魔王再降臨編

第1話「今夜はフィオナと……」

 ふるさと勇者の俺は、農民を始めとして、義両親オベール騎士爵家の宰相、

 商人、鍛冶師、教師等々……

 終いには何と、神様となって、新人女神の研修、

 

 そして先日行われた4者会談。

 各国首脳相互の懇親を深めつつ、悪魔侵攻対策の取りまとめ役も務める……

 

 何でもやる俺は、野球の投手で言えば、

 ひとりで先発、中継ぎ、抑えのフル回転。


 傍から見たら完全に働きすぎに見えるだろう。

 過労死寸前と心配されるのは間違いない。

 

 かもしれないが……

 すべての仕事が、とても面白くやりがいもある。

 

 幸い……

 俺にはレベル99の力がある。

 だから、過労でぶったおれる事はない。

 良い子は真似してはいけないが、徹夜も1週間くらいは平気。

 オールスキル《仮》もあるから、全ての仕事が苦も無くこなせる。


 まあ……

 日々地道に粛々と仕事をしているから……

 巷の勇者のように悪の根源たる魔王を倒し、富と名声を掴み、幸せになるのとは天と地の差。


 え?

 おまえ、嫁の数だけは勝ってる?

 ハッキリ言って、嫁多すぎ?


 まあ……それだけは自覚している。

 でも、いくら多くても全員が自慢出来る、才色兼備な女子ばかり。


 え?

 大爆発しろ?

 ……すいません。


 という事で、ひと段落ついた。

 ホットライン的特製魔導水晶から入る連絡も万事が順調という朗報ばかり。

 だから今夜は、久々にふるさと勇者の夜勤と相成ったという次第。

 

 そう、ふるさと勇者の夜勤とは……

 通常業務であるボヌール村とエモシオン周辺の魔物駆除を行うのだ。


 俺の行う魔物の駆除はず~っと変わらない。

 基本的にはローラー作戦。


 何故なのか、原因は不明だが……

 魔物の発生率が異常に高い西の森を中心にし、索敵の魔法を行使しながら、村の周辺各地を巡る。

 

 同行するのは忠実なる従士達、魔獣ケルベロス、妖精猫ジャン、妖い馬ベイヤールに加え……

 最近は魔獣グリフォン女子のフィオナも、本人たっての希望で参加している。


 今夜は……そのフィオナとふたり、各所の巡回と魔物駆除を行っている。

 彼女は本来の――鷲の上半身と翼、獅子の下半身の姿へと戻っている。

 

 フィオナは相変わらずベイヤールと仲が良い。

 お互い、通常は地味目な普通の馬に擬態している。

 寄り添う姿を傍から見れば、仲の良い馬の夫婦という感じだ。


 これがジャンあたりだと、キャラクター的に俺は散々いじる。

 奴はいくらいじってもめげないし、気にしない。

 万が一気にしても、立ち直りだって早い。


 だけど……

 フィオナもベイヤールも、人間のアンリ&エマ夫婦みたいな、

 超が付く『真面目さん』

 その話題は、触れない方が『吉』である。


 さてさて!

 いろいろと優先しなければならなかった用事が数多あり……

 しばらく駆除を行っていない。

 だから、結構な数の魔物が居る。


 俺と従士が狩るのはゴブリン、オーク、オーガなど人間を捕食する人型魔物ヒューマノイドがメイン。

 人間に害を為さない、それら以外の小物は放置。


 気のせいか……

 先日神様になった俺は、またも能力がビルドアップしたみたい。

 心技体がますます充実している。

 西の森では数百頭のゴブリンとオークをあっという間に片づけた。


 よっし!

 今夜はあと東の森に行き、駆除を行ってから帰るか。

 昔、レベッカが襲われたように、オーガが居るやもしれないし……


 その前に……

 この地で最も思い出深い場所に寄ろう。


 最も思い出深い場所……

 それはもう皆さんもご存じ過ぎる場所。

 亡国の王女で俺の嫁ベアトリスの作ったハーブ園である。


 念の為、索敵を行いながら……

 俺は転移魔法でハーブ園へ跳ぶ。

 当然フィオナも一緒だ。


 相変わらず……

 ここは変わらない。

 俺がこの異世界へ転生した頃から、全く変わらない。

 ベアトリスが丹精込めて世話したハーブ達が、悠久の時を経て、

 咲き続けている。

 

 ちなみに、普段は……

 魔物が入り込み荒らす事のないよう、魔法水晶を使った結界を張っている。


 グリフォンといえど、フィオナも夢見るロマンティック女子。

 このハーブ園の話は聞かせてある。

 初めて見るハーブ園の見事さ、そして数多ある逸話を重ね、

 とてもうっとりして感無量という感じだ。


『ケン様……』


『おう!』


『ここ、お聞きしていた通り、とても素敵な場所ですね』


『ああ……とても素敵だし、想い出も多い場所だ』


 自分でそう言い、実感する。

 このハーブ園には様々な想い出がある。

 ベアトリスとの邂逅だけではない。


 リゼットと出会う、きっかけとなった場所。

 まだ女神だったクッカと、リゼット3人でデートした場所でもある。

 嫁ズも全員、この場所が大好きだ。

 

 フィオナがぽつりと言う。


『天へ還ったベアトリス様……早くケン様の下へ帰って来ると良いですね』


『ああ、でも難しいのなら……不幸な形で再会するのなら、この現世で会えなくても構わない。クミカのように、アマンダのように……遥かな時間と次元を超え、どのような形でも、いつかは幸せに再会出来たら良いと思うんだ』


『幸せに再会ですか……ああ! ケン様の気持ち……私にも良く分かります』


『そうか……』


 ハーブ園を見るフィオナの目が遠かった。

 そう言えば、初めて出会った時に聞いた。

 一族全員が宝物を狙うドラゴンにより殺されてしまった。

 殺された中には、愛し愛された恋人も居たという……

 でも、更にあれこれ聞くのは野暮。


 つらつらと考えていた俺は軽く首を振った。


『よし、そろそろ行こうか?』


『ええっと、次は、東の森ですよね?』


『ああ、そうだな、今夜はそこで駆除したら終了だ』


『了解! 行きましょう』


 俺は指をピンと鳴らし、転移魔法を発動した。


 その瞬間!


 ふたりの姿は、ハーブ園から消えていたのである。

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