第22話 「とりあえず……ハッピーエンドで帰ろう②」

 まさか……

 あんなに怒ったメフィストフェレスが……

 180度気持ちを切り替え、あっさり撤退するとは思わなかった。

 

 何故ならば、大いなるあるじ、すなわち魔王が……

 人間である俺の事を気に入っていると、奴が言った時……

 激しい嫉妬心が沸き上がったのか、奴の怒りは本気モードだったのに……

 

 大体、俺にはメフィストフェレスの思考が全く分からない。

 いきなり深夜に人里離れた森へ呼び出し、仲間になれと誘い……

 その上、急にケンカを吹っ掛け、俺が断ったら……

 話を曖昧あいまいにして誤魔化し、速攻で勝手に帰るなんて……

 

 巷で言う二重人格、

 いな、三重人格を遥かに超えたあいつの超複雑な性格は……全く読めない。

 本当に変わった奴だ。

 

 まあ悪魔でも千差万別なのだろう。

 エリゴスみたいなシンプル直情型だけではない。

 悪魔だって人間同様、いろいろなタイプが居ると学び認識しただけ、良い勉強になったと思おう……うん。


 こうして……

 悪魔問題もとりあえず先送りみたいな形ではあるが、一応は決着した。

 

 とりあえずメフィストフェレスに関しては綿密な調査を行い、戦いの準備をしながら様子を見る事にしよう。

 俺とアマンダは話し合い、そんな意見で一致した。

 

 まあ、事が事だけに管理神様へ報告&相談する必要もある。

 クーガーの時同様、途中まで任せるみたいな……

 微妙な『放置プレイ』になる可能性も否めなくもないが。


 そうそう、もうひとつ。

 一番大事な事に、お前は今迄一切触れていないって、

 皆さんは、思い切り突っ込みたい頃でしょう?

 俺が最も肝心な問題を手つかずの『未処理』だと思ったでしょう?

 

 そう、愛するフレッカことアマンダと結婚する許可を貰う事。

 彼女の両親と、兄アウグストから祝福される事を。

 しかしご安心を。

 心配ご無用。

 完全にノープロブレムなんだ。


 ふたりの結婚は当初の旅の目的ながら、他の案件に比べたらあくまでも私的な事。

 だから、打合せの最後にソウェルのイルマリ様へさりげなく伝えたら……

 意外にも、大きな身振り手振りのリアクション付きで凄く喜んでくれた。

 

 イルマリ様が俺とアマンダの結婚をとても喜ぶ!?

 想定外の状況に俺は驚いてしまった。

 

 人間を嫌い見下し、偏見に満ち、超保守派だったイルマリ様が……

 変われば変わるものである。

 でもイルマリ様は俺と話して「自分が間違っていた」と改めて自覚したのだろう。

 

 イエーラの宰相就任を断った俺が、同族のアマンダと結婚すると聞き、イルマリ様はこう言ってくれた。

 「宰相就任を断られ、縁がなかったと一旦は諦めたお前と、これで確かな絆が出来た。アールヴ族との血縁的な結びつきが出来た」


 と素直に喜んでくれたのである。


 結果、イルマリ様は俺とアマンダの結婚について、凄く尽力してくれた。

 何と!

 説得の為、翌日にわざわざアマンダの実家エルヴァスティ家へ出向いてくれたのだ。

 

 突然のソウェルの訪問。

 一族の長のお出ましに、アマンダの両親とたまたま実家に在宅していた兄アウグストは吃驚仰天。

 

 イルマリ様は正直に、俺の説得によるものだと、方針と政策の大転換を告げた。

 俺の諫言が、いかにアールヴに貢献したのかと力説してくれたのだ。

 その上、緊張する両親とアウグストへ、俺とアマンダの結婚に関して熱心に説得もしてくれた。


 アマンダの家族は更に大仰天。

 何故なら、俺とイルマリ様が長年の知己のように親し気に話しているのを目撃したからだ。

 

 結局、満面の笑みを浮かべて……

 俺にぴったり寄り添うアマンダの幸せそうな笑顔を見て、アマンダの両親はしぶしぶ納得。

 理由は後述するが、俺にいろいろ恩のあるアウグストだけは密かに大喜び。

 彼女の家族は全員結婚を許してくれたのである。

 後はコミュニケーションをしっかり取り、種族を超えた新たな家族として、心の絆を深めて行けば良い。

 

 ああ、そうそう。

 これも言い忘れていた……

 下手をすれば、国家転覆の『大陰謀』を企んでいたクラウスとアウグストであるが……

 俺とイルマリ様の打合せ通りの運びとなった。

 

 まず俺の禁呪魔法で悪魔メフィストフェレスの悪しき波動の影響をケア……

 次にイルマリ様が『方針の大転換』を話すと、ふたりは感動し、国の為に一生懸命貢献すると誓ったのだ。


 その上でふたりと話したら……

 やはりというかエリクサー密売の件は、

 「質素な暮らしをしているアールヴ族を何とかしたい」という真面目な気持ちからだと告白した。

 

 心の底から反省していた事もあり……

 反逆未遂の大罪にもかかわらず『執行猶予』という形となった。

 「二度はないぞ」という約束が俺以外に、イルマリ様とふたりの間にも交わされた。

 

 全てが俺の願い通りとなった。

 イルマリ様の『寛容さ』がいかんなく発揮され……

 クラウス達はめでたく『おとがめなし』という事になったのである。

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