第10話「希望と決意」
『ちょっち、しつも~んっす』
情けなさと軟弱さを散々責められたが、立ち直りつつあるリュウ。
一方、俺が魔法訓練をすると聞き、
ヒルデガルドが「ばっ」と手を挙げる。
おっ、何だか研修らしくなって来たぞ。
見やれば、ヒルデガルドはいつものさっぱりとした表情に戻っていた。
先ほどまで、あれほど怒っていたのに、パッと気持ちを切り替えている。
さすがプロのサポート女神だ。
『何だい、ヒルデガルド』
『ケン様! 魔法の練習って一体どこでやるんでっすか? 行使する魔法にもよりまっすが、結構場所取りまっすよ』
ヒルデガルドの言葉を聞き、スオメタルも同意し頷く。
こちらも怒りの色は既になく、冷静で淡々としている。
『ええ、ヒルデガルドの言う通り、この家だと目立つし、第一狭すぎます』
しかし、ふたりの
『ああ、確かに場所は広い方が良い。でも大丈夫。今からこの家で訓練をするよ』
『えええっ? 話が見えないっす』
『は? 私には理解不能です』
『ええっ?』
3人の驚いた声が重なった。
だが、俺はあっさりと種明かしをする。
『ははは、抜かりはないさ。この場で空間魔法を使う』
『わお! 空間魔法っすか?』
『素敵です、異界を創るんですね?』
『???』
さすがに女神ふたりはすぐ理解し、納得した。
だが、リュウひとりだけは、不思議そうに首を傾げている。
俺は思わず苦笑してしまう。
『おいおい、リュウ。お前は中二病だろう? ラノベやゲームでお約束の空間魔法を知らないのか?』
『はあ……何となくイメージは湧くのですが、具体的には分かりません』
『成る程』
『それに空間魔法といっても、ラノベの作者さんによって効能効果が様々ですから、一概には言えませんし』
おお、言うじゃないか。
確かにそうだ。
作者によって空間魔法の効果や描写っていろいろだった。
納得した俺であるが、ここは「ぐだぐだ」言うより、実際に俺の空間魔法を、
見て貰った方が早い。
『だな! よし、論より証拠。早速発動する。カウントダウンだ、行くぞ、3、2、1、ゼロ!』
瞬間!
周囲の景色がガラリと変わった。
女神ふたりが、リュウが吃驚して周囲を見回していた。
手前味噌ながら、桁違いな俺の空間魔法が発動したからだ。
全員で頭上を見れば、真っ青で広大な空が広がっている。
空には、雲が全く無い。
今にも、吸い込まれそうな紺碧の大空だ。
吹く大気は清々しく、身も心も軽くなる……
周囲を見渡せば……誰も居らず、動くものさえない。
見渡す限りの緑濃い大草原である。
ところどころに、大小の森が点在していた。
木々には、色鮮やかな果実が実っていて、この土地がとても豊かである事を示している。
『ケン様、凄いっす! ここはまるでエデンっす!』
『素敵! 早く私も、これくらい魔法が使えるようになりたいです』
新人女神のヒルデガルドとスオメタルが羨望の眼差しで景色をみやれば、
リュウも圧倒され、且つ魔法習得の意欲が湧いて来たらしい。
『神様!』
『ケンで良い』
『じゃあケン様! やっぱり魔法って凄いですね』
『まあな、でも正しく使わないととんでもない事になる』
『正しく使わないと……とんでもない事に?』
ここはベタだが、リュウがダークサイドへ堕ちぬよう、強く念を押しておく。
『良いかい、イメージするんだ、リュウ。自分の欲の為だけに魔法を使えば魔王のようになる』
『欲の為だけだと魔王のように……成る程、俺、分かります』
『よし! リュウ、お前の胸に刻んでおいてくれ。今後、助けた少女が幸せに微笑むか、不幸となって泣くのかは……お前次第だ』
『う~、ア、アメリアが幸せに微笑むか、不幸となって泣くのかは俺次第……ですか』
その口ぶり……
リュウの奴、もう少女と相当仲良くなったらしい。
苦笑した俺は改めて問う。
『ほう、あの子はアメリアというのか』
『は、はい! アメリアです。生まれて初めて仲良くなった女の子なんですっ!』
『そうか、良かったな、リュウ。お前自身が強くなってアメリアをしっかりと守ってやるんだ』
ああ、リュウの奴、とてもやる気になっている。
先ほどまでの態度とはまるで違う。
『ケン様! 分かりましたっ! お、俺、頑張ります! もうびびったり、逃げたりしません! 強くなってアメリアを守り抜いてみせますっ! どうか魔法を教えてくださいっ!』
俺には分かる……今後リュウは確実に変わって行くと。
彼は襲撃現場で俺達を置いて逃げた自分を恥じた。
そして、新たに守るべき存在を得た。
……人は自分の為だけより、守るべき存在があれば、より強くなれる。
熱く誓うリュウを見て、俺はその思いを新たにしたのである。
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