第12話「魔王を救え!①」

 美少女魔王アリスのボヌール村生活も好スタートを切った。

 タバサのフォローもあり、ユウキ家へ、そしてボヌール村へも、

 完全に馴染んでしまった。


 アリスの思惑とは一体なんだろう?

 真意を確かめるのは少し後にするけれど……

 その前に管理神様と少し話さなければならない。

 

 管理神様から神託を受けたという、アリスの話を今更疑うつもりはない。

 だが……テレーズの時同様、管理神様の深謀遠慮に触れておく必要があると思ったからだ。


 神とはいえ、俺はほいっと赴き、管理神様達、天界の神々へ自由に会えるわけではない。

 夢というか、何もない亜空間を通じ、それも声のみでコンタクトするしかないのだ。

 なので、就寝前に『管理神様、お話ししたいのです』と強く念じ眠った。


 すると……ご都合主義というか、

 気が付いたら、お約束の真っ白な世界に居て、


『ほ~い、ケン君、アリスとは上手くやってるか~い』


 と聞き覚えのありすぎる声が、いきなり予備動作ナッシングで降って来た。


 これで、いろいろアリスの事を聞く事が出来る。

 

 いろいろ裏事情を知っているらしき管理神様。

 接触出来て安堵した俺は、深々と頭を下げる。


『管理神様、こんばんは。ええ、アリスとは何とか折り合っています、今のところは』


『今のところ?』


『はい、まだアリスの真意が見えません。でも……何となくですが、根は悪い子ではないと思いました』


『それは何故かな~?』


『はい、地上を攻め取る気なら、こんなに回りくどい事をしないと思いますし、魔界を良くしたい、共に新たな時代を切り開きたいと言った時、彼女の顔付きは真剣でした』


『うんうん』


『……まあ、焦らずに、これからじっくり事情を聞こうと思っていますけど』


『成る程! だがあまり悠長にもしてられない』


 あれ?

 管理神様の口調が変わった。

 真面目になった?

 これは結構、シビアな展開やもしれない。


『悠長にもしてられないって、解決までの時間が限られてるって事ですか?』


『うん! 時間があまりないんだ』


 タイムリミットがあるという事か……

 はっきり言って、良い事ではない。


 まあ……

 内容次第だが、アリスには協力しようと思っていたからOKである。


『分かりました。では気合を入れ直し、心して解決に取り組みます』


『頼むよ』


 正式に、管理神様から頼まれた。

 でも……

 ここで話を終わらせてはいけない。

 聞きたい事がいくつもある。


『あの……管理神様』


『何かな?』


『アリスに関して、いくつかお聞きしたいのですが』


『構わない、どんどん聞いてくれ』


『で、では遠慮なく……まず魔王のことわりとは何でしょう?』


『ふむ、魔王の理ねぇ』


『はい、教えて頂けますか』


『いや、神であるケン君には悪いけど……具体的な内容は言えない』


 魔王の理……明かせないのかぁ……

 クーガーもアリスも教えてはくれないだろうなぁ……

 

『そう……ですか』


 と、俺が落ち込めば……

 管理神様は、


『う~ん。仕方がないかなあ……』


『え?』


『ケン君へ、魔王の理をざっくりとだけ、教える』


『お、お願いします』


『魔王の理とは……魔界の長たる魔王が天界と交わした約束事。ズバリ生き方の筋道だ』 


『え? 天界と魔王の約束なんて、そんなモノがあったんですね?』


『うん! しっかりあったんだ。その理が、長きに亘り地上と魔界のバランスを保っていたんだ』


 魔王の理が地上と魔界のバランスを保つ……

 そうだ!

 

 アリスは魔界を救いたいと言っていた。

 バランスが崩れた?

 魔界に何か、アクシデントがあった?

 だんだん……話が見えて来たかも。


 とりあえず、管理神様へもっともっと聞いてみよう。


『成る程……管理神様。ズバリ、お聞きします。魔界の現状って……ヤバイのでしょうか?』


『うん、だいぶ危険な状態だ。完全にレッドゾーンだと言えるね』


 レッドゾーン……

 そこまでヤバイのか……

 そう言えば、ひどく明るく振る舞ってはいるが、アリスは真剣だった。


『そうなのですか……』


『うん! 詳しい事情は、ケン君が直接アリスへ聞くと良い。僕がOKしたと言ってね』


『わ、分かりました』


 うん、これでいろいろ、アリスへ聞ける。

 やはり管理神様と話せて良かった。


 しかし、一旦安堵した俺へ、管理神様が告げる。

 

『これだけは言っておく』


『な、何でしょう?』


 と、俺が聞けば……

 管理神様は衝撃の事実を明かした。


『魔王アリスは、もしも魔界を救えなかったら、己の命を犠牲に差し出す』


『ええっ!? い、命を!! あいつの命を!! ぎ、犠牲に!?』


『ああ、命だ! アリスの命を代償にして、魔界は延命される』


『命を代償!! それも、え、延命って! 魔界を完全には救えないのですか!』


『うん! 救えない』


 ショックだった。

 魔界を救えなければ、アリスの命が代償として贖われる。

 それも、魔界を完全には救えないのに……

 返す言葉が……出て来ない。


『…………』


『ここで、悩めるケン君に僕から大サービスだ』


『え?』


『魔王の理をひとつだけ、具体的に教えておく』


『お、お願いします!』


『魔王はね、人間を完全に滅ぼしてはいけないんだ』


『え? 魔王が人間を……完全に滅ぼしてはいけないって、結構含みのある言葉ですね』


『うん! 言葉の裏にある深い意味は、自分で考えてくれ』


 魔王が人間を……完全に滅ぼしてはいけない。

 相当、謎めいた言葉である。

 しかし解決の糸口は見えて来ない。


『自分で考える……りょ、了解です!』


『ケン君、いろいろ疑問に思ってるよね?』


『え、ええ……』


『君は敢えて聞いて来なかったけど……何故、光を司る天界の管理神たる僕が、対極といえる、闇の王アリスへ神託を与えたのか……とか』


『ええ、はっきり言って、全然分からないです』


 アリスの話しぶりや言った内容からして、

 多分、管理神様から神託を与えられたのは本当だと思って質問はしなかった 

 

 でも、改めて考えてみた。

 管理神様は、真逆な存在のアリスへ、何故神託を与えたのだろうって?

 敵に塩を送る美談のような事を……


『その答えは……ケン君がアリスに協力し、魔界を救った時に出ると思う』


『俺がアリスに協力して魔界を救う……それで全てがはっきりする。成る程……分かりました。アリスに協力します』


『うん! 宜しく頼む!』


『念の為、お聞きします。神として勇者として、俺の持てる力を全て発揮して構わないんですね?』


『ああ、ケン君の全ての能力を全開、持てる人脈をフルに使ってくれ。不明な点があれば、こうやって聞きにくれば良い』


 管理神様から、完全にお墨付きが出た。

 神が魔王を救う!

 持てる全てを使って!


 普通ならありえない。

 だが……

 例によって、管理神様の深謀遠慮があるに違いない。


 ならば、遠慮しない!

 俺は、なりふり構わずアリスを救う!


 目が覚めたら……

 甘えん坊なあいつと正面から向き合おう。


『管理神様! ありがとうございます! 絶対にアリスを、魔界を救います!』


 相変わらず姿を見せない管理神様へ、

 俺は再び、深々と頭を下げていたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る