人生の新たなる船出編

第1話「手紙」

 アマンダの兄アウグスト・エルヴァスティから魔法鳩便で手紙が来た。

 遂に来るべきものが来たって感じだ。


 まあ、そこまで大仰なものではないが、

 アウグスト曰はく、いよいよ『世界を股にかける商人になる為の準備』が整ったという。

 ウルズの泉の管理人を、副管理人へ引継ぐ事を完了したとの事だった。


 しかし……

 俺には大いに不安がある。


 アウグストが商人を志望する理由が曖昧あいまいだからだ。

 商人と言っても十人十色。

 様々な仕事がある。


 中でもアウグストがやりたい商人とは、彼自身から聞いたところ、

 俺の前世でいう、海外と取引する商社マン。


 広い世界を飛び回り、大きな商売を次々にまとめ、巨大な利益を得るって感じ。

 多分、イメージ先行。

 見た目のカッコよさで選んだのだろう。

 その裏には、とてつもない苦労があるとも知らずに……


 それにアウグストは商売の素人。

 いきなりそのような大役を担えるとは思えない。


 夢と現実……

 厳しいギャップをどう上手く折り合いをつけていくか。

 それが大きな問題であり、課題なのだ。


 夢見がち過ぎる兄を最も心配しているのは、当然ながら身内の妹アマンダである。


「お兄様ったら……全く現実を見ていないから。凄く心配です」


「だよなあ……世界を股にかけるどころか、商人をやった事もないんだぜ。この手紙の内容だと、多分商人の勉強もろくにしていない」


「本当に呆れてしまいます……今のまま、ウルズの泉の管理人をやっている方が適職かと思うのですが……」


「俺もそう思うけど……折角やる気になっている彼の夢を一方的に奪うなど出来ないなあ……何とかしたいよ」


「ありがとうございます。……私の為に」


「いやいや、アマンダ。お前の兄だったら、当然家族。家族の為に最大限、尽力するのが我がユウキ家のモットーだから」


「そう仰って頂けると……嬉しいです」


「でもさ、このままイエーラへ行って、兄貴を国外へ連れ出しても失敗は目に見えてる。やり方をしっかり考えないと」


「ですね!」


 こんな時は家族会議。

 ブレーンストーミング的に。

 まあ家族といっても嫁ズだけでやるけどね。


 成長してくれたタバサあたりならアドバイスだしてくれそうだけど、

 他の子達からぶ~ぶ~不満が出てしまう。

 まあ嫁ズは『旅行中』のベアトリス以外に、計10人。

 「3人寄れば文殊の知恵」どころじゃない。


「アマンダ、皆に、集合をかけてくれ。今夜会議だ」


「了解です」


 こうして俺は嫁ズと、アウグストの対処に関して相談する事になったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 前々から話は入れてあったから、改めての説明は不要だった。

 だから会議の進行は早い。


 どんどん前向きな意見が出た。

 中でも、積極的に発言したのはリゼット、ミシェル、ソフィである。

 この3人は大空屋とエモシオンにあるアンテナショップの経営には深くかかわっている。

 俺なんかより、業務に明るく、商人の先輩と言って過言ではない。


 まず口火を切ったのはリゼットである。


「アウグスト様は誇り高いそうですね」


「だな」


「では、商人ではない旦那様とアマンダがいろいろアドバイスしても、あまり聞き入れないと思います」


「そうかもしれない」


「はい、ここはアウグスト様が憧れる仕事を、実際におやりになっているプロの協力を仰ぐべきです」


 ここで話をつないだのが、ミシェルである。


「リゼットの言う通りだね。適任者はキングスレー商会のマルコさんだよ」


 と、更にソフィが、


「私も第一段階として、マルコさんに経験談を話して貰う事に大賛成です。彼ならば仕事に関してのコツ、苦労話、そして心構えをリアルに話してくれると思います」


 他の嫁ズも3人の言う事に概ね賛成を唱えた。

 当然、俺とアマンダも異存はない。


「その次、第二段階はどうしたら良いと思う?」


 俺の投げかけに対しても、様々な意見が出る。

 喧々諤々けんけんがくがくとなり、激論が戦わされた。


 しかし徐々に方向性が定まり、固まって来た。


 先に経験したサポート神ではないけれど、

 俺達は家族とはいえ、協力するしか出来ない。


 転生者同様、自身の人生は己で切り開いて行かなくてはならない。

 つまり最終的には、アウグストのひたむきさ、努力次第なのだ。


 最後に会議を締めるのが、アウグストの実妹アマンダである。


「皆さま、お忙しい中、我が兄アウグストの為に、いろいろご意見を出して頂き、誠にありがとうございました。旦那様と私はこれからイエーラへ赴きます。もしアウグストがこのボヌール村へ来た際には、温かく迎えてやってくださいませ」


 アマンダはそう言うと、深く深く頭を下げた。


 そんなアマンダへ、全員の優しい笑顔が向けられ、、励ましの言葉がたくさん告げられたのである。

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