第21話 「とりあえず……ハッピーエンドで帰ろう①」

 悪魔メフィストフェレスと対峙した3日後の朝……

 俺とアマンダは、彼女の故国イエーラを出発した。

 

 ふたり一緒にボヌール村へ帰るのだが……

 来た時同様、転移魔法を使わず、飛翔魔法フライトを使い、雲ひとつない大空を飛んでいる。

 周囲の広大なフィールドは、鮮やかなスカイブルー一色だ。


「イエーラに来た時と同じにしたい。ボヌール村へ帰る途中まで空を飛びたい……今の幸せな気分を広い大空で存分に味わいたい。そして、遥かな昔にフレッカであった頃のふるき良き思い出にたっぷりとひたりたい」

 

 再び、そう告げたアマンダ。

 俺と一緒に大空を飛びながら、ボヌール村へ帰還きかんする事を望んだのだ。

 

 ちなみに俺の従士・妖精猫ケット・シーのジャンは既にフェフには居なかった。

 一昨日おとといの事……

 「俺の役目は終わった。さっさと帰りたい」と抜かしたので、転移魔法でひと足先にボヌール村へ送ってある。

 

 まあ、生意気を言っても、今回も奴は大いに尽力し、貢献してくれた。

 なので、たっぷりねぎらってから帰した。

 ボヌール村へ帰ったら、奴の大好物である鱒の蒸し焼きをご馳走してやろう。


 という経緯けいいで……

 愛し合う俺とアマンダはふたりきり。

 周囲はハッピーエンドを祝うかの如く、真っ蒼な大空というわけ。

 

 俺がふと眼下を見やれば、濃い緑一面の森が広がる。

 ところどころ、萌黄色もえぎいろの草原も見える。

 太い線のように、流れている川も見える。


 ボヌール村への帰途を急ぐ為、猛スピードで飛んでいる。

 だから俺とアマンダ、ふたりが見ている様々な景色が目に入っては、あっという間に後方に飛び去って行った。

 

 さっきからず~っとその繰り返しである。

 景色さえ若干変われど、至極単調だ。

 

 でも……

 アマンダは俺に抱きかかえられながら、満足そうに笑っている。

 彼女の笑顔を見て、思わず俺も顔がほころぶ。


 え?

 お前は何か、大事な報告を忘れてはいないかって?

 ああ、はいはい。

 ですよね。

 3日前、深夜の森に呼び出された事でしょう?

 「魔王軍の仲間に」と勧誘された結末はあの後、どうなったかって?

 

 うん、それがまたまた呆気なかった。

 ほら、思い出してみて。

 俺が即座にきっぱり断ったじゃない。

 「絶対に嫌だ」と伝えたら……

 悪魔メフィストフェレスはまたもやあっさりしたものであった。


 あの時……


『今度はこっちから行くぞ』


 よし!

 隙あり!

 と見て、

 俺が気合を入れて反撃しようとしたら……

 

 何と!

 メフィストフェレスは片手を「ひらひら」左右に振って、まさかの制止アピール。


『おっと、ストップ、ケンさん。またはジャストモーメントぉ~』


『はぁ? ストップ? ジャストモーメント?』


『はい! 貴方と戦うのは、残念ながらまたまた中止となりました』


 ストップとか、ジャストモーメントかって?

 悪魔が前世地球の言葉を使うとは。

 その上「残念ながら戦うのはまたまた中止」だって?

 

 こいつぅ、いい加減にせい!

 ふざけるのも大概たいがいにしろ!


 思わず俺がムカッとしたら……

 例によってメフィストフェレスの奴め!

 冷酷非道な悪魔の癖に、虫も殺さないような爽やか笑顔を向けて来る。

  

『いやぁははは! あっぱれですねぇ。感動致しましたよ、ケンさん。貴方が魔力吸収の高位魔法を使うとは、全然想定外でした』


『全然想定外?』


『はい! 実に見事な魔法でしたよ。私に内緒でこっそり練習していたんですかぁ? さすがレベル99のふるさと勇者です! やりますねぇ、凄いですねぇ』


 おいおい!

 何故、そこまでめる?

 悪魔が勇者を褒めたたえても何も出やしないぞ。

 

『黙れ! 決着をつけるぞ、戦いに応じろ』


 と、俺は戯言ざれごとをスルーし、メフィストフェレスを睨み付けた。


 しかしメフィストフェレスは、にやにや笑う。

 俺の視線も心の叫びも全く無効化。

 遥か上を行く華麗なスルー。

 

 そして再び、メフィストフェレスは片手を左右にひらひら振る。

 

 またそれか?

 「今度はどういう意味だよ」と思ったら。

 何と!

 「さよならバイバイ」の意思表示だった。


『さあて、もう行きますかね』


『は? もう行く?』


『はぁい! 一見暇そうに見えて、実は私、結構売れっ子。超が付く忙しさなのです。だから、そろそろおいとま致しますよ』


『おいおい! 帰るって何だ? お前が勝手に呼び出しておいてか? それもこんな夜中に!』


『はぁい、こんな真夜中に、私が勝手に呼び出しておいてなんですが、とっとと帰ります。ケンさんとは素敵なデートも出来た事だし、何か問題がありますか?』


『…………』


 男の……

 それもおじさんみたいな悪魔とデート?

 

 無言というか……

 呆れてモノも言えない俺……


『あははは、そんなに唖然あぜんとしないでください。大いなるあるじには良い報告が出来そうだから嬉しいのです。次の機会にまたお会い致しましょう』


『次の機会? それに良い報告って、何だよ。魔王軍への勧誘なら俺は、はっきりと断ったからな』


『ふふふ』


『何が可笑しい? 仲間になるなんて、俺はひと言も言ってはいないぞ』


『いやいや、それより』


『それより?』


『はい、ところでケンさんはこのような言葉をご存知ですか?』


『何だよ? いきなりこのような言葉なんて言われても知らねぇ』


『では、大サービスで教えてさしあげましょう。様々な難題も時間

が全てを解決する……という名言です』


『はぁ?』


『時が全てを解決する……何という素敵な言葉なのでしょう。けして忘れずに良く憶えておいてくださいね。では失礼致しますよ、ケンさん。アディオ~ス、アミ~ゴォ』


『あ、こら! 何がアミーゴだ! 俺はお前の親友なんかじゃねぇ! 人の話を聞け!』


 俺はメフィストフェレスを何とか引き留めようとした。

 奴のような凶悪な悪魔を放置していてろくな事はない。

 バックに居る『大いなる主』……魔王らしき存在も気になるし。

 

 今後の為にも、俺は何らかの形で決着をつけたいと奴を止めたのだが……

 前回出会った時同様、あっさり消えてしまったのである。

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