第16話「研修終了」
妖精の末裔アールヴ族から何と!
宿敵であるドヴェルグ族へ劇的な転生をしたイェレナではあったが……
俺の説得で捨て鉢にならず、生き抜く事を決意した。
そして新人女神のひとりスオメタルも、元魔族という自分の生い立ちを告白し、
イェレナの担当女神となる事を宣言、受け入れて貰った。
これで先のヒルデガルド、今回のスオメタルは研修の2次段階へ入る事が出来た。
安堵した俺が軽く息を吐いた瞬間。
聞き覚えのある声が心に響く。
この声は、管理神様だ。
『ケン君! おっつかれ~! 良くやってくれたよ~ん! これで新人女神ふたりの研修は終了だよ~ん!』
『え? 終了? でもまだ、ふたりの担当が決まっただけの段階ですが……』
『だいじょうぶ~いっ! 既にふたりとも基礎研修は受けているし、転生者に対する君の接し方を見て、しっかりと学んだはずだよ~ん。ちなみにヒルデガルドの方は上手くやっているよ~ん』
管理神様はそう言うのだが……
俺はまだ指導教官として役割を充分に果たしていない。
新人のふたりへ教える事はまだまだある、そんな気持ちが強かった。
『で、ですが……』
『ケン様』
なおも管理神様へ言葉を返す俺を、制止したのはスオメタルである。
『管理神様の仰る通りです。私はもう大丈夫、今後イェレナさんをしっかりサポート出来ると思います』
『でも……』
口ごもる俺を見て、スオメタルは優しく笑う。
『うふふ、私の聞いていた、そして思っていた通りです』
『私の聞いていた? 思っていた通り?』
『はい! 管理神様からお聞きしていた通り、そして私が思っていた通りに、ケン様は面倒見の良い、責任感のお強い方なのですね。私も見習います』
『そ、そう言われると嬉しいけど』
『それに』
『それに?』
『はい! この場でイェレナさんには言えませんが、やはりヒルデガルドには負けられません』
『そうか……』
『これ以上、ケン様の指導を受ければ不公平となります。私は同条件でヒルデガルドとは正々堂々と競いたいんです』
『…………』
おお、確かに。
スオメタルの言い分は理にかなっている。
無言で聞く俺に対し、スオメタルの話がなお続く。
『以前ケン様にもお伝えしましたが、アールヴのヒルデガルドは同期であり私の親友。但し親友といっても単に仲良くするだけではなく切磋琢磨する関係。親友と書いて「ライバル」と読む間柄なのです』
『…………』
『異動されるケルトゥリ様とヴァルヴァラ様が後方支援課において良き友であり、ライバルでもあったように、私とヒルデガルドもそうありたい』
うわ!
そこまで言われると、俺も納得せざるを得ない。
『分かった! じゃあ後は任せるぞ』
『はい! イェレナさんのサポートは私にお任せください!』
『頼むぞ!』
『はい! 後ほどお会いする事になると思いますので、その時は改めて宜しくお願い致します』
『了解!』
深々と頭を下げるスオメタルの姿を見た瞬間に、
俺はパッと目が覚めたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
いつもと同じであった。
気が付いたら、ボヌール村自宅、俺の部屋で目を覚ましていた。
ベッドに大の字で寝ていた俺は大きく息を吐いた。
実感する。
夢を仲介して、別の異世界で新人女神スオメタルの研修を行っていた俺は、
自分と家族が住まう現実世界へ戻って来たのだと。
とりあえず俺の役目は終わった。
管理神様からも
でも……
やはり、わだかまりが残る。
ヒルデガルドとスオメタルをあのまま放置してこちらの世界へ戻ったのが、本当に良かったのかと。
自問自答する。
神様になりたてで、いくら
曲がりなりにも指導教官を任されたのに。
このような形で終わらせるのは、あまりにも無責任と言えなくないかと。
しかし、よくよく考えたら……
自分が望む答えは出そうもないと分かった。
だから俺は思い直した。
あまり考えて過ぎても仕方がないと。
今回の研修を計画したのも、最終OKを出したのも、
俺の『上司』となった管理神様なのだから。
つらつら考えた俺が、ふと窓から外を見やれば……
いつもの通り快晴らしく、眩しい朝の光が「さんさん」と射し込んでいた。
そうか……
今日は農作業の日だった。
野外で作業するにはうってつけの天気だ。
よし!
思い切り身体を動かしてやれ。
うつうつした気持ちを「ぱあああっ!」と発散しよう。
午後からは狩りにでも行って、美味しい肉をゲットするか。
決めた!
久々にクーガーとレベッカを誘おう。
夫婦3人で思いっきり草原や森を駆け回ろう。
そして今夜はボヌール村中央広場で、豪華な焼肉パーティを行おう。
都合が悪い者には肉をお裾分けすればOK!
こうして……
本日の『予定』を決めた俺は、勢いよくベッドから、はね起きたのである。
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