第48話 「新たなる架け橋」

 俺とベリザリオが3回目の酒盛りをして1週間が経った日。

 「いずれアヴァロンへ戻る」という彼の言葉が現実のものとなった。


 アヴァロンから送られた魔法鳩便が手紙を運んで来たのだ。

 表向きは西方にある某国からという形で、内容は帰国を促すモノである。


 念の為に言えば……

 ベリザリオとティナの正体を知る者は、ユウキ家では俺と嫁ズ、そしてタバサ。

 それと俺がカミングアウトしたアンリ、エマ夫妻。

 そしてデュプレ3兄弟、それだけ……

 以外の村民達は、ベリザリオ達が妖精だとはしらない。


 更に1週間後、ベリザリオの部下が馬車で迎えに来るという事も記してあった。

 多分、以前オベロン様とティターニア様が帰還したような時と、同じ趣きとなるのだろう。


 お約束というか、やはり我が家のお子様軍団はティナとの別離を寂しがった。

 しかし長女タバサを始め、月日は全員を成長させていた。

 再会の約束をした上で、悲しみをこらえ、しっかりと想い出作りに励んでいたのだ。


 一方、ベリザリオは、俺への『弟子入り』を宣言。

 1週間の時間はさすがに短すぎたが……

 魔法と武技の基礎指導を受け、僅かでもスキルアップするように徹した。


 特に彼が興味を持ったのは格闘技。

 俺が使った技の正体が、創世神様を総帥とする『天界拳』だと伝えたら、尚更興味津々であった。

 人間同様、膂力りょりょくには劣る妖精なので、少しでも参考にしたいと考えたようだ。


 だが天界拳の強さは各自の資質に大きく左右されるし、決まった型などもない。

 具体的な教授はほぼ不可能だったので……

 必要最小限、身体の使い方、身のこなし等を教えたのである。

 でもベリザリオに格闘の才能はあったようだ。

 破壊力はあまり変わらずとも、動きは格段に良くなった。


 そんなこんなで……

 1週間はあっという間に過ぎた。


 やはりオベロン様達の時と、全く一緒だった。

 当日の昼前、ケルピー《妖精馬》に曳かせた独特なデザインの馬車に乗ったベリザリオの部下2名が、ボヌール村の正門前に現れたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ……俺の心は既視感に満ちていた。

 かつてオベロン様、ティターニア様を見送った光景がまたも繰り返されるからだ。


 遂に今日、ベリザリオとティナの父娘がボヌール村を去る。

 天気はやはり快晴。

 気持ち良く晴れ晴れと、ふたりを送りだすには絶好の日よりである。


 お子様軍団の反応はといえば、やはりこれまでとは違う。

 大声で泣き叫んだりなどしない。

 

 これはタバサの功績が大きいかも……

 俺が見た所、元々長女として責任感の強い彼女は、

 リーダー役の重責をしっかりとこなしていた。

 

 自身が、テレーズことティターニア様に再び巡り会えた事から……

 今回邂逅したティナとも必ず再会出来ると信じ、

 堂々とした態度で別れを惜しんだ。

 それが、他の子供達へ好影響を与えたといえよう。

  

 しかしティナとお子様軍団は、テレーズの時同様、堅い約束もした。

 お互いの小指が、赤く染まるくらい何度も何度も。

 そう!

 ゆびきりげんまんを。

 

