第16話「未来への予感」

 4者会議から数日後……

 ホットラインとして、取り付けたばかりの特製魔法水晶から連絡があった。


 ……連絡をして来たのは、アールヴの長ソウェルを務めるイルマリ様である。

 イルマリ様の連絡は、俺にいろいろフォローして欲しいというモノ。


 改めて詳しく話を聞けば、新たな事業を起こすという話である。


 新たな事業とは……

 アールヴの国宝エリクサーを極端に薄めて加工。

 出元が分からない、新たな魔法薬として売り出し、

 イエーラ運営の国家財源に充てるという件だ。


『エリクサーはやはり国宝。だから期間限定で売り出したいと思う。売り切ったら販売終了を考えている。その間に他の事業を軌道に乗せて行く』


『おお、賢明なご判断です』


『うむ! この件は、レイモン様がいろいろアドバイスしてくれてな』


『それは良かったですね』


『うむ! オベロン様はさすがに別格だが……レイモン様ほど尊敬出来る方は居ない!』


『俺の言ってた通りでしょう?』


『うむ! ケンの言った通りだった。彼は実に真面目で誠実だ。そして私など想像も出来ぬ働き者だ! とても素敵な方に巡り合わせてくれたな! 感謝するぞ!』


 あはは……

 とても意外でしょう?

 人間をあれだけ下に見ていたイルマリ様が……

 レイモン様を『様付』で呼び、素敵な方だと称えるまでになっている。


 そう、先日の会談後……

 行われた食事会で完全にふたりは意気投合したのである。


 積極的に話しかけたのは、やはりレイモン様から……

 国家運営における、互いの苦労話から始まり、生い立ちと身の上話に移ってから……

 気が付けば、イルマリ様の方が号泣していた。


 俺が、驚いて聞いてみると……


 レイモン様と亡き奥様エリーゼ様の運命的な出会いと悲しき別離の話にショックを受けたらしい……


 更に、エリーゼ様ひと筋、そして……

 いずれ生まれ変わって会いたい! というレイモン様の悲願を聞き、

 ひどく感動してしまったという。


 元々、イルマリ様は超が付く真面目さんで潔癖な部分が強い。

 実は……

 イルマリ様も若い頃、婚約者を流行病で亡くし、以来独身を貫いているという衝撃の事実が発覚。

 ひたすら政務に励む、責任と苦労のある立場も同じであれば……

 たったひとりの女子へ愛を貫くレイモン様を、もう他人とは思えなかった! 

 という事なのだ。


『近いうちに……レイモン様の亡き奥方エリーゼ様、同じく亡き私の婚約者ビルギッタの想い出を肴に、酒を飲もうという話になってな。夜中に転移魔法でヴァレンタインの王宮へ、おしのびする』


『とても良い話じゃないですか。だけどイルマリ様』


『何だ?』


『人間の王宮だからと油断して、不法侵入で捕まらないでくださいよ。洒落にならないですからね』


『バカモノ、お前じゃあるまいし、そんなドジは踏まん!』


 という事でまずは好スタート、順調なのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 数日後の夜……


 俺が居るのは現世ではなく夢の中、ボヌール村を模した異界。

 先日4者会談が行われた日本の旧い城を模した『レヴリー城』の中、大会議室。


 今回は会議ではなく、にぎやかにパーティが行われている。


 一緒に居るのは、オベロン様、クラリス、アマンダにタバサ。

 しかし今回は違うメンバーも大勢加わっている。


 妖精はティターニア様に、ベリザリオとアルベルティーナ父娘。

 人間は、この前会議に参加しなかった者も加わりユウキ家嫁ズ全員。

 そしてアールヴは前回参加のアマンダと、

 彼女の兄アウグストと彼の婚約者である義姉ノーラ。


 趣旨は……

 オベロン様夫婦とユウキ家の懇親&発進会。

 そう、新たに商人としてデビューするティターニア様の激励会なのである。


 でも、ティターニア様、腕組みしてオベロン様を睨んでる。


『もう! オベったら、了解も取らないで、勝手に私を商人にするなんて!』


『す、すまん! ティー』


 うっわ!

 相変わらずかかあ天下。

 でも……仲が良いのは傍から見てて分かる。

 もう二度と『テレーズ』が家出する事はないだろう。


 だって、怒ってる風に見せてティターニア様は笑ってる。

 悪戯っぽく笑ってる。


『でも……ありがと、オベ! 凄く嬉しい!』


『ティー……』


『これで堂々と、公務でボヌール村へ行く事が出来る! 世界の為に仕事が出来る!』


 と、ここでウチの家族がフォロー。


『あのテレーズがこんなに素敵なレディだったなんて、驚き!』

『何か神々しい!』

『オベロン様にはホント、勿体ない!』

『まさにファーストレディ!!』

『サキ、大歓迎ですよっ!』

『何でも商いの事、聞いてくださいっす!』


 等々……フレンドリーな賛辞がさく裂。


 ウチの家族はとても馴れ馴れしいけど……

 ティターニア様は全く怒っておらず、

 悪戯っぽい笑顔から……晴れやかな笑顔へと変わって行く。


『皆さん、未熟者ですが、改めて! これから宜しくねっ!』


『『『『『『『はいっ!』』』』』』』


 ティターニア様の元気な挨拶に対し、大きな返事が会議室中に響きわたり……

 俺は、素敵な未来への予感に満ち溢れていたのだった。


※『夢で絆を』編は、今回の話で終了です。

 ご愛読ありがとうございました。


 当作品がもっと上を目指せるよう、より多くの方に読んで頂けるよう、ご愛読と応援を宜しくお願い致します。


 皆様の更なるご愛読と応援が、継続への力にもなります。

 暫く、プロット考案&執筆の為、お時間を下さいませ。

 その間、本作をじっくり読み返して頂ければ作者は大感激します。

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