第8話「叱責と追及、そして反省②」

 転生者の少年は改めて自分の名を名乗った。

 少々、不貞腐れた態度で……


『俺はリュウ、リュウ・ハヤトっていうんだよ』


 リュウ・ハヤトという少年の名が判明し、やっとお互いの挨拶が出来る。

 改めて、新人女神達の研修がスタートする。

 って、それはこっちの事情なんだけど。


『リュウか、俺はケン、中級神ケン・ユウキだ、』

『D級女神のヒルデガルドっす』

『同じくスオメタル……』


 双方の自己紹介が何とか終わり……

 今度は俺から、リュウが転生するまでの経緯けいいを尋ねるとする。


『リュウ、お前はどうしてこうなった? 死んで転生するまでの話をしてくれないか?』


『分かった……』


 リュウは了承し、ぼそぼそと話し始める。


『俺、他人と折り合うのが凄く下手だったんだ、話すのさえ苦手。いわゆるコミュ障って奴さ』


 ああ、何となく今迄の言動で分かる。

 俺は納得し、小さく頷くが……


『コミュ障?』

『ケン様、ご存知ですか?』


 リュウの言葉を聞いた新人女神達が首を傾げる。

 了解!

 ここは俺が少しフォローしよう。


『ああ、コミュ障とは俺の前世世界で使われていた言葉で、コミュニケーション障害の略だ』


『コミュニケーション障害? なんすか、それ?』

『ご説明をお願いします』


『ええっと、コミュニケーション障害は正式な医学用語でもあるけど、俺やリュウが認識しているのは、俗語としての意味が強い。つまり他人とのかかわりが苦痛且つ苦手な人を指して言われるんだ』


『ふ~ん、大変っすね』

『ですね! 私達女神も同じですが、ひとりで生きて行く事は難しい。住む社会と折り合わないと生きて行くのが苦痛以外の何物でもありません』


 俺と女神達との会話を聞いていたリュウは大層驚いていた。

 

『神様、やけに……詳しいんだな?』


 と尋ねられたので、ここで俺はカミングアウト。


『ああ、実は俺も転生者だから。死ぬ前はリュウ、お前と同じ日本に居たんだぞ』


『へぇ! そ~なんだぁ』


 と、驚くリュウへ、スオメタルがまた張り手一発!


 ぱあん!


『ぎゃう!』


 乾いた音と同時に悲鳴があがり、苦痛に身をのけぞらせるリュウ。

 そんなリュウへ、スオメタルは冷たく言い放つ。


『さっきから我慢して聞いていれば! 敬うべきケン様に対して、口の利き方がなっていない!』


『ひいいいっ』


『私達神に対する態度を改めよ、と言ったはずだ。リュウ! お前には学習能力がないのか?』


 びしっ! びしっ! びしっ!

 まるで凍るような擬音が聞こえてきそうなスオメタルの物言い。

 

 リュウはすっかり怯えてしまう。


『あううう……』


『まあまあスオメタル、そのくらいでやめておけ。リュウ、良いか、郷に入っては郷に従えだ、意味は分かるか?』


『な、何となく……わ、分かる……いや、分かります』


 スオメタルから再び「ぎろり」と睨まれ、リュウは慌てて途中から言葉遣いを変えた。

 苦笑した俺は軽く息を吐き、リュウへアドバイス付きで説明する。


『リュウ、この異世界は過去のお前が生きていた世界とはまるで勝手が違う。生き抜きたいと思ったらコミュニケーションが苦手だとか、話すのが面倒と思わず、周囲と触れ合い、上手く折り合って行く事だ』


『は、はい!』


『あと、これも大事な事だから告げておく。お前がスオメタルに殴られたのは原因がある』


『…………』


『理不尽な暴力はいけない、俺はそう思う。だからスオメタルに代わって俺が謝る、申しわけなかった!』


『…………』


 俺は深く頭を下げた。

 謝られたリュウだけではなく、ヒルデガルドもスオメタルも吃驚びっくりしている。

 

 多分、神様とはけして謝罪してはいけない存在だと、

 天界のことわりがあるに違いない。

 

 しかし俺は神様とはいえ、元人間で嘱託の身。

 これくらいの寛容さはあって良いだろう。


 しかし本番はこれからだ。

 俺は更に話を続ける。


『その上で神として言おう。リュウ、お前は今後きちんと礼を尽くし、筋を通す生き方をするべきだ』


『礼を尽くし、筋を……通す?』


 「ぽけっ」としているリュウ。

 俺から指摘されても、何か、ピンと来ないみたいだ。


『おいおい、もう忘れたのか? リュウ、お前はさっき俺達を置いて逃げた……管理神様から、転生に関する説明を受けていたのにもかかわらずだ』


『…………』


『突発的な状況に対し、お前がパニくったのは理解出来る。いきなり目の前に生まれて初めて見るゴブリンが居て、しかも喰われる寸前だったからな』


『…………』


『だが神である俺達がいずれ現れ、これから異世界で暮らすお前をサポートするという認識はあったはずだ』


『…………』


『それなのに俺達を見たお前は最初から逃げ腰だった』


『…………』


『改めて聞こう? 転生した際、異界で管理神様からの説明を聞き、お前が置かれた立場は認識しているよな?』


『…………』


 ずっと無言のリュウ。

 質問にも答えない彼の態度を見て、やはりというか、

 新人女神達の大いなる怒りが、遂にさく裂したのである。

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