第9話「叱責と追及、そして反省③」

 ずっと無言のリュウ。

 質問にも答えない態度を見て、新人女神達の怒りがさく裂する。


『くぉら! 何、黙ってるっす、しっかりケン様へ答えるっす!』

『そうです! しゃきっとしなさい!』


 うわ、ふたりともすっげぇ怖い。

 上司?の俺だって怖くなる。

 すっごい迫力だ。

 

 案の定、リュウは完全にビビってしまう。


『ひ、ひえええっ!』


 仕方がないので、俺が再びフォローする。


『まあまあふたりとも抑えて……で、どうなんだ、リュウ、管理神様からいろいろと教えて貰ったんだろう?』


『は、はい。か、管理神様から説明は受けました。……でも』


『でも?』


『……ええっと、実はしっかり聞いていなくて……半分以上忘れてしまいました』


 うわ!

 駄目だ、そんな事言ったら。

 でも、よくよく考えたらコイツは結構正直かもしれない。

 神様に対し、嘘はつけないし、偽ってはいけないと思ったのだろう。

 

 しかし、その正直さが藪蛇やぶへびというか、女神達の怒りの炎に却って油を注ぐような行為となる。


『なんだってぇ! 忘れたぁ? ふざけるなっす!』

『秒殺しますよ!』


『わあああっ! た、助けてぇ!』


 ああ、また俺の出番か、よっし!


『まあまあ、ふたりとも、俺が居た世界って、こういう奴も居るんだよ』


 と、俺が言えばヒルデガルドもスオメタルも開いた口がふさがらない 。


『本当っすか? 論外っす、超不真面目っす』

『呆れて、ものも言えません』


 まあこの異世界は創世神様始めとして神様絶対主義。

 「人間は敬虔けいけんであれ」と徹底して教える世界だから。

 それ故、リュウの態度はとても不敬だと見られてしまう。


『うううう……』


 女神達は蔑みの視線で嗚咽するリュウを攻撃した。

 ここでまた俺の出番だ。


『……ひとつ聞こうか、リュウ。お前は前世でラノベを読んだり、ゲームとかやっていたか?』


『うう、ラノベは大好きで、ゲームもしょっちゅうやっていました』


『ならば、ああいう架空世界が、もうリアルな現実なんだって認識を持て』


『架空世界がもうリアルな現実?』


『ああ、勇者となって旅立ち、敵を倒しながら成長するロープレが現実になったと認識しろ』


『…………』


『例えば、村の外――すなわちフィールドを歩けばさっきみたいにモンスターが襲って来る。いや、モンスターだけじゃない、人間の賊、強盗みたいな奴らも襲って来る。奴らによってお前は容赦なく殺されるんだ』


 俺が厳しい現実を突きつけると、リュウは頭を抱えてしまう。


『うわあ! い、い、嫌だぁ! 殺されたくない~!!』


『死ぬのは嫌か? では己自身おのれじしんで立ち向かえ』


『お、お、己自身で? 俺が自分で戦うって事ですか?』


『ああ、そうだ。少なくともお前が居るこの村の人間は、己自身で村を守り、家族の為に戦っている』


『け、警察は? 呼ばないのですか?』


 はあ?

 警察?

 この異世界に警察なんかいるわけがない。

 コイツ、まだ現実逃避をしてやがる。


『いやいや、警察はこの異世界に存在しない。領主が住んでいる街に守護者である騎士や衛兵は居るが、この村まですぐに出張っては来ない』


 俺が説明すると、リュウの顔は不安からゆがんだ。

 

『ううう、嫌だ、嫌だ。殺されるくらいなら自分で死にたい!』


 おっと、お約束のセリフが来た。

 でもサキで経験済みの俺は、返す言葉を決めている。


『……そんなに死にたいのなら俺は敢えて止めない。だが死んで次回もこのように生きた人間として地上へ転生出来るとは限らないぞ』


『え?』


『リュウ、俺はな、悪魔と戦った事もある。奴らが棲むのは冥界か魔界だ。そんな世界に落とされて、文字通り、常に責めさいなまれる地獄の日々となるかもしれない』


『じ、地獄? い、嫌だ!』


 何にでも嫌がるリュウに、

 またも女神達の怒りがさく裂する。


『ごらあ! いい加減にするっす! この世界で生きて行くのなら、しっかりと覚悟を決めるっす!』

『そうです、あれも嫌、これも嫌で通るわけがありません』


『聞いたか? 女神達の言う通りだぞ、リュウ』


『…………』


『逃げるなとは言わない。逃げるのもひとつの方法だし生き方だと俺は思う。しかしゲームで最強のラスボスと戦う時のように、いつかは必ず逃げられない日が来る。その時お前はどうする?』


