新人女神の研修指導編

第1話「頼みたい仕事」

 愛娘タバサとの記念すべき『卒業旅行』が終わった。

 でも……

 俺とタバサの人生を共にする『心の旅行』はまだまだ終わらない。


 否、タバサだけじゃない。

 愛し愛し合う人生のパートナー嫁ズ、

 加えて、己の血肉を分けあったお子様軍団達との旅もまだまだ続く。


 そして……今は亡き運命の想い人クミカとの旅は、時間と空間を超え、

 忘れ得ぬ遠い記憶と共に未来永劫続くと言って過言ではないだろう。


 ああ、だいぶカッコつけた物言いとなってしまった。

 だが……偽らざる俺の本音なのである。


という事で閑話休題。


 ベリザリオとティナ父娘が、アヴァロンへ帰国して約3か月が経った。

 帰国直後から、俺にはまた、ボヌール村で家族や仲間と暮らす普段の日常が戻って来た。


 この日も、農作業を始めとして、働き詰めだった俺は自室でぐっすりと眠っていた。

 朝早くから懸命に働いた『ご褒美』なのか、楽しい夢を見ていた。


 楽しい夢とは……当然前世にあった俺の故郷の夢。

 今や遥か彼方へ失われてしまった俺の心の中にしかない、

 懐かしい故郷の風景……

 俺は風景のひとつとして存在し、夢特有のたゆたう時間に身を任せ、

 行き先も決めずにあちこちを心地良く漂っていた。


 見ているのは、どうやら明晰夢めいせきむらしい。

 念の為、説明すると、

 明晰夢というのは、夢であると自覚しながら見ている夢の事……


 それ故、周囲には誰も居なかったが、俺は寂しくはなかった。

 夢から醒めれば、現実の世界があると分かっていた。


 現実へ帰れば……

 俺には愛する家族がちゃんと居て、優しく微笑みかけてくれるもの。


 だが!

 夢は突然破られた。

 聞き覚えのある独特な声が、突如空間に響いたからだ。


『ケンく~ん! おっかえりだよ~ん』


 あはは、素敵な夢は中止となった。

 だが、俺は安堵する。


 あまりにも不敬だから、とても口には出せないけど。

 管理神様ってひとりっ子の俺にとって、

 ずっと見守ってくれる実兄のように身近な存在、

 声しか聞いた事はないけれど、会えば心がとっても休まるもの。


『ああ、管理神様、こんばんは! 無事旅から戻りました』


『うん、大体見て聞いていたよ~ん! いろいろとありがとうだよ~ん! タバサちゃんの件も含め、上手く事が運んだみたいだねっ』


 どうやら管理神様も、気にかけてくれていたらしい。

 おおよその事情は把握されているみたいだ


『いえいえ、こちらこそ。何とか……って感じですかね』


『うんうん、久々に妖精王夫婦にも会えて楽しかったか~い?』


『ええ、とっても楽しかったし懐かしかったです』


『良かった、良かったよ~ん』


『はい、それとタバサの将来の希望を聞いて、俺も改めて頑張ろう! って気持ちになりました』


『タバサちゃんは将来、ケン君の跡を継いで、ふるさと勇者になるって張り切っているんだよね?』


『はい、ですが……』


『何、心配事でもあるのか~い?』


 尋ねられた俺は、良い機会だと思い、

 単刀直入に、考えていた懸念を伝える事にした。


『ま、まあ……俺のレベル99はズルして管理神様から頂いたようなものですし』


『ふんふん』


『親バカかもしれませんが、タバサにはそこそこ魔法使いの素質があると思いますけど、さすがにレベル99まで行けるとは思えません』


『ふふ、考えてみた事はあるかい? 君の持つ力の本当の意味を?』


 管理神様からは、何か、謎めいた質問をされてしまった。

 ここは再度聞くしかない。


『俺の持つ力の本当の意味?』


『うん、答えを言うとね、真に理想的な個の力は集の力を結束させるって事』


『集の力を結束させる……な、成る程……分かる気がします』


『うん、ケン君のレベル99の力が様々な個の力を集め、かすがいとなり、各種族を結束させている』


 あは!

 かすがいって……

 管理神様も意外に旧い言葉を使う。 

 『かすがい』って言葉は、ことわざに使われている。

 子は『かすがい』って聞いた事ない?

 

 夫婦仲が悪くても、子供への愛情があれば、離婚せずにいられるという事

 つまり子供が間接的に、夫婦仲を取り持ってくれる例えである。

 ちなみに『かすがい』とは……

 木と木を繋ぐ為に打ち込む、両端の曲がった大きな釘の事だ。


 まあ、何を言いたいかというと、普段はお互いに仲の悪い種族間に立って、

 俺が執り成しをしているのを言い換えたのである。


『はい、その通りです』


『極端な例えだが、力なき正義は悪とも言う。君の巨大な力が人間、アールヴ、妖精各種族を納得させ、まとめた事はゆるぎない事実だ』


『俺も納得します、管理神様の与えてくれた能力のお陰なんですから』


『でも! 本質的な部分は違うんだ』


『え? 本質的には違う?』


『ああ、青臭いと言われるかもしれない。だが上手く行った最後の決め手はケン君の誠実さ、人柄なのさ』


 な!?

 俺の誠実さが決め手って……何?

 分からん!

 いつも芸もなしで、ひたすらお願いしているだけなのにさ。


『は? お、俺の誠実さ? 人柄?』


『おっと、もう時間がない。目が覚めた後でゆっくり考えて欲しいけど、タバサちゃんは君の強さだけじゃない、クッカも含め両親の優しさをしっかり受け継いでいる』


『そ、そうですか?』


『僕は見ていた。あの子は王都でレイモン・ヴァレンタインの辛い気持ちをしっかりと汲んでくれた。亡きオディル・ブランの歩んだ人生を想いってもくれた』


『た、確かに……』


『更に言えば、妖精アルベルティーナと近しい間柄となった交歓を見ても分かる。はっきりとね!』


『…………』


『以上! この話は終わり! さあて! ここから本題へ入るよ~ん!』


『え? ここからが本題?』


 本題?

 タバサと行った『卒業旅行』報告の件だけではなかった。

 まだ管理神様の話は終わっていなかったのだ。

 

 わけが分からず戸惑う俺に、管理神様は言う。


『そうだよ。この前、君に言ったよね? 頼みたい仕事があるってさ』


『そ、そういえば……』


 前回会った時、管理神様から新たな仕事の依頼があると言われたっけ……

 俺は、ようやく思い出したのである。

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