第13話「4者会談開催!④」

『では、早速、皆様から提出して頂いた議題を、順次進めて行きたいと思います。ここまでは宜しいですね?』


『意義なし』

『問題などない』

『進めてくれ、ケンよ』


 3人からOKを貰ったので、俺は会議を進める事にした。


『国家運営のエキスパートたる皆様には、今更なのですが……改めて私ケンから、単刀直入にお話しさせて頂きます。とりあえずお聞き頂き、どうしてもという場合のみご質問ください』


『『『了解!』』』


『皆さん、ズバリ、国家の運営において、最も大事なのは経済……すなわち金でございます。レイモン様は特に良くご存じでしょうが、何をするのにもタダというモノはありません』


『『『…………』』』


『我々の間で、巨額の金をどう作りまわして行くのか、まずはその議論から始めましょう』


『『『…………』』』


『但し、妖精の国アヴァロンでは貨幣制度が浸透しておらず、貨幣が使えない、ですので物々交換を前提とさせて頂きます』


『ケン! ちょっと、待った!』


『はい、オベロン様!』


 オベロン様がストップを求めたので、採用。

 念を押してあるから、だいぶ大事な話なのだろう。

 と思ったら、案の定だった。


『ケン、物々交換はナシだ』


『え? なしですか?』


『うむ! 我がアヴァロンでも、人間の貨幣制度を徐々に導入しようと思っておる。便宜上、その方が物を動かしやすいと判断している』


 ああ、物々交換ナシですか?

 貨幣制度導入?

 

 良かった!

 素敵な……話だった。

 安心である。


『オベロン様、賢明なご判断です! ありがとうございます! では話す内容もその方針に沿ったモノに調整させて頂きます』


『異議なし!』

『うむ、アールヴも異論はない!』


『では! 人間の鋳造した貨幣を仲介し、それぞれ足りないモノを売買し、補い合うという事を基本方針と致します』


『『『了解!』』』


『ではレイモン様から、ヴァレンタイン王国からは具体的に何を各国へ提供して頂けるでしょう? またご要望のモノはありますか?』


『はい! 我が国からは数多の食料を始め、求められるものに対し、極力対応して行きたいと思います。また何を欲するかは各国の輸出品を聞いてから判断したい、そう思います』


『了解です! では話を続けます。オベロン様にお尋ねします。オベロン様やティターニア様がボヌール村でお召し上がりになったものは、基本妖精でも食料として通用すると考えて宜しいですね?』


 そう、妖精の食生活って、俺には分からない。

 ボヌール村では郷に入っては郷に従えだったかもしれないし、

 アヴァロンでは逆に気を遣って、人間の食べ物を供されたかもしれないから。


 しかしオベロン様は首を横に振った。


『構わない! むしろ我が同胞アルベルティーナ救出の経験もあるのだから、ケンの方が、私がいちいちチェックしなくとも理解しているだろう?』


『了解です! ではイルマリ様!』


『おう!』


『我が嫁アマンダと暮らしていて、アールヴの嗜好は徐々に分かって来ました。ですが、ここは先日お許しになったエルメル・レミネン様と奥様ヨハンナ様を大いに登用すべきです』


 そうレミネン夫妻は、アマンダの兄アウグストの許嫁ノーラの両親。

 人間社会に出てそれなりの年数が経っている。

 だから双方の事情に通じていて、活躍してくれるに違いない。


『おお、そうだな! ふたりならば人間の国にも通じていて話が早い!』


 イルマリ様が快諾してくれたので、俺はレイモン様へ提案する。


『レイモン様、王都セントヘレナににレミネンというアールヴの商人が居りまして、レイモン様がご存じのキングスレー商会とも懇意にしております。ぜひバックアップして頂ければと!』


 と言えば、打てば響くとばかりにレイモン様はOKを出す。


『了解だ!』


『ケン!』


 手を挙げたのは、オベロン様である。


『何でしょう、オベロン様』


『私の……アヴァロンにおける商取引きの窓口はどうする?』


 おお、来ると思った。

 待ってたほい、具体案を用意してある。


『はい! 一応、考えております。まず取引き場所は、ボヌール村の大空屋を使うのです』


『何、ボヌール村の大空屋?』


『はい! 理由はいくつかあります。最大の理由ですが、ボヌール村は目立ちません』


『成る程』


『はい! それに加え、オベロン様がティターニア様をお迎えにいらした際、アルベルティーナの父ベリザリオと共に、ボヌール村に来た妖精が何人か居ましたよね?』


 そう言うと、すぐにオベロン様は俺の意図を汲んだらしい。


『おお、そうだな! あの者らなら、私と同じくボヌール村でしばしだが生活した。だから、村の勝手が分かっておる! 早速、人選しておこう!』


 よっし、OK。

 ばっちりだ。


『ありがとうございます!』


『ん? 待てよ、ケン!』


『はい?』


 あれ?

 オベロン様、何か引っかかりますか?


『良い事を思いついたぞ、ケン! ティーだ! ティーに働いて貰おう!』


 うわ、何それ?


『ええっ? ティターニア様に?』


『うむ、ティーならば、妖精の中では、最もボヌール村に通じている! 先ほど人選した者に、ベリザリオ、アルベルティーナ父娘も加え、ティーを窓口とし、ボヌール村で商取引きの対応をさせる。それで問題はなかろう!』


 あらら、一気に言い切っちゃって。

 問題はなかろうなんて……


 だけど、女王様が商人をやるって……

 良いんですかね?


 俺がそんな事を考えていたら……


『ははははは! ティーはアヴァロンへ戻ってから、料理を含め、自ら様々な家事をするようにまでなっていた。更に何か役に立ちたいと、いろいろ人間社会の事を勉強していたらしいのだ』


『そうなんですか』


『ふむ、確かにティーは商人が全くの未経験だから、最初は戸惑うかもしれない。だが、お前達とともにアヴァロンの為、働けるとなれば、本人はとても前向きでやる気満々となるだろう』

 

『な、成る程!』


『ティーが行う商人の実務だが、ケン、お前の妻達に教授を願いたい。頼むぞ!』


 オベロン様にそこまで言われたら、何とかなるような気がして来た。

 否、却って良いアイディアかもしれない。

 ティターニア様……いやテレーズならきっと上手くやるはずだ。


『そして商いするモノだが……我がアヴァロンからは、さして効果の強くない魔導具やポーションを提供しよう。世界のバランスを崩さず、生活の役に立つとなれば引き合いはあるはずだ』


『成る程! 良い考えですね!』


 とここで、手を挙げたのはイルマリ様だ。


『ケン!』


『はい、何でしょう?』


『我がイエーラからは当初、アールヴが得意な木工細工などを考えていたが、気が変わった』


『気が変わったのですか?』


『うむ! 我が国からはエリクサーを提供する!』


『えええっ!? エリクサーって、国宝ですよね? ホントですか!』


『ああ、本当だ。但し原液だと効果が凄すぎる。だから1/100くらいに薄め、効果を弱める。バレないよう名前も変える』


『マジなんですね?』


『ああ、マジだ。エリクサーなら、結構な利益をあげられるだろう?』


『まあ、1/100に薄めても引く手あまたでしょうね』


『よし! 私は国民を豊かにする為、決断する』


 イルマリ様は変わった。

 あんなに、国宝のエリクサー流出を嫌がっていたのに……


 商人未経験の妻を働きに出すと言う、主筋のオベロン様に刺激を受けたのかもしれない。

 名より実を優先するようになった。


 しょっぱなから白熱する会議の様子を見て聞いて……

 俺の心は嬉しさに満ちていたのである。

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