第9話「美少女魔王と暮らそう①」

 「降臨した」その日から、少女魔王アリスはボヌール村で暮らし始めた。


 テレーズの時同様、無責任に他家へ「ほいっ」と預けるわけにはいかない。

 なので、当然の事ながら、我がユウキ家でお預かりする事となった。


 これまでに巡り会った嫁ズの何人かを、上手く帳尻を合わせ、

 ボヌール村へ受け入れては来た。

 だが、今回のアリス受け入れは、過去の『テレーズお預かり体験』が、

 とても役にたっているのは、紛れもない事実だ。


 テレーズは妖精女王の少女擬態と、アリスは少女魔王……

 性格は違うし、立場も違う。


 だが……年齢背恰好はほぼ同じ。

 風貌は10歳くらいの金髪碧眼美少女。


 『本当の事情』を知らないタバサ以外の子供達からは、

 『テレーズお姉ちゃん』がまた来たのかと聞かれたほどだった。

 まあ、本物のテレーズことティターニア様も後で来るのではあるが……


 今回はアリスを「ただ預かる」だけではない。

 彼女には、まだまだいろいろと聞きたい事がある。


 俺はアリスと深くコミュニケーションを取った上で、彼女の真意を見極め、3首脳と相談する必要がある。

 そして今回の仕掛け人、否、仕掛け神らしき、管理神様とも。


 さてさて!

 まずアリスには、ボヌール村の暮らしに慣れて貰わねばならない。


 また交わした約束はしっかり履行して貰う。

 すなわち自分の事は自分でやり、村の仕事も手伝うという事。


 先述したように段取りはテレーズの時と同じ。

 ユウキ家での地味な雑用から始まり、子守りをして、まずは人間の家庭って奴に慣れて貰う。

 次にお使い等をして貰って、村の雰囲気や生活にも少しずつ慣れさせる。

 頃合いを見て、大空屋の店番で徐々に村民へ顔を覚えて貰うという流れ。


 しかし夫の浮気に悩んで家出した妖精女子と、

 怖ろしい悪魔を束ね、地上征服を狙い少女魔王……

 やはり家族の受け取られ方が違う。


 敢えて名は秘すが……

 魔王に大事な赤ん坊の子守りをさせられないと、

 強い懸念を見せた嫁も居た。


 しかし今更である。

 一緒に暮らしている時点で、俺は覚悟を決めている。


 もしもアリスが『その気』になれば、俺以外は簡単に殺す事が出来るからだ。


 そもそも俺が受け入れを決めた決定打は管理神様である。

 魔王のアリスが管理神様から神託を受け、

 魔界を救う為に来たという意思に感銘したからなのだ。


 アリスお預かりに関し、積極的に動いてくれたのはタバサだった。

 外見だけは少し年上のアリスをレクチャー、仕事を一緒にする役目を立候補してくれた。

 

 そして何故か、「私にも責任がある!」と言いきり、

 クーガーもアリスを引き受けると言ってくれたのである。


 なんやかんややっているうちに、すぐ夕方となった。

 アリスは、ユウキ家全員へ元気良く挨拶した。

 堂々としているのは勿論なのだが、不思議な事に慣れている感が半端ない。

 夕食の準備をタバサと共に手伝い、にっこにこ。


 食事が開始されると……

 アリスは期待を裏切ることなく、旺盛な食欲を見せ、

 我が家名物のハーブ料理をぱくついた。


 そしてウチの子供達と同じく午後9時前には就寝したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「おっはぁ!!!」


 翌朝……

 俺は朝一番で起こされた。

 身体をつかまれ、ぶんぶん思い切り揺さぶられた。


 いつも午前3時から4時の間には起きる俺ではある。

 だが、部屋に置かれた魔導時計を見れば……

 その時間よりも……全然早かった。


 何と!

 まだ午前1時30分過ぎである。


 おいおい、まだ真夜中だぞ。

 何故こんな時間に? 

 と思えば、……アリスだった。


「ケ~ン、おっは! バリバリ仕事するよぉ!!」


 ひどく張り切っているアリスの顔を見て、俺は一瞬考えた。


 常識がないと、怒ったり、叱ったり、たしなめるのは簡単。


 しかし、やる気になっているアリスの頭から、

 ざぶんと冷水をぶっかけるようなものである。

 そんな事は愚の骨頂だ。


「おはよう、アリス。すげぇ気合入ってるな」


「当然! 私は超早起き! 朝はめっちゃ強いわよ! でもでもぉ、ティターニアは、結構な《ねぼすけ》だったんでしょ?」


 成る程!

 今の言葉で分かった。


 アリスは以前、ティターニア様がボヌール村で暮らした事を知っている。

 『ねぼすけ』などと言うくらいだ。


 暮らしたという事実だけではなく、『暮らしぶり』も把握しているようだ。

 そして当然自分が『比較』されるという事もしっかり認識しているのだ……


 それゆえまずは、超が付く早起きをして、

 強烈なファーストインパクトを与える。

 加えて、日々の生活において「全てティターニア様の上を行く」

 そう決めたに違いない。


 まあ、アリスの思惑は分かった。

 だけど……

 この時間からどう過ごそうか。


 しばし迷ってから、考えた結果、俺は決めた。

 改めて見れば……

 アリスは寝間着ではなく、既に昨日渡した作業着に着替えていた。

 パーフェクトだ。


「アリス、まだ外は暗いぞ」


「うん、真っ暗!」


 アリスは平然と窓を指さした。

 外は当然真っ暗である。


 俺は柄にもなく、


「早起きしたご褒美だ。正門脇の物見やぐらに上らせてあげる。星空が凄く綺麗だぞ」


 と、言えばアリスは「気障だわ」とか皮肉など言わず、

 素直に喜んでくれた。


「うっわ! 素敵!」 


 更に、俺へ催促する。


「ねえ、ケン。それからそれからどうするの?」


「うん、星空を眺めたら、厩舎へ行って馬の世話をやろう。フィオナとはもう会ったから、新たにベイヤールを紹介しようか」


 と俺が言えば、アリスは「ポン!」と手を叩く。


「あ! それ魔界に居た馬だね! 召喚したんだよね?」


 あれ、アリスの奴、口が滑ってる。


「おいおい、し~っ、それ秘密」


「あ、ごめ~ん」


 俺が注意すると、これまたアリスは素直に謝ってくれた。

 「ぺろっ」と可愛く舌を出しているけど。


 一応俺は釘を刺す。


「念の為、タバサ以外の子供達や村民の前で、お前の正体や魔界の話等は一切秘密。しっかり守ってくれよ」


「分かった! 秘密だよね? じゃあ約束って事で、ケンと指切りげんまんしよう」


 指切りげんまん?

 ほんと、コイツいろいろと良く知ってる。


 苦笑した俺は、アリスと小指を絡ませたのである。

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