 ここでも率先して「げんまん」したのは、タバサであった。


「ゆびきりげんま~ん!」

「うそついたらぁ!」

「はりせんぼ~ん」

「の~ます!」


 お子様軍団の可愛い声が、正門前に何度も何度も響いた。


 そんなお子様軍団との別れの挨拶が終わると……

 ベリザリオとティナは嫁ズに挨拶をして回った。

 この時点で、タバサは俺の傍らに控えている。


 そして最後にベリザリオとティナは……

 俺とタバサの下へ来た。


 ここからは『お約束』の念話である。


『ケン様、タバサ様、改めてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました』

『ありがとう、パパ、タバサ』


 というふたりの挨拶に対し、俺とタバサも、


『ふたりとも気を付けて帰ってくれよ、オベロン様、ティターニア様に宜しくな』

『ティナパパ、ティナ、必ずまた会おうね!』


 ベリザリオは挨拶が終わった後、何かを待つように見守っている。

 一体どうしたのかと思いきや……


 ティナから、お子様軍団と交わしたのと同様、指切りげんまんをお願いされたのだ。

 俺とタバサは指切りげんまんをした後、

 改めてベリザリオを呼んで、全員でフィストバンプも交わした。


 ベリザリオとティナは俺とタバサを名残惜しそうに見つめていた。


 なので俺は、


『別れは……再会への第一歩だ。俺はそう思う』


 と、言えばティナがにっこり。


『あは! 別れは……再会への第一歩って、やっとケンがティナにも分かる事を言ってくれたよ、ねぇ、タバサ』


『うん! タバサにもパパの言う事は分かるよ!』


『よっし! タバサ、また会おうね!』


『うん! 私とティナは親友だからね! 絶対にまた会おう!』


 更にティナが、俺を呼ぶ。

 実父ベリザリオと区別する特別な呼び方で。 


『パパ』


『おう!』


『プレゼントの約束……憶えてる?』 


『ああ、憶えてるぞ!』


『うふふ、私、ティターニア様から聞いたんだ。同じプレゼントをあげるねっ!』  

 さあ、今回も村長である俺の出番だ。

 嫌な役回りだが、そろそろ別れを切り出さなくてはならない。


「さあさあ、出発だ。全員で見送ろう!」


 段取りは前回と同様である。


 俺が事前の打合せ通りに手を振ると、物見やぐらに居る門番の義父ガストンさんと先輩従士のジャコブさんが、周囲を見渡し合図をする。

 

 敵は居ない、とりあえず安全。

 という、ゴーの合図だ。


 更に俺はアンリとデュプレ3兄弟へ指示をして、村の正門をあけ放つ。

 すると、村外の風景が目に飛び込んで来る。


 俺が村へ来る前から、ず~っと変わらない風景が広がる。

 広々した大草原が広がり、草が踏みしだかれた村道がまっすぐ街道へと伸びていた。

 見慣れた風景ながら、まるで大パノラマだ。


『じゃあ、また!』

『またね~、ティナ!』


 俺とタバサが最後の挨拶をすると、

 妖精の父娘は深々とお辞儀をした。

 そしてふたりが乗り込むと、すぐに馬車は走り出した。


「さようなら~!」

「気を付けて~!」

「元気でね~!」

「またね~!」

「おねぇちゃ~ん!」

「やくそくまもってぇ! またきてね~!」


 俺達家族と村民の、別れを惜しむ大きな声を受けながら……

 ベリザリオとティナを乗せた馬車は正門を出て、地平線の彼方へ消えて行った……


 その瞬間。

 何と!

 

 やはり大空一杯に、『巨大な虹』が掛かったのである。

 ティナは約束通り、素敵なプレゼントをくれた。

 妖精と人間の間に『新たなる架け橋』を渡してくれたのだ。


「おおおおおっ!」

「すっごい!」

「大きいな!」

「不思議!」

「きれい~」

「素晴らしい!」


 広々した真っ青な大空に現れた、七色の美しい虹……

 その、あまりの見事さ。

 

 思わず、大きな歓声が上がった。

 俺だけではない。

 家族を含めて、村民全員が既視感に満ちあふれ、感動している。


 再び虹に見とれていたら、他の者に聞こえぬよう、

 タバサが念話を使い、話しかけて来た。


『パパから習ったよね? 七色の虹は……多様性、共存の象徴を表すって……意味が難しかったけど覚えたよ』


『そうか!』


『ええと、私達人間とティナ達妖精は勿論、全ての種族が仲良く平和に暮らして行くべきだって事よね?』

 

 そうだ、タバサの言う通りだ。

 現に人間、元女神、元魔王、妖精、魔獣、妖馬、妖獣……

 「郷に入っては郷に従え」の規則にのっとり、

 様々な種族がボヌール村では仲良く暮らしている。

 

『だな!』


『うふ! だからね! タバサのやりたい事、決まったよ!』


『おう、何だい?』


『タバサはね、パパの跡を継ぐ!』


 俺の跡を……タバサが継ぐ、継いでくれる!

 

 今回の旅行で何となく、分かってはいたが……

 実際、ストレートに言われると凄く嬉しい。


『お、おう!』


『パパがやっているみたいに! 全ての種族と仲良くなれるよう、ふるさと勇者を継ぐのっ! 一生懸命頑張るよっ!』


『そ、そうか!』


『まだまだ力不足だから! いろいろと教えてねっ!』


『おう! 約束する! いろいろと教えるぞ!』


 空にかかる巨大な虹を見ながら、愛娘と交わした約束を……

 俺は一生、忘れないだろう。


 けして離さない! 

 という意思で手をぎゅっと握って来る、タバサの温かさを感じながら、

 強く強く決意していたのであった。


※『愛娘と卒業旅行』編は、今回の話で終了です。

 ご愛読ありがとうございました。


 ☆皆様のご愛読と応援のお力もあり、

 当作品が『カクヨムコン5の中間選考を突破』する事が出来ました。

 本当にありがとうございます。


 もっと上を目指せるよう、より多くの方に読んで頂けるよう、頑張ります。

 更なるご愛読と応援を宜しくお願い致します。


 皆様の更なるご愛読と応援が、継続への力にもなります。

 暫く、次回パ-トのプロット考案&執筆の為、お時間を下さいませ。

 その間、本作をじっくり読み返して頂ければ作者は大感激します。

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