第22話「新たなる船出③」

「ケン様、アマンダ様、おはようございまっす!」

「超生意気な弟に、麗しく愛しき妹よ、おはよう!」


 ここは……

 ヴァレンタイン王国南方の小村ボヌール。

 敢えて説明の必要がないくらいに皆さんがご存知の、俺が村長を務める村。


 冒頭の挨拶をお聞きになって、

 あれ?

 アウグストとノーラさん、何でこのふたりがボヌール村に居るの?

 という疑問をお持ちになる方もいらっしゃるだろう。


 うん、経緯けいいを説明するとこういう事だ。


 レミネン家3人が、イルマリ様により赦免されてから、既に3か月余りが経っている。


 転移魔法で、王都セントヘレナへ戻った一行には、通常の日常へ戻って来た。

 レミネンご夫妻は、商会の経営へ……

 アウグストとノーラさんは商人の研修へ……

 

 そして俺とアマンダはボヌ―ル村へ帰還。

 

 まあ、通常とは言っても、

 再び労働に追われる多忙な日々が始まったのである。


 そんなこんなで、2か月が過ぎ……

 王都で商人修業に励むアウグストから、

 魔法鳩便で素晴らしい『吉報』が届いた。


 何と!

 『想い人』のノーラさんとめでたく『婚約』をしたというのだ。

 それも彼女の両親に認められ、レミネン商会へ就職もしたという。

 見栄っ張りなアウグストが遂に本気を出してくれたって事。


 でも……

 ひとつ大きな懸念があった。

 アウグストはイエーラの貴族家エルヴァスティの跡取り息子、

 片やノーラさんもレミネン商会会頭夫妻のひとり娘。

 すなわち、両家の『後継者問題』である。


 「一体どうなるのか」とやきもきして見守っていたら……

 レミネンをミドルネームにして、ふたりが両家を一緒に継ぐという、

 ミラクル的な大技がさく裂した。


 ノーラさんのご両親レミネン夫妻はそれで了解してくれたのは、

 何となく予想が出来たが……

 アマンダの両親エルヴァスティ家当主夫妻までOKを出したのには驚いた。


 改めてアウグストから聞いたところ、

 婚約者のノーラさんが、アウグスト、つまりアマンダの両親でもあるのだが……

 ふたりにとても気に入られ、まるで実の娘のように可愛がられているという。


 その為なのか、アウグストが……

 両親から「絶対にあの子を逃がしちゃだめ!」

 という発破と脅し?までかけられ、円満に着地したという次第。

 ちなみに、エルヴァスティ家に受け継がれて来たウルズの泉の管理人も、

 無事副管理人に引継ぎしたから、全くのノープロブレム。


 話をノーラさんへ戻すと、彼女は可愛いし、性格も◎

 気配り上手で、しっかりもしている。

 アウグストには悪いが……

 『不器用な兄』には勿体ないといえるくらいの『ランクS女子』だ。


 レミネン&キングスレー商会の共同研修も無事終わったふたりが……

 ボヌール村とエモシオンを訪れたいという趣旨の記載も手紙にはあり、

 俺は嫁ズ全員と相談。


 『婚約祝い』も兼ね、特例で転移魔法発動。

 ボヌール村への招待が実現したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 アマンダが俺の嫁として少し前からボヌール村に住み始め……

 そのアマンダが事前にしっかりと根回しした事も大きかった。


 異邦人であるアールヴのカップル、アウグストとノーラさんのふたりは、

 全く抵抗なくボヌール村の村民達に受け入れられた。


 アウグストとノーラさん、否、もう身内だからノーラと呼ぼう。

 ふたりが住むのは、大空屋の宿屋ではなく、普通の民家。

 

 その上、婚約祝いの旅行といっても、アウグストとノーラはこれまで訪れた数多の旅行者のように、村民に交じって、良く働き、そして良く遊んだ。


 そのふたりが大好きな『デートスポット』が、村の正門脇にある物見やぐら。

 門番役のレベッカ父ガストン副村長にお願いして、

 ほんの数分の間だけ、場所を提供して貰っていた。


 沈みゆく真赤な夕陽を眺めるのが気に入ったらしく、

 ふたりは仲睦まじく寄り添い、語り合っている。


 アウグストからも、ノーラからも聞いた事がある。

 ふたりには大きな夢があると。


 その夢とは……

 冒険者を諦めたアウグストが、かつて俺に語った夢と重なる……

 世界をまたにかけた大商人に、必ずなるという壮大な夢だ。

 

 うん!

 やったね!

 遂にアウグストは大きな夢の一歩を踏み出した事と相成った。

 素直におめでとうと言いたい。


 俺は想像する。

 自分の事ではないのに、凄く心が弾んで来る。

 元気に張り切って仕事をするふたりの姿が……

 俺の目には、はっきりと浮かぶ。

 

 いつになるのかは分からないが……

 ふたりは、いずれ大海原にレミネン商会の船で繰り出す。

 そして南方の見知らぬ国を訪れ、誰もが欲しがる珍しい商品で、

 思い切り商いをするに違いない。

 

 最終的に、ふたりはイエーラへ胸を張って堂々と凱旋するだろう。

 故国イエーラを豊かにする。

 商いを通じて、人々に笑顔をもたらす。

 

 ……そんな大きな夢を果たすべく……

 後、1週間したら、ふたりはエモシオンへ行き、

 レミネン商会の『仮営業所』をオープンするそうだ。


 仮営業所では、訪れる南方の国々の商人達と交流したり、

 商品を含めた様々な調査をするらしい。

 

 つまりエモシオンを、

 レミネン商会の『南方戦略』の橋頭保きょうとうほとする。

 これはノーラが発案し、父エルメルさんへ提案し、OKを貰ったそうである。

 

 夢とは語るだけでは実現しないと、誰かが言っていた。

 言い得て妙。

 

 ノーラは有言実行な子。

 彼女の行動力は本当に、凄いと思う。


 我が兄ながら頼りないアウグストを託して、

 大いに安心するとアマンダが言っていたが……

 俺も『素敵な義姉』が出来て、心底嬉しい。

 結局、どこかで聞いたようなノーラのあの口調の謎が解けなかったのは愛嬌……


 さてさて!

 既に領主で義理父のオベール様には、店舗候補の洗い出し等を頼んでいる。

 ふたりがエモシオンへ赴く際には、俺も嫁ズ何人かを引き連れ、

 同行するつもりだ。


 俺は改めて、物見やぐらで夕陽に染まるアウグスト、ノーラを見た。

 相変わらずふたりは仲良く語り合っていた。


 ……いつの日か、愛し愛されるふたりの壮大な夢が実現した時、

 それが『人生の新たなる船出』になるのだと、俺は実感したのであった。


※『人生の新たなる船出』編は、今回の話で終了です。

 ご愛読ありがとうございました。


 当作品がもっと上を目指せるよう、より多くの方に読んで頂けるよう、ご愛読と応援を宜しくお願い致します。


 皆様の更なるご愛読と応援が、継続への力にもなります。

 暫く、プロット考案&執筆の為、お時間を下さいませ。

 その間、本作をじっくり読み返して頂ければ作者は大感激します。

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