビも捕獲する。

 川エビは、唐揚げにすると実に美味い。


 帰宅して、獲物を処理し、身体を洗うとすぐに夕食。

 1日が実に早い。

 という事で、1日が1週間、1か月、1年と月日が経つのも早いのだ。


 夕食後、夜がふけ……

 俺が私室で事務仕事をしていると、


『ねえ、ケン。タバサはもう寝たわ。約束通り、これから貴方の部屋へ行くけど良いかしら?』


 アリスから念話で連絡があった。

 「了解だ」と返せば、


『転移魔法で行くね』


 と続いて連絡があった。

 瞬間。


『は~い!』


 手を「ひらひら」させている寝間着姿のアリスが、俺の部屋に現れたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『可愛い寝間着じゃないか?』


 アリスにはブルーが良く似合う。

 今はタバサの予備の寝間着を着ていた。


 俺から褒められて、悪戯っぽく笑うアリスが、


『うふふ、ケンにはスケスケの肌着の方が良かったかしら?』


『おいおい、何言ってる』


『だって、私は最初からそのつもりだもん。ケンと結ばれれば全てが上手く行くって計算よ』


『俺とお前が結ばれれば上手く行く……成る程……そういう作戦か』


『うん! ケンが私と結婚すれば、さすがに魔界を見捨てないでしょ?』


『ああ、見捨てないだろうな』


『地上をまとめつつあるケンならば……人間、妖精、アールヴと、そして親交のあるドヴェルグとも、私達、魔族を上手く折り合わせる。人間だって、少なくともこの村の貴方の家族だけは助かるしね』


『まあ……そうだろうな』


『念の為、言っておくけど……単なる同情や好意で、私に力を貸すというのでは弱い。全然ダメ! インパクトがない!』


『そうか』


『絶対そうよ! 神が魔王と結婚し、夫になるという、前代未聞の既成事実が必要なの。人間もどこの種族でもやってるでしょ? 政略結婚を』


『納得だな。神と魔王の夫婦……確かにインパクトがありすぎるくらいの政略結婚だ』


 何か、話がとんでもない方向へ行っている。

 しかしアリスのロジックは間違ってはいない。


 と、ここでアリスが尋ねて来る。


『淡々と言ってるけど……ケンは私が嫌い?』


『いや、嫌いではない。ただ俺とお前は会ったばかりだぞ』


『時間は関係ない。会って互いに嫌いでなければOK! まだボヌール村へ来たばかりだけど、私は上手く行くと確信しているわ』


 ふうん……

 割り切ってるな。

 

 まあ平和が一番だし、デメリットは見当たらない。

 高貴な魔王と結婚するから、他の嫁はダメ!

 全部消せ!

 などと言われたら、話は別だが……

 まあ、クーガーの時は言われたような気もするけど。

 あの時は状況が全く違うし。


『アリス……お前がそこまで考えているのなら、結婚に関して前向きに考えよう』


『あら、前向きって、意欲的にと同意よね?』


『だな』


『魔王と結婚するのよ。全然ためらわないのね? 潔いじゃない』


『今朝言っただろう? 魔界を救い、アリスの命が失われないよう救う。俺の持てる力、全てを使うって』


 俺は先に告げた事を繰り返した。

 けして偽りではない。


『そこまで言われると、ありがたくて涙が出るわね、うふふ……で、管理神からは何をどう言われたの?』


『ああ、今の魔界はレッドゾーン突入の危険な状態だって。俺との折り合いがつかず魔界を救えなかったら延命の為、アリス、お前は命を差し出すって』


『もう! ぺらぺらと、喋ってくれたわね』


 腕組みをしたアリスは、口をとがらせた。

 俺はもうひとつ、伝えておく。


『後……魔王のことわりも聞いたぞ。全部じゃないけどな』


『あいつはホント、神の癖におしゃべりね! 呆れるわ』


『いや、管理神様の口が軽いんじゃない。俺が知りたくて無理やり聞いたんだ。それにアリスと魔界を救う為、形振なりふり構うなと言ったのは管理神様なんだよ』


『うふふ……ケンもあいつも、ホントに神らしくないわ。普通だったら見捨ててるわ。一切をね』


『一切を見捨てる……か』


『ええ、破壊と再生……それが創世神のことわりだから。全てを無にしてリセット。そして作り直す。数多の神話を見ればそうじゃない?』


 アリスの言う通りかもしれない。

 確かに神は破壊と再生を繰り返して来た。

 しかし……


『かもな……だが、俺には全てを破壊するなんて、到底受け入れられない。それにお前を助けたいと思ったのは、家族だけが助かるとかの打算じゃない』


『分かってる! それがケンだものね』


 俺が素直に気持ちを吐露すると……

 アリスは何故か納得し、大きく頷いていたのである。

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