第11話「4者会談開催!②」

 クラリスにアテンドされたレイモン様が……

 スキップしながら、城の中へ消えてから間もなく……


 違う方角からは、アールヴの長ソウェルのイルマリ様が現れた。


 俺が大きく手を振れば、速足で近付いて来る。


『おお、ケン』


『イルマリ様、ようこそ』


 という会話があり、その直後、予想通り、

 レイモン様と同じような、『レヴリー城』に対するリアクションがあった。

 サプライズ、続いて成功!!


『おお、何だ、これは?』


『俺の前世……日本の城、夢の中の城、レヴリー城です』


 そんなこんなで、やりとりの上……

 感嘆し、威容を誇る『城』をしげしげと眺めた後、

 イルマリ様は胸を張る。


『当然私が一番乗りだな!』


 一番乗り?

 何という子供じみた自慢。

 俺はあっさり否定する。


『残念! 2番ですよ』


 と告げれば、イルマリ様は熱くなる。

 拳を握りしめている。


『なにぃ!? に、2番!? うぬ! 負けたか! で、では! まさか! オベロン様が先にいらしたのか?』


『いえ、一番乗りは人間族のレイモン様です』


『レイモン殿? う~、それはホッとしたと言うか、悔しいと言うか……』


 エリート意識を改めると誓いつつ……

 イルマリ様はやはり、人間に負けるのは悔しいらしい。

 

 人間より、常に優位に立ちたいという気持ちが強いと見た。

 彼の根本的な意識改革が為されるのは、まだ相当時間がかかりそうだ。


 とりあえず、とっとと、城へ入って貰おう。


『何、言ってるんですか。ではイルマリ様、アマンダが案内しますね』


 俺が合図を送ると、待機していたアマンダが進み出て、優雅に一礼する。


『ようこそ! イルマリ様!』


『おお、ケン、アマンダの顔を見て安堵したぞ』


 先ほどのレイモン様とこれまた同じ。

 前例のない会議に臨むとあって、イルマリ様も緊張していたに違いない。


 緊張を解くのは、イルマリ様と同族、

 我が自慢の美人アールヴ嫁アマンダの笑顔しかない。


『さあ、行きましょう。夢の中でも味わえる、香り豊かなハーブティーと美味しい焼き菓子を用意してあります。会議の終了後は、お食事も用意してありますよ』


『おお、それは素敵だ!』


 というわけで……

 アマンダに先導され、イルマリ様も城へ向かったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 さてさて、大トリは妖精王オベロン様である。

 レイモン様、イルマリ様とまた違う方角から現れる。


『オベロン様ぁ!!』


 と、俺が呼べば、


『おお、我が弟よ!』


 何て言ってくれた。

 はっきり言って嬉しい!!


『ようこそ! オベロン様!』


『うむ、いよいよだな……最初にお前から聞いた時は、そんな会議が可能かどうか、半信半疑だったが、遂に実現したな』


『はい、いよいよですね』


『だが、この建物は何だ?』


 ああ、さすが妖精王。

 生きて来た年月が違う、堂々たる貫禄ぶり。

 先のふたりみたいに、オーバーアクションで、のけぞって驚いたりはしない。


『俺の前世……日本の城、夢の中の城、レヴリー城です』


 と言えば、極めて冷静な声で、


『ふむ、昔東方の果てを旅した時、ヤマトという国で、似たモノを見た事があるぞ』


 何だよ、俺のサプライズ、最後は失敗……

 

 落ち込む俺をタバサが笑う。

 口に手をあてて控えめに。


『タバサ、ほら笑ってないで、こっちへ来い』


『うふふ、は~い、パパ』


 笑顔で駆け寄るタバサを見て、オベロン様が破顔する。


『おお! タバサか……先日は世話になった』


『いえ! とんでもありません、こちらこそ、おふたりに甘えさせて頂き、申しわけありません!』


 クッカとの間に生まれた長女タバサは先日のトライアルの際、

 俺と嫁ズに協力、全村民と共にオベロン様とティターニア様を大いにもてなした。


 タバサは少し前に実施した、俺とふたりきりの卒業旅行で完全に変わった。

 王都へ赴き、見聞を深め……

 たまたま悪魔にさらわれていた妖精のアルベルティーナを助け、親しくなり、

 終いには境地アヴァロンへ行き、妖精王夫婦と仲良くまでなった。


 以降「俺の跡を絶対に継ぐ!」と宣言し、お子様軍団の中でも圧倒的なリーダーシップを発揮。

 言葉遣いも、物腰もガラリと変わった。

 今回の会議においても「ぜひ!」と手伝いを申し出たのである。


 俺から今回の経緯を聞いたが、タバサは臆していない。

 アルベルティーナ救出の際も、悪魔の横暴に憤った事もあり……

 今回の侵攻の実態を知り、緊張し、震えながらも、戦うと返してくれた。

 我が娘ながら、健気で頼もしいと思う……

 

 ちなみにユウキ家お子様軍団の中で、俺の秘密を知るのはタバサのみ……

 そんな『特別感』も彼女が気合が入る一因となっているようだ。


『実は今夜もティーが来たがった。仕事だからと諦めて貰ったが……あのトライアルが相当楽しかったらしい』


 ティーとはオベロン様の奥様たる妖精女王ティターニア様の愛称。

 俺にはテレーズが一番ピンと来るけどね。


『な、成る程、ティターニア様が……』


『というわけで、申しわけないが、近いうちに、次の機会を設けてくれないか? 同じシチュエーションで構わないから』


『こちらこそ! 喜んで!』

『オベロン様! 私もティターニア様にお会いしたいです!』


『うむ、私は今、決意を新たにした。この平和を守る為に、世界の生きとし生ける者全てが団結し、悪魔の侵攻に備え、対抗しなければならないとな!』


『ですね!』

『私も精一杯、パパを手伝います!』


 という事で、タバサがオベロン様をアテンドする事になったが……

 最後なので、俺も一緒に『城』へ行く事に……


 オベロン様は改めて『レヴリー城』をじっくり眺め、感嘆する。

 サプライズは失敗だったが……気に入ってはくれたようだ。


『渋いというか、素晴らしい! 私の好きなたたずまいだ……ケンと相談し、アヴァロンにも一棟建てるか……』


『でも、この城、アヴァロンの雰囲気に合いますか?』


『うん、合うというか、うまく融合して行くと思う』


『うまく融合……』


『うむ! ケン、私は予感がする』


『予感ですか?』


『ああ、確信に近い予感だ。これから、世界は変わる。否、全く新たな世界となる! 様々な種族が上手く融合し、折り合って行く……私はそう思うし、切に希望している!』


 オベロン様の仰る、全く新たな世界とは……

 様々な文化と価値観を飲み込み、バランス良く折り合い……

 未知たる混沌こんとんの中から、確かな幸せを得る未来だと俺は思う。


 でも、最も重要なのがあくまでも『平和』である事。

 これは必須且つ大前提でもある。

 その為には、今回の会議を必ず成功させないといけない!


 オベロン様と実の親子のように、親し気に話すタバサを見て、

 俺も決意を新たにしたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る