第10話「美少女魔王と暮らそう②」

 俺とアリスが物見やぐらにのぼって、夜空を楽しんだ後……

 村の厩舎でベイヤール、フィオナ達、馬の世話をしていたら……

 タバサが息を切らせ、すっ飛んで来た。


 『起きがけ』で、髪はちゃんとすいてなくて寝癖がつき、

 「顔もろくに洗っていない」という感じがありありだ。


「はあはあ、ご、ごめんなさ~いっ!!」


「どうした? タバサ」


 と俺が尋ねれば、


「大失敗!! 私、有言不実行しちゃったから!」


 と顔をしかめている。

 どうやら「寝坊した」と、悔やんでいるらしい。


 やっぱりタバサは超が付く真面目な子。

 責任感が強い子だ。


 「アリスは私が引き受ける」と宣言したのに……

 「早速やらかした!」と、猛省しているのだ。


 だがここで、「はい!」と手を挙げ、謝罪したのはアリスである。


「ごめんね、タバサ」


「え?」


「私が早く起き過ぎたの。タバサは全然悪くないよ」


「アリスさん……」


「これからはもう少し遅い時間に起きる。タバサも起こすから」


 何だ、『非常識』なのがちゃんと分かっているじゃないか。

 対して、タバサはどう返して良いのか分からないらしく、無言である。


「…………」


 ここでは……

 俺が「決める」べきなのだろう。


「よっし! じゃあアリスとタバサは午前4時に起床。それで構わないか?」


「パパ!」


「タバサ、午前4時だって、結構な早起きだ。夜更かし出来なくなるし、毎日だときついが、大丈夫か?」


 と、言えばタバサに、笑顔が戻って来た。


「うん、パパ! 頑張って起きる!」


 しかし!

 ここで再び、アリスが「はい!」と手を挙げる。


「午前4時起床なんて、私にとっては大楽勝! タバサを起こしてあげるから、ノープロブレムよ!」


 と、のたまった。


 そんな事を言われたら、タバサも先輩かつ世話役の……

 否、女子としての意地がある。


「ダメ、そんなの! 明日から私、ちゃんと起きて、アリスさんも起こすから!」


「うふふ。そう? 大丈夫なの?」


 対して、まるで面白がるように挑発し、微笑むアリス。


「だ、大丈夫です! 絶対に起きます!」


 断固として!

 という感じのタバサ。


 ここは、再び俺の出番だろう。


「タバサ」


「はい、パパ」


「タバサなら大丈夫。起きられるさ」


「パパ……」


「万が一寝坊したら、アリスお姉ちゃんに起こして貰えば良いじゃないか」


「アリス……お姉ちゃんに? ……わ、分かった! 分かったよ、パパ! お姉ちゃんに起こして貰うね!!」


 タバサは、やはり聡明な子だ。

 俺の真意をすぐ汲み取ったらしい。


 そしてアリスも嬉しそうに……


「ケン! あ、ありがとう!」


 と、声を詰まらせていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 この一件があって、アリスとタバサの距離はぐっと縮まった。

 「アリスねぇ」「タバサ」と呼び合うようになり、互いに笑顔が絶えなくなった。


 話が弾み、あっという間に2時間が経ち、ベイヤールとフィオナ他、

 馬の世話も終わった。


 午前4時前となり、一緒にユウキ家へ戻ると……

 起き出していた朝食番の嫁ズへ声をかけ、厨房にて仲睦まじく、

 朝食の準備を手伝い始めた。


 厨房に、焼き立てのパンの香ばしい匂いが立ち込め……

 ソーセージ、スクランブルエッグが調理され、

 紅茶&ハーブティーが淹れられ……

 食器が大広間のテーブルにずらり並べられると……

 ボヌール村一番の大家族ユウキ家の朝は始まる。


 改めて見回しても我が家は壮観だ。


 世帯主の俺。

 リゼット、クッカ、クーガー、レベッカ、ミシェル、クラリス、ソフィ、

 グレース、サキ、アマンダ。

 麗しき嫁ズ。

 

 タバサ、レオ、イーサン、シャルロット、フラヴィ、ララ、ポール、

 ベルティーユ、生まれたばかりの双子ローランとアンジュ。

 元気なお子様軍団……

 総勢21人の超大家族。

 

 子供はもっと増える可能性が大ではあるのだが、

 『旅行中』のベアトリスを加え、22人の暫定コンプリートだ。


 紹介して貰った時も、アリスは目を輝かせてはいた。

 しかしタバサと完全に打ち解け、家族として一歩も二歩も踏み込むと、

 『見える景色』が違って来るに違いない。


「頂きます!」


 俺が口火を切り、家族全員が無事に朝を迎え、食事が摂れる感謝を述べると、


「「「「「「「「「「「頂きます!!」」」」」」」」」」」


 改めて、全員が続く。

 今日も一日、元気に楽しく過ごしたい。

 明るい明日を迎えたい!

 誰もがそう思ってる。


 これがず~っと続いて来た。

 我が家の儀式……

 否、これからもず~っと子々孫々、続いて行くのだろう。


「…………」


 そんな朝の光景を感慨深く、眺めていた少女魔王アリスは……

 しばし間を置いて、


「頂きますっ!!」


 と高らかに叫んでいたのである。

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