『どうするって……そんな事分かりませんよ、俺』


 不貞腐れるリュウへ、俺は更に言う。


『お前がひとりだったら、まだ良い。だがさっきの少女のように、お前を頼りにする者が一緒に居たらどうするんだ? 見殺しにして逃げるのか?』


『見殺し……』


『もう忘れたのか? もう一度言うぞ。お前はさっき俺達を置いて逃げた……管理神様から、転生に関する説明を受けていたのにもかかわらずだ』


『…………』


『お前は管理神様から異世界で生活する為のレクチャーをして貰い、生き抜ける能力も授かったはずだ。新たな人生に立ち向かえるはずなんだ』


『…………』


『俺達サポート神は、生きるのに投げやりな上、自分さえ良ければ、何をしても構わないというお前の姿勢は受け入れがたい』


『…………』


『はっきり言うぞ。俺はお前の心を読んだ』


『え? 心を』


『助けた少女と彼女の両親に自慢したな? お前がちょっち魔法を使って助けたって、大嘘をついて』


 俺がリュウの嘘を暴露すると、女神達は完全に呆れてしまう。


『やっぱりっす!』

『さいってぇ! ずるい男!』


『ひ、ひえ!』


『俺は信頼を損なう行為が嫌いだ。他人を犠牲にし、楽して、美味しい部分だけ頂戴ちょうだいしようという甘い考えが大嫌いなんだ』 


『…………』


『お前が先ほど襲撃現場から連れ出した少女は、お前自身が助けてくれたと信じているだろう』


『…………』


『彼女の純な信頼を裏切ったら、ただではすまさん』


『…………』


『改めて認識して貰いたい。俺達神はあくまでお前のサポート役にすぎない。……この世界で生きて行くのはお前自身だ。お前が自分で判断し、自らの力で生き抜き、少女を含め大事なものを守って行け』


『…………』


『まずは自分自身で考えろ。考え抜いたら俺達へ相談しろ。内容次第で力にはなってやる』


『…………』


 話がひと通り終わり、俺は次の段階へ進みたかった。

 区切りを付ける意味で尋ねてみる。


『ここまでは……理解したか?』


『…………』


 俺が尋ねてもリュウは無言だった。

 沈黙は金と言うが、今のこの場合は違う。


『返事をしろ、どっちなんだ、理解したのか、そうでないのか』


 と、突っ込めばようやくリュウは答える。


『わ、分かりません! 転生してからずっと頭がいっぱいで、混乱して……ごめんなさい!』


 やっと、リュウが正直に返してくれた。

 いい加減に流さないで、きちんと俺の問いかけに答えてくれた。


 ならば、先ほどから攻め続けだったから、少し優しくしてやろう。


『そうか……無理もないな』


『か、神様……』


 ここで俺が理解を示したのが、リュウにとっては意外だったようだ。

 しかし、俺はリュウとほぼ同じ経験をしている。

 実際、彼の気持ちは良く分かるのだ。


『ケンと呼んで構わない。では気分転換ついでに魔法の訓練でもしよう』


『魔法?』


『まだ考え動けるだろう? 管理神様から頂いた身体はそうやわではないはずだ』


『え、ええ……何とか……』


『お前には魔法の力が与えられている。どうだ、やってみるか?』


『は、はい! やります、いえ、やりたいです! 実は俺……中二病なんで』


『あはは、実は俺も中二病さ。お前とは同類だ』


『え? 神様……いえ、ケン様もですか? う、嬉しいな!』


 ようやく笑顔が戻って来たリュウは……

 徐々に且つ少しずつではあるが、前向きに生きる気持ちを、俺達へ見せ始めていたのだった。

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