第7話「叱責と追及、そして反省①」

 村へ入った少年は、助けた少女の家へ入った。

 多分、『被害者』の少女を交え……

 彼女の両親と『事件』の経緯について話し込んでいるのだろう。


 新人女神ふたりは少年の『伝え方』が気になるようだ。


『ケン様、あいつ、あの子のパパとママへどういう風に話しているんでっすかね? 何か……嫌な予感がしまっすよ』

『……もしもあの子を助けた事を自分の手柄にしていたら、容赦なく抹殺します』


 まあ、彼女達の怒りはよ~く分かるが、まず少年から話を聞く事が先決だ。


 村の上空で待っていると、

 やがて……少年は助けた少女に案内され、隣にある小さな家へ入って行った。


 多分、今夜はあの家に泊めて貰うのだろう。

 これまた、俺がボヌール村へ来た時と全く同じパターンである。


 今だから分かる。

 俺の時も多分そうだ。

 いくら娘の命を救った者とはいえ、いきなり母屋へ泊めるのはいかがなものかと、少女の両親は考えたに違いない。


 でも……

 逆に今の俺達には好都合だといえる。

 件の少年とじっくり話が出来るから。

 そういえば……まだ少年の名前さえ聞いていない事を思い出す。


 暫し経って、少女だけが出て自宅へと戻って行った。

 よっし、頃合いだ。


『さあ、あの家へ行くぞ。まずはあいつと話をしよう』


 と俺が促せば、


『了解っす』

『かしこまりました』


 何とかクールダウンが出来たのか……

 ヒルデガルドもスオメタルも素直に了解してくれた。


 それまで村の上空に浮かんでいた俺達はゆっくり降下して、

 少年が居る家の前に立った。

 

 スオメタルが少年をぶっとばした際に、触れる事が出来たのには吃驚したが、

 本来俺達は幻影。

 だからこの家の中へは外壁をすり抜けて、容易に入れるはず。


 俺は手を差し伸ばし、家の土壁に触れてみた。

 普通なら硬い壁の感触が返って来るのだろうが、やはり幻影状態。

 す~っと、手が通ってしまった。

 何なの?

 このご都合主義は……


『ケン様、問題なく行けそうっすね』


『だな!』


『ケン様……突撃しましょう、そして即、殲滅せんめつです』


 殲滅って……おいおい、スオメタル……

 君、どんどん『素』が出て来たね……

 ま、いっか。


『よっし、じゃあGO!』


『行きま~っす!』

『チャージっ!!』


 こうして、俺と新人女神の3人は、少年が居る家に踏み込んだのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『わわわわ、な、何だ? お、お前等!』


 少年はひと息つき、部屋でくつろいでいたようだ。

 椅子に座って「ぼ~っ」としていたみたい。


『何だ? じゃないっす』

『軟弱者! 何故逃げた?』


 念の為……

 俺達神様の姿は転生者である少年にだけ見える。


 だが、男ひとり、女ふたりの3人がいきなり前触れなく部屋へ乱入など、

 普通はありえない、驚くのも無理はない。


『まあまあ……』


 最初から喧嘩腰の新人女神達を手で制し、俺は少年へ問いかける。


『少年、管理神様からは転生の際、説明を受けていると思うが、どうだ?』


『……ふん! 説明なら受けてるよ、あんたら、あいつと同じ神様だろ?』


 少年が不貞腐れたように答えると、スオメタルが「つかつか」と近付いた。

 そして止める間もなく、


 ぱ~ん!!

 と、思い切り少年の頬を張り飛ばす。


「あぎゃっ!」


 座っていた椅子から転げ落ち、ゴロゴロ転がる少年を、腕組みをしたスオメタルは冷たい氷のような視線で眺めていた。


『な、な、な、何するんだよぉ……』


『口の利き方が全くなってない! 私達を神と知っているのなら尚更です』


『う、うわ! たたた、助けてぇ……』


『ちょっと、待ったぁ!』


 ここで俺が間へ割って入る。

 スオメタルの人柄、というか女神柄が見えて来た。

 多分……自分にも他人にも厳しい性分なのだろう。

 容姿は全く違うが、ヴァルヴァラ様そっくりである。


『まあ、待て、スオメタル。まずは話を聞こう。少年立て、そして椅子に座れ』


『…………』


 少年は明後日の方向を向いて、座ったままだ。

 すると、今度はヒルデガルドが怒った。


『ほら、ケン様が座れとおっしゃってるっす、さっさと座るっす』


『わ、わあ! え、エルフ!?』


『今頃気付いたっすか? どこまでおとぼけっすか! それとエルフは蔑称、正確にはアールヴっす! しっかり理解しておけっす!』


『ううう……』


『さっさと座るっす! ぐずぐずしてると、ぶち殺してやるっすよ!』


 え?

 ぶち殺す?


 おいおい、スタップ!

 ヒルデガルドよ、お前もか?


 今回の新人女神は、ふたりとも気が荒い。


 ふとクッカを思い出す。

 彼女もD級女神で新人だったが……

 この子達に比べれば、だいぶ大人しかったなって……


 と、すかさずスオメタルが「びしっ」と言う!


『ケン様、いけません!』


『え? な、何?』


『今、先輩を……いえ、奥様の事を私達と比較していたでしょう?』


 す、鋭い!

 鋭すぎる!!

 この子は、もしやエスパー?


『い、いや……してない』


『指導教官として、しっかり集中してください! 今は私達の研修時間なのですから!』


『わ、分かった……』


 結局、少年――リュウというらしいが、

 新人女神ふたりの厳しい追及により、

 自分の出自を始めとして、いろいろと話し始めたのである。

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