第20話「新人女神達の決意、そして旅立ち③」

 ヒルデガルドに続き、スオメタルの研修報告が続いている。

 アールヴなのに、天敵のドヴェルグに転生したイェレナの苦労話だ。


『辛い日々にようやく転機が訪れました。私のアドバイスでイェレナが造った一振りのナイフが鍛冶場を預かる師匠に認められたからです』


『…………』


『褒められてやる気が出たイェレナは、管理神様から与えられた鍛冶師の才能が一気に開花しました。素晴らしい業物わざものを次々に生み出して行ったのです』


『…………』


『辛い日々が一転、やりがいのある日々となったイェレナには決定的な出来事も起こりました』


『…………』


 イェレナの身に起こった決定的な出来事?

 俺は無言で、スオメタルの顔をじっと見た。


『ケン様はご存じでしょうが、ドヴェルグは基本男尊女卑です。だけど鍛冶職人の腕は男女の差など関係なく、彼等の価値観において最も尊重されます』


『…………』


『イェレナの素晴らしい鍛冶の腕は一目も二目も置かれていました。多くの村民から称えられた彼女は村へ来て以来、不参加だった村の祭りにも、おそるおそる参加しました』


『…………』


『祭りでは、イェレナは生まれて初めてお酒を体験しました。お酒を飲んだイェレナはその美味さと高揚感に感激し、ほろ酔い気分で誘われるがまま、思い切り踊りました。彼女が完全に村へ溶け込んだ瞬間でした』


『…………』


『こうして……ドヴェルグの生活を、否、人生を楽しむ事を知ったイェレナにもう暗い影はありませんでした。悩みが吹っ切れたイェレナは晴れやかな笑顔の毎日が続き、やがて愛し愛される想い人とも巡り会いました』


『…………』


『優しいドヴェルグの想い人と巡り会い、結ばれて結婚。可愛い子供も生まれたイェレナは鍛冶師としても超一流となり、約500年の人生を全うしました。彼女は死の間際に私に厚く礼を言い、静かに世を去って行ったのです』


『…………』


 ずっと無言でスオメタルの報告を聞いていた俺であったが……

 全く予想外の展開が待っていた。


『普通はここで話が終わります。だけど……今回は続きがあります。イェレナ、こちらへ来てください』


『え? イェレナ?』


 スオメタルが何もない空間へ呼びかけると……

 異界の一画で、あの「ぼん!」というベタな音がし、白煙がもうもうと立ち上がった。


 そしてそして何と!

 驚いた事にアールヴ本来の姿へ戻ったイェレナが煙の中から、現れたのだ。

 見やれば、金髪碧眼、耳がとがった痩身の典型的なアールヴ女性である。


 俺はイェレナの元の容姿を知らなかった。

 だから見覚えのないアールヴといった印象なのだが、イェレナは当然俺を知っている。


『ケン様、お久しぶりです』


 イェレナは、丁寧な言い方で挨拶し、スオメタルのように深く頭を下げた。

 そのスオメタルが補足説明する。


『イェレナは今回の転生を全うし、女神の適性抜群という管理神様のご判断で、天界に高評価され、私達の後輩となりました。ランクは私やヒルデガルドと同じくD、所属も同様に後方支援課となります』


『お~、そうなんだ。おめでとう! 女神に転生なんてイェレナはとても頑張ったな』


 と俺が言葉を戻せば、今度はイェレナ本人が嬉しそうに「にっこり」笑う。


『はい! 凄く嬉しいです。先の転生がドヴェルグ、2度目の転生が女神様になるとは……驚きの連続ですが、これも私が授かった天命でしょう。しっかりと役目を果たしたいと思います』


 更にヒルデガルドも話に入って来る。


『ケン様、先ほど私達3人は貴方様の人生の歩みを、管理神様から映像で見せて頂いたっす。研修総仕上げの教材として有用っす』


 え?

 俺の人生経験が映像で?

 新人女神達の研修の総仕上げの教材?

 んな、バカな。


『いやいや、俺の人生なんて大して参考にならんだろう?』


 と俺が返せば、スオメタルも言う。


『いえ、とてもためになりました。何か不安があったり困った事があれば何度でも見直したいと思います』


 え?

 何、それ?

 繰り返し何度も見るって?


 俺が驚いていたら、ヒルデガルドもイェレナも、


『スオメタルの言う通りっす。あと1万回くらいは見たいっす』

『ケン様の人生は私達の良きお手本となりますよ』


 こう来れば最後に締めるのは、管理神様。

 お約束の展開である。


『というわけでケン君! 今回もお疲れ様だよ~ん。いろいろありがとうだよ~ん、ばいば~い!』


 続いて新人女神3人の名残惜しそうな声も聞こえて来る。


『ケン様! また絶対にお会いするっす!』

『再び一緒にお仕事を! ケン様!』

『ケン様! 今度は私にも研修のご指導を!』


 瞬間!

 俺はパッと目が覚めた。


 慌てて見回せば、現実世界、自分の部屋のベッドである。

 

 ……窓の外は暗かった。

 夜はまだ明けていないようだ。


 俺は軽く息を吐き、安堵する。

 曖昧な夢の世界と混在した異世界ではあったが……

 管理神様は勿論、新人女神達の張り切る声は耳にはっきりと残っていた。


「管理神様、ありがとうございます。そして皆、頑張れよ。いずれまた会おう」


 任された研修指導をやり遂げた満足感に浸りながら……

 俺はそっと呟いたのであった。


※『新人女神の研修』編は、今回の話で終了です。

 ご愛読ありがとうございました。


 当作品がもっと上を目指せるよう、より多くの方に読んで頂けるよう、ご愛読と応援を宜しくお願い致します。


 皆様の更なるご愛読と応援が、継続への力にもなります。

 暫く、プロット考案&執筆の為、お時間を下さいませ。

 その間、本作をじっくり読み返して頂ければ作者は大感激します。

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