第13話 「中央広場にて」

 オディルさんの墓参りを済ませ……

 俺とタバサは王都の街中を歩いている。

 時間はそろそろ昼時。

 

 と、ここで何気なく気が付いた。

 どこぞの誰かのセリフではないが……

 腹が……減った……

 それも、結構な腹減り具合だ。


 食べ盛りのタバサも同じようである。

 思わせぶりなアイコンタクトを俺へ送って来た。

 

 さすがは父娘おやこ

 息が「ぴたり!」と合っている。

 たとえこんな些細な事でも、俺はとても嬉しくなる。


 まあ、ここは『小さなお姫様』を安心させ満足もさせるのがナイト、

 否、ふるさと勇者の務めである。

 と、いうわけでお誘いするとしましょうか。


「タバサ、飯食いに行こう」


「うん! お腹空いたよねっ」


 打てば響けとばかりに元気よく返事をするタバサ。

 そして俺の手をぎゅっと握り、ぐいっと引っ張る。


「パパ、今度はどこ? どこに連れて行ってくれるの?」


 と、予想通りの質問。

 そして答えもしっかり用意済み。


「まあ、任せろ。考えてある」


「本当? どこ?」


「まだ内緒。でも企画はばっちりさ」


 と、これまたどこぞの『最強魔法使い風』の口癖で返せば……

 俺とタバサの足取りは一気に軽くなる。


 うん!

 タバサを連れて行く場所は既に決まっているのだ。


 やがて……

 王都の中央広場が見えて来る。

 「がやがや」と喧噪も聞こえて来る。

 

 いや、喧噪だけではない。

 時たま不可思議な音も混在している。


「え、何々?」


 好奇心旺盛なタバサが、すぐ音に反応し耳をすます。

 だが、音だけでは終わらない。

 暫し歩けば、まるで祭りのような光景が目の前に広がった。


 ボヌール村やエモシオンとは比べものになたない、王都セントヘレナの広大な中央広場……

 相変わらず、たくさんの人々でにぎわっている。


 そしてタバサのような子供は勿論、大人の俺が見ても面白そうな見世物や大道芸がたくさん行われていたのだ。


 ぐるりと見やればあちこちに大小の人だかりが出来ている。

 やかましいくらいに、様々な鳴り物が響いている。


 おしろいをたっぷり塗り、どが付く派手なメイクをした道化師はおどけた仕草で老若男女を問わず笑わせている。

 小柄な軽業師は空中回転やバック転など、信じられないほどアクロバティックな動きを見せている。

 きわどい衣裳を着たスタイル抜群の美しい踊り子が華麗なステップを踏んでみせている。

 かと思えば、きちんと正装した手品師が、帽子の中から魔法鳩を飛ばしている。


 見物する人々は……

 パフォーマー達の一挙手一投足に、驚き、どよめき、大いに喜んでいる。

 タバサも目を輝かせ、弾けるような笑顔となり、俺の手を「ぐいっ」と引っ張った。

 空腹だった事も、すっかり忘れてしまったらしい。


「パパ! 凄いねっ、面白いよっ!」


「ああ、凄いし、面白いな」


 そう言いながらも……

 愛くるしい我が娘の言葉と仕草に、俺はまたまた感動していたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 30分くらい……

 いろいろなパフォーマンスや見世物を見物しているうちに……

 

 まず俺の腹が「ぐう」と大きく、

 続いてタバサのお腹が「くう」と可愛らしく鳴った。

 やっぱり父娘だ。

 

 俺とタバサは顔を見合わせ苦笑する。

 というわけで、昼食にするとしよう。


 目の前には簡易な造りの、たくさんの露店が並んでいる。

 傍らに設置された、簡素なテーブルと椅子で食事をしている者も多い。


 思い起こせば……

 この付近は以前、グレースそしてレベッカとも楽しく食事をした場所だった。


「タバサ、いろいろあるから、少し、偵察してみようか?」


「うん! たくさんお店があるよね! 偵察しようよ、パパ!」


 意見が一致した俺とタバサの目の前に、数多ある露店の陳列台には……

 作り立ての美味しそうな料理ばかりがズラリと並んでいる。


 様々な食材を使った、料理の香りが辺りに充満しており……

 タバサは大興奮している。


「パパ! 良い香りっ! どれもこれも美味しそうっ!」


 タバサは俺としっかり手をつないで歩きながら、あちこち見回していたが……

 とある露店に目が止まった。

 

 それは……

 野生の兎や鹿の肉を捌いて串に刺し、焼いて売る店である。

 前世でいうジビエ料理。

 まあ、よくよく考えれば村で食べるのと変わらないが……

 ホテル同様非日常なシチュエーションが良いのだろう。

 

 「じゅうじゅう」と肉の焼ける音、

 香辛料が加わった刺激的な香りが、タバサを釘付けにした。

 彼女は空いている手を「ぐるん」と回し、料理を「びっ」と指さした。


「パパ! あれが食べたいっ! 決定!」


「おっし! 了解っ!」


 俺は即座にOKの返事をし、空腹の為、串焼きを多めの4人前買った。

 愛想の良い店主は「サービスだ」と言い、果実のジュースをおまけに付けてくれ、傍らのテーブル席を指さした。 


 どうやら店主は俺とタバサを客寄せにしたいらしい。

 ジュースはその報酬といったところか……


 でもそんなの全然問題ない。

 混雑した広場で、座って落ち着き食べる事が出来るから……

 却って大歓迎だ。


 俺とタバサは満面の笑みを浮かべ、席に着くと、串焼きにかぶりついたのであった。

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