第14話 「王都散策①」
「パパ、オディルさんと出会った場所へ連れて行って!」
王都中央広場で、露店を何店か巡り、いろいろな料理を食べた。
ようやくお腹いっぱいになり、タバサとふたりでまったりお茶を飲んでいたら……
突然そう言われてびっくりした。
何故ならば……
今回タバサが最も行きたがっていたのがダントツで王立博物館、次いで同美術館だったから。
それが豹変。
オディルさんと出会った商業ギルドへ行きたいとは……
レベッカと王都へ来た際、オディルさんと出会った時の
もしかしたら、朝ご飯を食べた際、『コーヒー』絡みでお店の話をしたから?
「お店の運営にも興味が出た」とタバサは言っていた。
嬉しそうに目をキラキラ輝かせて。
それで商業ギルドへ行きたいって思ったのかな?
でも、まあ良い。
ノープロブレムだ。
繰り返しになるが、改めて言おう。
子供のやる気を削ぎ、将来への道を閉ざそうとするのは愚の骨頂。
敢えて言わせて貰う。
もしそんな奴が居れば『毒親』だと。
え?
言い過ぎだって?
いやいやそうは思わない。
確かに……
親とは子供を一生懸命育ててくれる偉大な存在。
真摯な愛をひたむきに注いでくれる、とてもありがたい存在だ。
だけど……
たまに居るじゃないか。
ありきたりの世間体に縛られ、「勉強しろ」ってバカのひとつ覚えみたいに繰り返して言う親が。
単に子供より長く生きているだけというくだらない経験則、狭い自分の価値観でしかモノを見ようとはしない……
子供の希望など一切聞かず、実現不可能なつまらない夢を見るなと罵倒し、強引に道を閉ざしてしまう。
あくまでも私見と断ってはおくが、俺は思うんだ。
多感な時期の子供に素敵な夢があるのなら、健康面だけには気を付けて、熱く励ましてやればいい。
間違った方向に進みそうになったり、進む道が分からず迷っている時には、さりげなく導いてやるのが良い。
もしも夢が叶わず……
子供が挫折し、己を見失いそうになったら、親としてしっかり守り、且つ支えてやれば良い。
少なくとも俺はタバサをそう育てる。
将来花開く可能性のある彼女の才能を、無残に摘み取ったりは、けしてしない。
好きな事は、却って仕事には出来ないモノ。
やめておけ、大変だ、苦労するぞ。
そんなしょっぱい事を言う人も居る。
そんな人にも言いたい。
自分の浅い経験で決めつけた言い方をするなと。
好きな事を仕事にしている人は巷にはたくさん居ると。
自分が果たせなかった、叶わなかった夢を、
もしも子供が追おうとしているならば、
素直に応援してやれば良い。
己が明日を生きる糧を得る為に働く……
いろいろな事情の人が居るから、あくまで基本的にだが……
生きて行く為には、誰しもが働かなくてはいけない。
もしもそれが楽しい事、嬉しい事、生き甲斐になる事ならば……
それを仕事にするのが可能であれば……
無理だ! とか余計なバイアスをかけて欲しくはない。
好きな事がイコール仕事……
こんなに素敵な事はない。
だから……
なりたい職業が、いくらあっても構わない。
いや、彼女が面白がり、興味を持てる新たなものが見つかればもっと良い。
「商業ギルドへ行こう」とせがむタバサを見ながら、俺はそう考えていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
以前レベッカと来た時と商業ギルドは全く変わってはいない。
5階建てで、高い壁に囲まれており、正門には門番が立っていた。
レベッカも同様、タバサもその威容にびっくりしている。
幸い、レイモン様が企画主催する例のイベントは本日も行われていた。
手順は分かっているので、中へ入って手続きをする。
イベントの開催場所は1階奥の大ホール。
建物5階分まで吹き抜けになった造り。
床は綺麗な板張り。
相変わらず、大勢の人達が、大中小の簡易ブースのようなものを作って、俺達みたいな来訪者にアプローチをしていた。
改めて説明すると、このイベントの趣旨とは……
出展者である商会、商店、個人の職人の宣伝、扱い商品のアピール、人材募集など多岐に渡っている。
俺は辺りを見回した。
そして少し寂しく、虚しくもなる。
以前ナイフを作っていたオディルさん……
彼女の姿は当然ない。
そして、ここに居る誰もが、オディルさんの事などあまり憶えていないだろう。
膨大な時間の中、僅かな時だけ人は生き、死んで行く。
やがて、人々の記憶からも消えてしまうのだ。
かつて……
あのベアトリスが悩んでもいたっけ……
と、感傷に浸っていたら、
「パパ、凄いね」
タバサが掴んでいる俺の服の端を「くいっ」と引っ張った。
「そうだな。これは昨日お会いしたレイモン様がお考えになったのだよ」
と俺が返せば、
「へぇ、でもパパ、何が一体どうなっているの?」
タバサの質問は尤もだ。
このイベントが何の為に何故行われているのか。
当然そう思ったのだろう。
まともに説明しても分かりにくい。
そこで俺は言葉を変え、意味をかみ砕き、分かり易く伝えてやった。
例えて言えば、エモシオンのアンテナショップでボヌール村のアピールをするのと同じだと。
そう告げたらタバサは何とか理解してくれたみたい。
「パパやレベッカママみたいに、何か素敵なモノが見つかるかなぁ」
とか言っている。
いろいろ見て回ったが……
タバサが特に気に入ったのが、食器を製造し売るお店。
俺は陶芸には全く素人。
村では専業の職人は勿論、趣味としてたしなむ人も居ない。
だが、ここで行われていここでるミニイベントは、前世でも聞いた事はある。
ほら、『素人焼き物体験』って奴。
タバサが「やりたい」とせがむから参加費を払って、ふたりで早速参加。
トライしたのは、小型のマグカップ製作。
魔法を使って作っているらしく、短時間で意外なほど綺麗に仕上がった。
「わぁ!」
歓声をあげたタバサは、自分が作ったマグカップを愛おしそうに見つめている。
俺が作ったものと一緒に包装して貰うと、大事そうに抱えた。
そして、
「パパ、困った」
「ああ、困ったな」
これだけで父娘ふたりの会話は成り立ってしまう……
結局、タバサは午後いっぱい他のブースもじっくり見て回った。
当然俺も付き合った。
やがて時間が来て……
イベント終了の魔導鐘が鳴る。
「タバサ、今日はもう終わりみたいだぞ」
と言えば、タバサは満足そうに笑い、
「パパ、ありがとう」
と、熱く囁いてくれたのである。
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