第14話「4者会談開催!⑤」

 なんやかんやあったが……

 経済対策に関してはほぼ大筋がまとまった。


 どことどこが、どのように交易するかとか、ホントにおおざっぱレベル。

 あとは、各首脳が現場の事務方や商人などに話をおろし、

 政策が具体的に実施される事となる。


 政策は多分、「ぱっぱ」と性急には進まないだろう。

 種族を超えた相互の経済政策なんて、この異世界で全く初めての試みだと思われる。

 慎重に、じんわりじっくりと進むのは間違いない。


 まあ、オベロン様なんか、現場を素人のティターニア様にふったから、

 ボヌール村における彼女の研修も含め、まだまだこれから……


 さあて次の議題だ。


 まず経済力と来たら、次は人材の問題だ。

 実は、この話が一番ややこしい……と思う。

 種族間のわだかまりが、これまで円滑な交流を阻害して来たのだから。


 不足している人材を、種族を超え、どう補い合えるかという部分が、

 とてもデリケートなのだ。


 しかしこの難題にも、俺は腹案を用意してある。


『次は人材交流に関してです』


『『『…………』』』


『適材適所、有能なスペシャリストたる人材を、種族を超えた交流により、積極的に採用し活かして行く。これから訪れる新たな世界では必ず求められます』


 と、俺が趣旨を告げれば、


『発言して良いかな、ケン』


手を挙げたのがオベロン様である。


『どうぞ!』


『アールヴ族も多少そのような傾向があるだろうが……我が妖精族は殆ど外界者と交流しない。その上、アヴァロンは結界が張られていて、ほぼ鎖国のような状態だといえる』


『はい、まあそうですね』


『もし交流するにしてもアールヴ族は元妖精族、ほぼ同族だからまだ良い。しかしはっきり言って、私達は人間族が苦手だ。この問題は大きいぞ』


『ええ、オベロン様、ティターニア様含め、妖精族と今までお付き合いして来て、その傾向は感じています』


 そう、今まで出会った妖精族は全て俺を見下し、高圧的に接して来た。

 彼等彼女達のアイデンティティかもしれないが……


 オベロン様は更に尋ねて来る。


『結構、難題だと思うが……ケンに打開策はあるのか?』


『ええ、完全にクリアとか、即効性は難しいかもしれませんが、考えてあります』


『ほう、述べてみてくれないか、ケン』


 と、オベロン様が言えば、


『ケン、我がアールヴも排他的な傾向がある! ぜひ聞かせてくれ』


 と、イルマリ様。


『私もケンのように、種族の垣根を超え、仲良くしたい! ぜひ聞きたい!』


 とレイモン様も言い、身を乗り出した。

 俺は大きく頷き、話を始める。


『了解です。ではお話し致します。この問題は俺だけで解決は不可能です。オベロン様、そしてイルマリ様、当然レイモン様にも全面的に協力して頂きます』


『全面的に協力か……内容にもよるが前向きに検討しよう』と、オベロン様。


『オベロン様と同じく……前向きに考えよう』と、イルマリ様。


 そしてレイモン様は、全面的に賛成する。


『ケン、私はお前の案を信じる。文句なしに協力しよう』


 俺は3人を再び見やり、具体的な話へ入る。


『はい、方法はふたつ、両にらみで進めます』


『『『…………』』』


 まずはノーリアクション。

 全員がじっくり話を聞くという雰囲気だ。


『先ほどオベロン様は、まだアールヴ族とは折り合える。ほぼ同族だからと仰いました』


『うむ、確かに言った』


『第一の案はまず妖精族とアールヴ族の交流です。人間族は入れません』


『我々アールヴと妖精族のみの交流か!』


『それならば、嫌悪感はほぼない』


『…………』


 オベロン様が満足そうに同意するのを、レイモン様は無言且つ複雑な表情で見つめていた。

 無理もない。

 遠回しに、謂れのない差別を受けているのと同様だからである。


 しかし……ここは堪えてください。

 俺がさりげなく念話で告げると、レイモン様はぎこちなく微笑んだ。


 レイモン様へケアが出来たので、とりあえず俺は話を続ける。


