第2話「不毛な会話」
商人志望であるアマンダ兄アウグストのへ対策をじっくり練り、
俺はアマンダと共に、再びアールヴの国イエーラへ跳んだ。
正門で手続きをし、都フェフに入り、早速アマンダの実家エルヴァスティ家を目指す。
事前の連絡で確認済だが……
アマンダの両親は在宅している。
そして普段別宅で暮らしているアウグストも、今日は実家に出張っている。
まあ……
俺達が到着する日程を伝えてあったから、それに合わせたのだが。
アウグストは将来の希望に燃え、上機嫌なのは予想出来るから良いとして……
アマンダの両親が不機嫌じゃないかと心配だ。
特に俺へ対して。
想像出来る。
俺が愛娘アマンダを連れ去ったと思い込んでいるのは間違いない。
その上、今回は愛息アウグストまで故国を出る。
愛息が商人を希望するのまで、この俺が原因だと誤解しているのでは?
そんな悪い予想というか、予感ほど良く当たるのが皮肉にも俺の人生。
案の定……
貴族街区にある
エルヴァスティ家に到着しても両親の出迎えなし。
仕方なく、使用人を呼び、居間まで連れて行って貰う。
「お義父さん、お義母さん、ただいま帰りました」
「ただいまぁ、お父様、お母様」
「…………」
「…………」
ああ、やっぱり無言の対応。
予感は見事に当たった。
アマンダの両親は無言。
目も合わそうとしない。
さすがにアマンダが怒った。
「お父様、お母様、完全無視とはケンに対し、失礼ではないのですか?」
「…………」
「…………」
「もしも態度を改めないのであれば、イルマリ様に報告します。エルヴァスティ家当主夫妻の無礼な態度を」
「な?」
「え?」
「ソウェル様は、ケンを相当気に入ってらっしゃいます。さしたる理由もなく
「そんな!」
「まさか!」
「まだ間に合います。すぐケンに謝罪し、態度を改めてください」
「分かった!」
「改めるわ!」
というアマンダの申し入れにより、
義両親ふたりの態度は、ようやく改善されたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ここまで大騒ぎとなったのに……
アウグストはすぐに出て来ず、30分も経ってから、のんびりと現れた。
おいおい、誰の為にここまで来たと思ってるんだ?
先が思いやられる。
でも極力、感情を表に出さず、我慢していたら……
「おい、ケン。私もいよいよ大商人デビューだな?」
アウグストは、そんな事を「しれっ」と言った。
ああ、挨拶も満足にしないし、もしかしたら出来ないのか……
傍らのアマンダを見たら……絶望的な表情をしている。
あらら、でも無理もないか、これじゃあ。
こうなったら、早速、俺の出番だ。
「いえ、残念ながら、兄上のデビューは少し先ですよ」
「少し先? どうしてだ」
どうしてだって、あのね……
俺はまたも怒りの感情を押さえつつ、
「兄上はまだ、商人の仕事は全くの未経験でしょう?」
「私は本番に強いタイプだから、問題ない」
おいおい!
何言ってるの?
でもここで、許容してはいけない。
「いえ、ダメです。兄上には研修を受けた上で、商人になって頂きます」
「研修?」
「はい! 商人になる為のトレーニングです」
「トレーニング? そんなものは不要だ」
「いえ、必要です。では聞きますが、兄上は何を売り、商いとするつもりなのですか?」
「分からん!」
「は?」
「分からんと言った。我が国民が欲するものを取り扱おうとは思う」
「あはは、ちょっとビックリしましたよ」
「びっくり? 私の崇高な
「いえいえ、崇高も何も、呆れたんです。兄上のような志望動機を持つ商人など、どこを探してもいませんから」
「そうだろう、そうだろう。私のような覚悟を持つ者など皆無だろうからな」
ああ、会話が全然成立していない。
俺の話が完全に曲げられている。
「あの、誤解しないで頂きたいので、はっきりと言いますが……」
「何だ?」
「今の兄上を商人にするなど出来ません。失敗が見えていますから」
「な、何? 失敗? 失礼な!」
「いえ、失礼とは思いません」
「ぬぬぬ、身内の私を手助けしないと言うのか?」
「ええ、出来ません」
「な、何故だ!」
「何故だも何も、兄上の姿勢は貴族のままです。商人の本質をまるで理解していない。知る努力もしていないようだ。そのように無知な兄上が商人になるなど到底無理です」
「無知だと! 無礼な!」
「いや、はっきり言わせて頂きます。兄上を商人にする事は、例えるのなら、何も知らない俺を、いきなりウルズ様の泉の管理人にするようなものです」
「うぬぬぬ、わかりやすい例えだが、私は納得せんぞ」
おろおろしながら、頑なな愛息を見守るアマンダの両親。
一歩も退かない俺。
と、ここでアマンダが切り札を出す。
使いたくなかったが、仕方ないという切り札だ。
「お兄様!」
「何だ、アマンダ」
「ケンと私の指示には、絶対に従って頂きます」
「な、なにぃ!?」
「良い気になってお忘れのようですが、そもそもお兄様はケンのお陰で赦免されたのでしょう?」
「う! ぬぬぬ……」
「ウルズ様の泉の事件……思い出しましたか? それにイルマリ様からは既に、全権委任のご了解を頂いていますから」
「な! 全権委任だと?」
「はい! 私達の指示はイコール、イルマリ様のご指示だと認識してください!」
きっぱりと言い放つアマンダに対し……
「わ、わ、分かった。……お、お前達に従う……」
アウグストは態度が一変。
すっかり委縮し、か細い声で答えたのである。
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