第13話「魔王を救え!②」

 翌朝4時前……

 気遣いして表面上だけ、タバサに起こされたアリスは、晴れやかな表情で俺を起こしに来た。


 まあ……起こしに来たというのは違う。

 俺はいつも通り、3時には起きて身支度をしていたから。


「おっは! ケン!」


「おう、おはよう、アリス。今日はまともな時間だな」


「まともな時間って……それでもまだ早いじゃない」


「農民の朝は早いんだよ」


 という、とりとめのない会話の後……

 俺は単刀直入に斬り込む。


「アリスは……念話を使えるよな?」


「何よ、急に……ええ、使えるわ」


「よし……」


 と俺は言い、念話での会話を始めた。


『昨夜、管理神様と会い、話した』


『え? あ、あ、そう……それで』


 アリスは平静を装っている、

 だが、気にしているのは確かだった。

 俺はズバズバと言葉を告げて行く。


『おう! 約束したんだ』


『約束? 管理神と何を約束したの?』


『お前を救う!』


『え?』


『魔界を救い、お前の命が失われないよう救う! 俺の持てる力、全てを使う!』


 俺が決め球を投げ込めば、アリスは面白いくらいに動揺した。


『な、な、何よ、それ!』


『言葉通りさ。無茶して死ぬんじゃないぞ!』


『…………』


 俺が念を押すと、アリスは黙り込んだ。

 唇をぎゅっと噛み締め、拳を握りしめていた……

 瞳が潤んでいた……


『アリス、後でじっくり話そう。いろいろとお前に事情を聞く。管理神様のOKは貰ってる。……一切合切、全部俺に話すんだぞ。分かったな?』


『…………何よ! 朝一番でモノスゴイ直球ガンガン投げ込んで来て!』


『はは……分かりやすいだろ。……今まで良く頑張ったな。……もう大丈夫だ』


『……もう! ケンはいっつもそう! わざと意地悪して、直後に凄く優しくして、すぐ女子を泣かすんだから!』


『何だよ、いっつもって……俺が極悪人みたいじゃないか?』


『知らないっ! もう行く。ご飯作って食べて、子守りして、タバサと学校へ行くっ!』


 そう言い捨てると、アリスはきびすを返し、

 俺の部屋を出て行ってしまった。


 ……しばらくして、タバサが部屋へやって来た。

 腕組みし、怖い顔して、俺を睨んでる。


「おはよう! どうした、タバサ」


「パパ……どうしたじゃないわ。何で、アリス姉を泣かせたの?」


 タバサの問いに対し、俺は念話で返した。


『ああ、アリスへは、地上を絶対に攻めないでくれって頼んでた。絶対タバサ達を害する事がないようにって』


『な、何それ?』


『言葉通りさ。今日もアリスをフォローしてやってくれ。……頼むぞ』


『……分かった! 任せて!』


 タバサは勘が良い。

 そして聡明な子だ。

 俺とアリスが、何か大事な話をしたのに気づいたようだ。


 表情を一変させ、優しく微笑んだのである。 


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 タバサが去ってから、俺は少し考えた。


 我がユウキ家には暗黙のルールがいくつかある。

 そのうちのひとつが情報の伝達順序だ。


 案件の重要度、内容にもよる。

 だが……

 まずは第一夫人のリゼット、そしてクッカ、クーガーへ、

 他の嫁ズへは基本、リゼットから……

 という順番となっている。


 内容が内容だけに……

 元魔王のクーガーとまずは相談すべきか……

 大いに迷ったが、いつもの通り俺はまずリゼットへ概要を伝える事にした。


 目立たないよう、念話でリゼットを部屋を呼ぶ。


 このような時、リゼットは不自然な行動を取らない。

 やっていた朝食の準備を誰かに頼み、さりげなく俺の部屋へやって来る。

 会話も念話ですぐ対応してくれる。


 泣いたアリスや怒ったタバサの様子も見ているはずなのに、

 余計な事も一切聞いては来ない。


『おはようございます。旦那様、お話し、お聞きします』


『おはよう、リゼット……アリスの事だ』


『はい、お願いします』


 リゼットへはまず要点のみを伝える事にした。

 詳しい説明は後である。


『管理神様と話してOKを貰った。俺の全能力を使い、あの子を救う。それがこの世界を救う事にもなるようだ』


『……はい、了解しました。私達妻の気持ちはこれまでと同じ……全く変わりません』


『リゼット……』


『旦那様を信じ、ついて行くのみ……アリスも……あの子も私と同じく救ってあげてください』


『ああ! 救う! 必ず救うよ!』


『やれる事はあまりないし、限られるでしょう。ですが……何かあれば私達へ仰ってください。尽力致します』


 リゼットはそう言うと、にっこり笑った。


 初めて出会った時に、俺と離れたくないと泣いた少女は……

 成長し、たおやかな女性となった。

 愛し愛し合い、俺の子を産んでくれて……強くたくましい母となった。


 そして……

 いつも俺の心と身体を支えてくれるのは変わらない。


「ありがとう!」


 最後には念話ではなく肉声ではっきりと、

 リゼットへ伝えたい大きな感謝の気持ちを、俺は告げていたのであった。

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