『どのように人材交流するのかは、これから方法を考え、具体的な方法を模索し、詰めて行きます』


『了解だ!』

『オベロン様、我がアールヴ族はぜひ! 妖精族と近しくなりたい!』


『…………』


 オベロン様とイルマリ様が喜ぶ様を、レイモン様は少し渋い表情で見つめていた。


 さあ、次は人間族にも入って貰うプランだ。


『次にふたつ目の案です。人間、妖精、アールヴ……3種族の混成パーティ、冒険者クランを結成します』


 と、言えばやはり喰い付いて来たのはレイモン様である。


『おお、そ、それで?』


『はい、レイモン様。僭越ながら初代のクランリーダーは私ケンが務めます。妖精のメンバーはベリザリオを希望します』


 俺がベリザリオを指名したら、オベロン様が即座に反応する。


『ほう、ベリザリオか!』


『はい、ベリザリオです! イルマリ様、レイモン様にご説明しますと……ベリザリオは妖精族の戦士で、オベロン様の配下です。俺は娘のタバサと旅行中、たまたま、悪魔に囚われた妖精の女の子を助けました。その子の父親がベリザリオで、いろいろ紆余曲折ありましたが、結局は心が通じ合えました』


 俺がベリザリオとの経緯いきさつを簡単に説明すれば、オベロン様も同意し、大きく頷く。


『ふむ! ベリザリオならばケンに心酔しておる! ティーの護衛として商取り引きの手伝いをさせるより適任かもしれぬ!』


『はい! ベリザリオの素性は基本的にクランメンバー内だけに明かします。カミングアウトするかは成り行きで、適宜考えます』


『うむ、とりあえずそれで問題ないだろう』


『俺と、妖精戦士のベリザリオ、そして人間とアールヴからも最低ひとりずつメンバーを入れます。ベリザリオ以外の妖精族も歓迎します』


 と、ここで挙手をしたのはイルマリ様である。


『ふむ、ケン。アールヴ族のメンバーはどう選ぶ?』


『イルマリ様に推薦して頂いた候補者を、俺が面接して決めます。腕は勿論ですが、俺達のこころざしに賛同し、言動の誠実たる者が希望ですね。また冒険者ギルドから紹介して貰っても構わないと思います』


『成る程……地道に理解し合える者を増やすのだな』


『はい! このクランを足掛かりにし、生死を共にする事でお互いを理解し、近しくなり、親しくなる第一歩を踏み出したいと思います。俺とイルマリ様のように……』


 イルマリ様への説明を聞き、反応したのはレイモン様である。


『ケン! 人間族もアールヴ族と同じ方法で選抜するのか?』


『はい、おおむね同じです』


『おおむね同じか……ケン、お前が最終的に、面接……つまり実際に会って判断するというのは分かる。しかし大丈夫か?』


『大丈夫か? ……とは?』


『誰しも欲を持つ。出世や金の為、己を偽り、他種族を嫌悪する気持ちを隠し、立候補する者も現れるやもしれぬ』


 さすがは、レイモン様。

 心のダークサイド部分の心配をされている。


 しかしノープロブレムだ。


『大丈夫です、いざとなれば、俺は魂の奥まで……神として相手の心を読みます。それで真意を見極めますから』


 ふるさと勇者の俺は、既に心を読む能力を俺は有している。

 しかし神の力だと告げた方が、敬遠されなくて済む。

 神ならば、心を読まれても仕方がないと、誰しもが納得出来るからだ。


 でもやはりと言うか、レイモン様は少し引き気味である。


『う! 相手の心を読む……か。私達もお前に全て見透かされるとは怖ろしいな』


『すみません。ですが、非常時ですので打てる手は全て打つし、使います』


 俺が「割り切った」という感じで言うと、レイモン様は達観したように笑った。


『ははは……少なくとも私は大丈夫だな。ケンには心を読まれる前に、魂の奥底まで、全てをさらけだしている。常に本音でやりとりをしている』


 ああ、レイモン様、ありがとうございます。

 俺が思わず「うるっ」と来れば……


『私もそうだ!』

『私だって!』


 オベロン様も、イルマリ様も、争うように、

 且つ真剣な顔つきで、きっぱり断言してくれたのだった。

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