第16話「打ち明け話と相談」
食後のお茶タイム……
俺がくつろいでいると……
アウグストが近寄って来た。
ノーラさんも一緒だ。
ふたりは食事も、隣同士の席で摂っていた。
今迄の経緯を考えれば、信じられないくらい本当に仲が良い。
「ケン、ちょっと良いか? アマンダも一緒に……少し話が……力になって欲しいのだ」
とアウグストから相談と助力を持ちかけられた。
一体……何だろう。
気になって「ちらっ」と見れば、アウグストもノーラさんも表情が暗い。
ちょっとだけ不安になった俺は……
誘われた別室へ、アマンダと共に向かった。
部屋に入ると……
ノーラさんがさっと動き、素早く扉を閉め、鍵までかけた。
ううむ、これは……
カッコよく言えば、『密談』
ベタに言うならば『内緒話』だ。
でもアウグストとノーラさんから内緒話って、一体何だろう?
ん?
ちょっと待てよ。
何か、引っかかる事があった気が……
まあ、良いや。
とりあえず、ふたりから話を聞こう。
まず口を開いたのは、アウグストである。
「ケン、アマンダ。話というのは実はノーラさんのお父上の事なんだ」
成る程……
ノーラさんのお父さんの事で何かあると……
続いてノーラさんも、
「はいっす。私の父様の件で悩んでいるっす。それでアウグスト様にご相談したら、ケン様が力になってくれるって、元気付けてくれたっす」
「ケン、アマンダ、話は、ノーラさんから直接しよう。彼女から全てを聞いた上で、何とかお前達から妙案を貰えればと」
お父上のある事情で、娘のノーラさんが思い悩んでいる。
それでアウグストに打ち明けたら、俺とアマンダへ相談……
うん!
話が徐々に見えて来た。
と思ったら、アマンダが勢い良く手を挙げる。
「ちょっと待って、お兄様」
「何だ? アマンダ」
「いくら旦那様だからって、100%問題解決の確約は出来ないわ」
「う、うん……」
「何か、歯切れが悪いですね? まさか……絶対解決するとか、全然OKとか……安請け合いしていないでしょうね?」
「ああ、い、いや……じ、実はした。ケンならば楽勝だって」
「呆れた! お兄様がご自分で解決出来るのならいざ知らず……他力本願で安請け合いなんて、一体何を考えているのですか?」
「う、ううう……ご、ごめん」
アマンダが怒るのは当然である。
身内とはいえ、他者へ頼り過ぎる性格なのはいかがなものか?
アウグストが商人になる、今後の事もあるのだから。
しかし……
「アマンダ様! お願いだからアウグスト様を叱らないで欲しいっす。悩み疲れて、煮詰まった私を何とか力付けたいと思って、つい口が滑ってしまったと思うっす」
ああ、ノーラさん優しいなあ……
頼りないアウグストには勿体ないくらい、本当にいい子だ。
アマンダも俺と同じく、感動しているらしい。
「ノーラさん……貴女」
うん!
話は分かった。
アマンダの言う通り、確約は出来ないけど、全力は尽くせる。
「了解! やるだけやってみよう。ノーラさん、改めてお話して貰えますか?」
俺がそう言うと、ノーラさんは、
「は、はいっす! 宜しくお願いしまっす!」
と言い、深く深く頭を下げたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「以前お話したっすが……私の父様……エルメル・レミネンは、30年と少し前にイエーラを出て、人間の王国ヴァレンタイン、この都セントヘレナで働き始めたっす」
うん、確かノーラさんと雑談をしていた時、身の上話となり……
その話を聞いたっけ。
「エルメルは元々イエーラで小さな商店を営んでいたっす。その関係からイエーラの未来にとても危機感を持っていたっす。何故ならアールヴ達の暮らしはとても貧しく、物資は全て不足気味だったからっす」
確かに……
アマンダの両親へ結婚の許可を貰いにイエーラへ行った時に感じた。
人間の街など比べものにならないくらい伝統ある都フェフの街並みはとても綺麗だけど……
一部の特権階級を除き、市民はつつましく暮らしていたと。
それらは長きに亘って行われて来た鎖国というか、排他的というか、
歴代ソウェルによる政策と、価値観に基づいた風習の結果だったに違いない。
「周囲を見れば……失礼な言い方っすが、人間達はどんどん勢力を増し、創り出した貨幣制度は、彼等以外の種族にもどんどん浸透していたっす」
ああ、それって……
俺が『金』嫌いなイルマリ様を説得した時のくだりと同じだ。
「このままではいけない、と一念発起したエルメルは、ソウェル、イルマリ様へ上申したっす」
成る程!
まるでこの前、アウグスト達が起こした反逆の……
少しずつ、話が見えて来る。
「エルメルはイルマリ様に謁見し、熱く語ったっす! 経済改革をしましょうと! 人間の貨幣制度を上手く取り入れ、各地と交易し、このイエーラを豊かにしましょうと!」
だから、ノーラさんのお父さんは人間の国で商会を立ち上げたんだ。
しかし……
俺が説得する前のイルマリ様は貨幣制度一切を否定していた。
説得は……上手く行かなかっただろう。
そんな俺の予感というか、想定は当たった。
案の定という感じだった。
「でも残念ながら、エルメルの上申は……聞き入れられなかったっす。貨幣制度の採用は、人間に媚び、へつらうものだとイルマリ様は断定されたっす」
まあ、そうだろう。
俺も最初はイルマリ様から同じ事を言われたから。
「危険思想を持つと判断され、エルメルはアールヴ一族の裏切者というレッテルを貼られ、イエーラを追放されたっす。永遠に入国禁止とする沙汰を受けたっす」
おいおい、酷いな。
永遠に入国禁止って……
そういった繰り返しが、この前の謀反を生んだんだ。
ふと見やれば、アウグストが「うんうん」と頷いていた。
ノーラさんの話に、深い共感を覚えているようだ。
「故国に居られなくなったエルメルは恋人を連れ、国外へ脱出……その恋人というのが私の
光景が目に浮かぶ……
ノーラさんのご両親は忸怩たる思いで、故国を後にしたと。
「エルメル……父様、そして母様は苦労に苦労を重ね、ふたりでこのセントヘレナに小さな店を持ったっす。それがレミネン商会の前身っす」
そうか……
小さな店を、今の大店にしたって事なんだ。
「父様は自分と同じように国外で暮らしていたアールヴ達と同じ志の下に結束し、彼等の助力を得て、小さな店を大きくしていったっす」
うんうん、大変だった……だろうな。
だけど、立派だと思う。
「結果、父様は何とか成功を収めたっす。……しかし」
しかし?
何だ?
しかしって?
でも、いよいよ……
ノーラさんの悩み話が、『核心』に入るって事だ。
俺とアマンダは居住まいを正し、改めて話を聞こうと……
大きく身を乗り出したのであった。
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