第20話「新たなる船出①」

「エルメル・レミネン様と奥様の永久追放を取り消し、新たな同志としてこのイエーラへ迎え入れる事をお許しくださいっ! 宜しくお願い致しますっ!」

「お願い致しますっ!」


 俺とアマンダは……

 アウグストとノーラさんの『想い』を託され、

 イルマリ様へ土下座をして懇願した。

 

 だが……

 ちまたで言われるように『泣きの情』に訴えているわけではない。

 

 敢えて言えば、土下座はインパクト。

 深い覚悟を見せているのと、問題の大きさをしっかり認識しているという、

 イルマリ様への強いアピールなのだ。

 

「分かった! エルメル・レミネンとその妻の永久追放を解く。そしてふたりを我が腹心に、経済担当の顧問として迎え入れよう」


「ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」


 俺とアマンダの土下座に驚いたイルマリ様は……

 背中を押される形となり、長きに亘り思い悩んでいた己の気持ちに対し、

とうとう決着をつけた。


 価値観を変え、真実を見始めたイルマリ様は……

 30年前に犯した愚行を恥じ、ノーラさんの父エルメル・レミネンさんと奥様の国外追放を取り消してくれた。


 後は……

 どうやってエルメルさん達を迎え入れるかだ。

 

 追放された夫婦ふたりが葛藤なく、抵抗なく、

 待ち望んだ故郷へ帰り易いようにしてやりたい。

 その為には、イルマリ様の協力が必要不可欠なのである。


 そもそも故国イエーラの為に尽くしたいという想いは……

 イルマリ様もエルメルさんも全く同じ、且つ純粋といえよう。


 しかし……

 ふるき伝統を守ろうとしたイルマリ様と、厳しい現実を直視し、未来を切り開こうとするエルメルさんの考えが折り合わず、ふたりはすれ違ってしまった。


 だが抜かりはない。

 俺とアマンダで考えたやり方がある。


「イルマリ様、重ねてお願いがあります」

「はい! ケンと私で考えた方法です」


「な、何? 方法だと?」


「はい! 今回もイルマリ様のご寛容さが必要です」

「そうです! 30年以上故郷を離れているエルメルさんと奥様の不安を取り除き、ふたりが意気に感じて帰国出来るよう、取り計らって頂ければと思います」


 俺とアマンダの更なる懇願を聞き、イルマリ様もピンと来たらしい。


「ふうむ、ケン、アマンダ……何か名案があるようだな?」


「「はい!」」


「成る程……早速、『顧問』として仕事をしてくれるという事か?」


「「御意!」」


「よし、善は急げという。早速取りかかろう」


「「宜しくお願い致します!」」


 こうして……

 俺とアマンダは『朗報』をみやげに、

 ヴァレンタイン王国王都セントヘレナへ戻ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 数日後……

 俺とアマンダ、そしてアウグストとノーラさんの4人は……

 レミネン商会の会頭室において、ノーラさんのご両親レミネン夫妻に会っていた。


 イルマリ様が赦免した件はまだ伏せてあった。

 俺とアマンダが、イルマリ様にお願いした方法を実行する為だ。


 なので表向き会見の趣旨は、アウグストがお世話になっている事に対する、

挨拶と御礼であった。


 夫妻は商人らしく、初対面の俺、アマンダ、アウグストに対しても気さくである。


 その挨拶と御礼が終わり、話は近況報告と雑談へ移った。

 話の最中、ノーラさんはやたらとアウグストを褒める。

 先日の事件の際、アウグストが身体を張って守ってくれた事を特に強調する。


 さすがに夫妻は愛娘の意図に気付いたらしい。

 でも男親、女親の反応は対照的である。

 エルメルさんは少し複雑な表情……

 お母さんの……名は、ヨハンナさんというのだが、彼女はアウグストを頼もしそうに見つめていた。


 このような反応は人間もアールヴも多分同じ。

 俺だって、もしもタバサ達、愛娘軍団が『彼氏』を連れて来たら、

 エルメルさんと同じ反応をするに違いない。


 さあ、そろそろ頃合いだ。

 俺はノーラさんへ、


「ではノーラさん」


「はいっす! 了解っす」


 話を切り出し、説明する担当はノーラさん、これも作戦の内である。


「どうしたね、ノーラ」

「何かあるの?」


 訝し気な表情で尋ねるエルメルさんとヨハンナさん。


「はい! 父様と母様にお見せしたいものがありまっす」


「見せたいモノ?」

「何かしら?」


「これっす!」


 ノーラさんが取りだしたのは一通の手紙である。

 渡された手紙の差し出し人を見て、レミネン夫妻は仰天する。


「な!? イルマリ様!!」

「こ、これって!」


「はいっす! イルマリ様の親書っす。私達宛っす」


「親書!」

「わ、私達宛って! ど、どうして!」


「父様、母様、そして私……レミネン家3人の永久追放を解くという趣旨の内容が書かれているっす」


「えええええっ!!」

「ななな、何故っ!?」


「父様と母様にはしかるべき役職に就き……顧問というらしいっすが、故国イエーラの為に大いに尽くして欲しいという内容っす」


「そんな!」

「あのイルマリ様が? ありえない……」


「大丈夫! ありえるっす! イルマリ様は思い直してくれたっす。そして! ご説得に尽力して頂いたのが、このお三方でっす」


「ケン様達がか!?」

「ほ、本当に?」


「本当に本当っす。親書を読めば分かるっすが、商会を営みながら、イエーラに尽くして欲しいと書いてあるっす」


「…………」

「…………」


「父様! 母様! やっと生まれ育ったふるさとへ帰れるっす! 長年の夢が、願いが遂に叶ったっすよ!」


「あああああ~っ!」

「うううううっ!」


 愛娘の、「奇跡!」と思われる言葉を聞き……

 望郷の念に染まったレミネン夫妻は、

 人目もはばからず、大泣きしていたのである。

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